テラーノベル
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リンの体が私の腕の中で崩れそうになる。
「ぼく……ぼくのせいだ……
甘さに閉じこめたから……ミルを苦しめた……
ぼくがミルを作ったのに……!」
「リン! 違う!!」
私は強く抱きしめた。
「ミルは嫌で消えたんじゃない!!
最後までリンのために生きたんだよ!
それは、リンの心が優しいからだよ!!」
「……のあ……」
泣きそうな声でリンが名前を呼んだ。
「ミルが教えてくれたでしょ?
“進むことでしか心は守れない”って。
だから……行こう」
リンはきゅっと唇を噛み、
震える手で扉に触れた。
「……うん。
行くよ。のあと一緒に」
その瞬間、扉がひとりでに開いた。
光ではなく、影でもない。
“味の渦”のような世界が広がっていた。
甘さ、苦さ、酸っぱさ、しょっぱさ、渋さ、痛み、幸せ——
全部の感情が混ざりあって渦巻く場所。
リンの心の核。
「行こう、リン」
「……うん。そうだね」
二人で、渦の中へ踏み出した。
リンの心の、いちばん奥へ。
足元の道は、さっきまでと違ってやけに静かだった。
甘い匂いも、奇妙な気配もない。ただ、ひんやりした風が私の髪を揺らしていく。
「リン、この先って……何があるの?」
私が問いかけると、ミルは少し間を置いてから、小さく笑った。
「まだ言えないよ。でも、のあが見たらきっと驚くと思う。」
「驚く……って、いい意味の?」
「さあね」
そう言って歩く後ろ姿は、いつもより少しだけ影が長く見えた。
どこか、寂しそうにも。
どれぐらい歩いただろう。
気づけば前方に淡い光が揺れていて、近づくほどに、空気が温かくなっていく。
「わぁ……」
視界がひらけた瞬間、私は息をのんだ。
そこには、夜空のように真っ暗な空間が広がっていて、無数のキャンディ色の光がふわふわと漂っていた。
星でも蛍でもない。だけどどれも生きているみたいに脈打っている。
「ここ……どこ?」
「“キャンディ・アーカイブ”だよ。ボクたちの記憶が集まる場所」
「記憶?」
リンはひとつの光球を手に取る。
淡い桃色の光がふわっとミルの横顔を照らした。
「ひとつひとつが、誰かが失った記憶なんだ。ボクたち“お菓子の国のもの”は、これを守る役目がある」
「……リンも?」
問いかけると、リンは目を伏せた。
「うん。でも、もうすぐ終わる。ボクの役目も、この国も」
「えっ……どうして!」
胸がざわついた。
さっきまで“甘くて変な世界”としか思ってなかったこの場所が、急に違う顔を見せはじめている。
「この国は、人間の『忘れたい気持ち』から生まれてるんだ。甘さは、その苦しみをやわらげるため。
でも……だんだんと“苦しい記憶”の方が増えすぎちゃった。お菓子だけじゃ抑えられなくなってる」
「だから……壊れそうってこと?」
「うん。そして――」
リンは、ゆっくり私の方を向いた。
「のあ。きみがここに来たのには、ちゃんと理由があるんだよ」
胸の中がドクッと跳ねた。
「え……私? 理由って……何?」
「それはね――」
リンが言葉を続けようとしたその瞬間。
ふいに空気が振動し、あたりの光が一斉に揺れた。
まるで、巨大な何かが“目を覚ました”みたいに。
「っ……まずい!」
リンの表情が一気に強張る。
「のあ、後ろへ!」
「え、なに――」
ズズズ……ッ!
足元の闇が、ゆっくりと形を変えた。
黒い影が膨らみ、巨大なアメのような塊になり、それは粘つく音を立てながら広がっていく。
「“カース・グミ”が来た……!」
「な、なにそれ!」
「記憶の中でも、とくに“人が抱えきれなかった気持ち”が固まったもの! 触れたらのあでも――!」
「えっ、待って、どうすれば!」
「走る!!」
リンが私の腕を引き、光の海の中へと駆け出した。
背後では、ドロリとした影が私たちを追ってきていた。
心臓が、もう痛いくらいに跳ねてる。
だけど、リンの手はぎゅっと私の手を握りしめていた。
この手だけは、絶対に離しちゃいけない。
そんな気がして――私は必死に走った。
コメント
1件
今回も楽しいお話ありがとうございました!!敵怖いんだろうけど、お名前でちょっと可愛く聞こえちゃう笑 忘れたい苦しい記憶も抱えて行きていかないといけないと思うんですけどね。続き楽しみにしてます!!
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める @つん&語尾にゃん♡