弱いから　　完

あの頃のように、渡辺が少しずつ変わってくれた。

泣かなくなった。

目黒に震えなくなった。

やっぱり好きかも、と思うようになる。

弱い自分が嫌なのは変わらない。

だけど、こんな自分に「好き」と言ってくれる。

それを、嬉しいと思うようになった。

4ヶ月目。

あの最初の頃のように、目黒がそっと手を差し出すと手を重ねてくれる。

目黒ー翔太くん、好き。

渡辺ー前みたいに好きになりたい。

目黒ー待ってる。

渡辺ーん。

スタジオでも、以前と同じように一緒にいる。

ぎこちないけれど、笑って話もしている。

その姿を遠くから見て。

佐久間ー氷河期は終わりかな？

岩本ーまだちょっとずつじゃないか？

阿部ーでも、翔太が柔らかい顔してる。

目黒や渡辺と一緒にいるラウールや向井は感じ取っている。

渡辺が目黒に対して優しくなったこと。

少しずつ甘えていること。

目黒ー翔太くん、街の教会に連れて行ってくれる？

渡辺ーいいけど・・。

目黒ーまだ、指輪出来ないんでしょ？

渡辺ー・・。

目黒ーいいよ、無理しなくて。

渡辺ー行って何するんだ？

目黒ーフランスを思い出す。

渡辺ー・・。

多彩なステンドグラスの光の中、2人は椅子に座っている。

目黒は、何も言わない。

ただ静かに座っている。

やがて・・。

目黒ー翔太くん。

渡辺ーん？

目黒ーいっぱい怖がらせちゃったね。

渡辺ーうん。

目黒ー2回とも、翔太くんが弱いんじゃないから。

渡辺ー俺が弱いの。

目黒ー俺くらいの体格でしょ？

渡辺ーん。

目黒ー敵うわけないじゃん。

渡辺ーそうかもしれないけど！

目黒ー2回目は肌をボロボロにしなくて良かったよ。

渡辺ー肌が余計に酷くなるって分かったから。

渡辺は泣く泣く我慢したのだ。

見つかるときっと嫌われると思っていたが肌をボロボロに出来なかった。

後々、酷い目に遭うのは自分だと分かっていたから。

あの日から半年が経った。

渡辺が変わってくれた。

目黒をいっぱい好きになってくれた。

練習日。

渡辺の首にはチェーンがつけられている。

目黒は仕事で少し遅れる。

そろそろ来るだろう時間に、ラウールが控え室に向かった。

ラウーめめ！

目黒ー遅くなった。

ラウーいいこと教えてあげる。

目黒ー何？

ラウーしょっぴー、首にチェーンしてるよ。

目黒ーホント？

ラウーうん。

目黒ー行こう。

ラウー良かったね。

走ってスタジオに行く目黒。

渡辺を見る。

首にチェーンしてる。

渡辺の脇に手を入れて、抱き上げる。

目黒ー翔太くん！

渡辺ー下ろせ！

目黒ー良かった。

渡辺ー分かったから！

ぐるりと一回りして渡辺を下ろす。

渡辺は、目黒に寄りかかる。

目黒は渡辺を抱きしめて「嬉しい」と言う。

皆んな、何事かと目黒を見る。

渡辺の首からチェーンを引っ張り出す。

「あっ」という声があちこちからする。

阿部ー翔太。

佐久間ー翔太。

岩本ー目黒、翔太。

深澤ーさ、初めからやり直し。

渡辺ーバカバーカ。

目黒ーすみません。