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僕の名前は、安倍晴明。百鬼学園で教師をしている、ごく普通の人間だ――もっとも、この学園において「普通」という言葉がどこまで通用するのかは怪しいけれど。
今日は、僕の親友について話したい。
彼の名は、神酒凛太郎。
案の定、今日も彼は遅刻してきた。
今まさに学園長室から聞こえてくる怒声が、その証拠だ。
「どうして貴方は、毎度毎度遅刻するんですか!」
「だって、早起き苦手なんやもん……」
ため息混じりの声とともに、「減給です」という決定打が下される。
凛太郎くんは、子どものように肩を落とした。
「それだけは堪忍してぇ……」
無情にも却下され、彼は半泣きになった。
「どんまい……」
小さく声をかけると、凛太郎くんはぶつぶつと不満を漏らす。
「人間、ひとつやふたつ苦手なことくらいあるやろ……」
「人間じゃなくて、妖怪でしょ」
「……そうやった」
こういう、どこか抜けたところも含めて、彼は愛すべき存在だ。
外見は整っていて、いざという時には頼りになる――間違いなく、僕の大切な親友。
けれど、そんな彼にも、僕はあることを隠している。
それは、背中に、大きな傷があること。
高校時代、その傷を理由にいじめを受けた。
それ以来、僕はその事実を胸の奥に押し込み、誰にも語らなくなった。
親友にも、恋人にも。
そして明日は、水泳の授業がある。
授業中はライフジャケットを着用するため問題はない。
しかし、着替えだけは避けられなかった。
百鬼学園では、午前中に学年ごとに水泳の授業が組まれている。そのため、教師たちは朝の時間帯に一斉に着替える必要がある。
逃げ場はない。
仮病を使うことも考えたが、これで三度目ともなれば、不審に思われるのは明白だった。
「……できれば、使いたくなかったんだけどな」
そう呟き、僕は職員室を出た。
向かった先は、保健室。
「たかはし先生、いますか?」
「いるけど、どうしたの……って、二人の時は下の名前で呼んでって言ったよね」
彼――明くんは、保健室の先生であり、僕の恋人でもある。
「ごめん、明くん」
「もう。二人きりの時くらい、恋人らしくしてほしいな」
柔らかな声に、胸の奥が少しだけ温かくなる。
「それで、どうしたの? あっ、もしかして怪我した!?♡♡」
「ううん、違う」
少し間を置いて、僕は話し始めた。
自身の背中の傷のこと。
そして、明日の着替えのこと。
「なるほど……それで、保健室で着替えたいんだね」
「……駄目かな」
「全然いいよ。明日の朝、ここにいるから」
その一言に、胸の奥に溜まっていた不安が、静かにほどけた。
「ありがとう、明くん」
思わず笑顔になると、彼は一瞬言葉を失い、次の瞬間、顔を背けた。
「……可愛すぎる」
「っ……からかわないで」
「からかってない。本心」
耐えきれなくなって、僕はその場から逃げ出した。
「もう……」
背後で、明くんの小さな笑い声が聞こえた。
「本当なのにな……」
そして、何かを思い出したように、彼は静かに呟く。
「土曜日、予定ないって言ってたよね……」
「覚悟してね、お兄さん」