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かみさまの顕在

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かみさまの顕在

1 - 見透かさず

♥

1,027

2024年12月23日

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忘れられてしまいそうで怖い。寂しくて仕方な

い。


ついていけない。


俺は、必要とされていないのだろうか?


いつか全部要らなくなって、

俺の下から飛んでいって。


二度と手が届かなくなるくらい遠くまで


きっと蝶みたいに羽ばたいていく。


彼の背中には奇麗な羽根が生えている。


少なくとも、俺にはそう見えた。



少しでも制作で疲れ切った元貴の支えになりたいと思い、1日だけ家に泊まり主に家事を手伝うことにしたのが昨日の夜くらい。


ご飯を作ったり、洗濯物を片付けたり、掃除をしたり。


家政婦でも雇えばできそうなことだけど、潔癖な元貴は知らない人間を家にあげることを嫌ってその結果俺が来ることになった。


鍵をかけた薄暗い部屋で制作を続けている元貴を、俺は静かに見守ることしかできない。


佳境に近づいていくうちに元貴は荒れてゆき、完全に俺も手出しができなくなった。


あんなに多忙を極めた彼を支えられない自分の無力さが憎く思う。


なにより大変なのは元貴なのに、勝手に俺がダメージを負っているのは何故だろうか?


普段幼馴染兼バンドメンバーとして対等な関係を築けているつもりだったけど、思い悩む元貴にはなーんにも出来ない。


元貴に対する想いは所詮その程度なのか?と自問自答を繰り返し悲しみに明け暮れる。


だけど嫌われたくなくてやたら献身的になっている自分も心底気持ち悪いとも思う。


矛盾した感情で身を焦がしてもなんの意味がないことはわかりきっていた。



どうしたらこの感情は消えるのだろうか。









───ドンッ、!!!!




「あ゙あ゙ぁ゙、クソが、っ、」





元貴の部屋からものすごい物音と咆哮が聞こえてくる。

畳みかけの洗濯物を放り投げて、元貴の部屋に走った。



「大丈夫、!?」




髪はぐちゃぐちゃに乱れて、目は充血して。

床の上には物が散乱している。




「…若井?」




俺を見るなり顔を顰めた元貴は、取り乱した姿を見せてしまったことに対する苛立ちで俺を突き飛ばした。


壁に背中を打ちそのまま崩れ落ちた俺のもとに近付き、髪を鷲掴みにする。



「痛い、よ、」




「………はは、ッ。あは、ね、若井?」




覗き込むのは虚ろな目。

背筋を冷たいものが走る。

いやだ。

嫌われたくない。




「あ、ぁっ、ごめん、気が利かなくて、…その、

すぐ飲み物とか、もってくるから」




「要らない」





「え、」




「……そっか、ごめん。本当にごめん、なんで俺ってこんなに空気読めないっていうか、察するの下手なんだろ、ごめん、あの、嫌わない、で 」



無能。

その二文字が頭の中を旋回する。



「いや、あのさ、」



「焦りすぎだって、なんでそんな必死なの」




「別に怒ってないし」




「そんなに俺のこと好きなの?」




「え、?……ぁ、え?」




唐突な問いに揺らぐ心。

何が何だかわからずやっとの思いで「うん」と木偶の坊の返事をすると、「そっか」と一言だけ返して自室に戻っていった。


扉が閉められて、廊下に一人取り残される。

ぐるぐる回る思考に振り回されて暫く放心していた。ふらつきながら立ち上がって元貴の様子を見に行くと、ベッドの上でぐっすり眠っている。

ほんの少し、安堵した。




「……怖かった、なぁ……、さっきの元貴」




恐ろしいものを見てしまった。

無関心な大衆も、コンテンツ化され消費されていく元貴の感情も真正面から受け入れられる気がしない。

けど、受け入れられないままでも良いんだ。

誰も彼も触れられない、触れてはいけない神聖な彼だから。

理解なんて一生かかってもできないだろう。






家事もあらかた終わり、次は何をしようかと考える。



「そうだ、元貴のへや…」



突き飛ばされた一瞬で見えた部屋の中は荒れ果てて、まるでゴミ屋敷のようだった。

寝てる元貴を起こしたらひとたまりもないけど、何とかバレずに掃除してみせる。



「失礼しま〜す………」



声を殺して部屋に入り、まずは床に散らばる紙を拾い集めた。

よくよく見ると、それは歌詞の書かれたノートの1ページたち。

良くないとは思いつつも、気になって中身を読んでしまう。



「……え……」



「なに、これ……」




真っ白な1ページに鉛筆で描かれた世界は、驚くほどに美しく狂気的だった。


ダイアモンドみたいに綺麗で煌びやかだけど、鋭利な刃物を隠し持っているよう。


常人じゃとてもじゃないけど思い浮かばないようなワードセンスに、鋭い感性。


メロディーを聴く前に、俺は完全にこの曲に、元貴の綴る詩に魅了されていた。



ああ、やっぱり、元貴はすごいんだな。

元貴のことを心から崇拝するのと同時に棄てられる恐怖に苛まれて、誰ひとり残らず虜にしてしまう才能を秘めた彼に末恐ろしささえを感じた。

彼のせいでどれくらいの人間が筆を折ることになっただろうか?


その異才に、与えられるだけの一方通行な関係に、心酔すると共にさっきのことを思い出す。


神様のように全てを見透かして、いつだって仮面を取ろうしない。

人格者で人気者の彼がえらく生々しい一面を俺にだけ見せたんだ。

弱みも醜さも分かったふりをして嚥下していくたび禁忌を犯したような罪悪感が襲う。


曲がりなりにも歩み寄ろうとしてみるが、彼にとっては意味をなさないんだろう。

神様はいつだって孤独で、孤高な存在だから。

彼にとっては俺も、退屈な有象無象としてラベリングされる日が訪れると考えるだけで悲しくて悲しくて張り裂けてしまいそうだった。



彼がひとたび繕った弱さを見せると、わかったつもりでいるだけの浅ましい群衆が群がる。


親しみやすさを演出するための材料でしかない、計算されたわかりやすい「弱さ」。


完璧人間というキャラクターに踊らされたあとは、人間くささに安心して理解者のふりをする。


本当に信用なんかされていないのに、彼の本心なんてわかるはずがないのに好かれたいという下心で大衆は躍起になって無意味な言葉を送りつけるんだ。


なかには「完璧」な彼が見せた人間味に焦っていたり、バカの一つ覚えで共感してみたり、上から目線なアドバイスしてみたり。


そんな奴らを見て、ほんの少し奇妙な優越感に浸っている自分がいた。


彼は俺だけに、本当の姿を見せてくれるから。


彼と言う名の不可解に悩まされて悲しくなるのを誤魔化すように、密かに嘲る。


だけど、偶像崇拝に似た感情も同じく彼に抱いているせいか、こちらに向けられる血みどろの矛先は未だに怖いと思う。

あの大衆と変わらない。



いや、それどころじゃない。




結局、




一番、俺が醜くて浅ましいんだろうな。









頬を伝う涙を拭い、拾った紙を揃えて机の上に乗せた。




「ごめんね、」




聞こえないくらいの声量で呟く。

汚くて、頭がおかしくて気持ち悪い俺でごめん。

本当は元貴のそばになんか居られないって、痛いほど理解はしてる。

それでも、大切な元貴に、隣で笑っていてほしいって願いを捨てきれない。

神様を拝むように崇拝する気持ちと彼の醜さを喜んで享受する相反した気持ちを抱えて。


気づきたくなかった。

気づけなかった。


俺は、彼のことが好きなんだ。


こんな淀んだ恋心は初めてで、もうすっかり彼に狂ってしまっている。




「すき、だよ…元貴、」




涙が彼の頬に落ちて、きらきら輝く。

気づいてしまったからには、もう。




「バイバイ、だね」





天使のような彼の寝顔が、すこし険しくなった。

今起きられたら泣いてることがバレてしまう。

ずれた毛布をかけ直してあげて、そさくさと部屋を出ようとする。


が、




「あれ、わかい…?」





運悪く、彼は目覚めてしまったのだ。

心臓が跳ねて、足がすくんで動かない。


早く逃げないと。



「ねえ、なんで無視すんの」



「なんで泣いてんの?」



「ねえ」



「ねえってば」




最悪。

泣いてることまでバレてしまった。

なりふり構ってられないので思いっきりダッシュして逃走する。





「逃げんなって、」





「うわっ!?」




寸前で、捕まってしまった。



「捕まえたー!!」



腕をぐいぐい引っ張られ、豪快にベッドの上に押し倒される。




「あ、ちょ、」




「ね、泣いてるのはなんで?」




隙を見て脱出したいけど、逃がすまいと俺の手首を握り上に乗られて無理そうだ。




「……もしかして、俺のせい?」


そんな悲しそうな顔しないでよ。




「ちがうよ、別に元貴とは関係ない」




「嘘つき」




「俺の目見て話せてないじゃん」




「こっち見てよ」




「やだ、……」




「じゃあ正直に言ってみ?なんで泣いてるの」




「………………なんか、」




「…よく、………わかん、ない」




「俺のこと、好きなんだもんね?」




「あ、いや、あれは、違くて」




今ここでちゃんと「好き」と言えたらどれだけ楽だろう。

情けないなぁ。

恥じらいと申し訳なさで涙は止まらない。

死にたくなった。



「本心じゃ、なかった?」




「……わかん、ない、ごめん、」




「さっきからわかんないしか言ってないね」




優しく、そっと指を絡ませる。




「いいよ、分かんないなら、俺が一から十まで全部全部教えてあげるから」




耳元で囁いた声で体が震えた。

期待とは裏腹に、何か良くないものを感じ取る。




「ねえ、これから何するの?」




「教えてあげない♡」




両手で頬を包み込み、顔を近づけられる。




「まって、なに、やめて!!!」




神様の前では、脆い人間なんて下等生物にすぎない。


柔らかな唇が触れるたびに自分という群れをなした個体を司る自我にヒビが入る。


触れられたら、終わり。


分かっていたのに拒むことができない。


頭の中が真っ白になり、着実に俺は破壊されていった。


片手が頬から離されたら、今度はいやらしい手つきで 内腿をさする。

もう片方の手はしっかりと俺の右手と繋いだまま、時折握るような仕草を見せた。


「俺は、若井のこと好きだよ」



「若井はどう思ってるのかな、俺のこと」



「こんな気持ち、抱いてるのは俺だけかな」



ずるずると底なし沼の泥濘に引き込まれて喰われて、「好き」と言う言葉が脳を掠めるとぐちゃぐちゃの感情が引き摺り出される。

好きだって、言いたいのに言えない。



「もっかいキスしていい?」




「っやだ、これ、怖い…」




「怖いんだ、?」




「食べられてる、みたいで……」



熱で融けた瞳を向けると、元貴は嬉しそうに目を細めた。



「ん゙、」



上唇をなぞられて、抵抗する間もなく舌が侵入してくる。

舌先を吸われて無理やり蹂躙されると、元貴が俺の内側にまで入り込んでくるような感じがした。



「俺のこと、どう思ってるの、」



真剣に問いかける。





「…言ってくれなかったら、寂しい、」




「若井はいつだって俺に優しくしてくれるけど、俺は同じように優しくできない。

若井に酷い態度を取っちゃったことなんていっぱいあるのに、若井は全然そういうところ見せようとしないよね」





「………だって、」



「だって?」





「俺、元貴に、嫌われたくなくて…」



「なんでよ、」




「最低なこと考えてるから、 」





「最低なこと?」







「…具体的に、教えてほしいな」




もう、後戻りはできない。




「元貴のこと、神様みたいだな、って。

元貴が放つ言葉も、見せてくれる世界もすごく綺麗で、いつもすごいなーって思ってる。

誰よりも優しくて、才能に溢れてて 。

完璧すぎてたまに怖くなる 」



「俺のこと崇拝してんの?」



なにもかも見透かされてる。



「ほぼ、そんな感じ」




「分かった、続けて」





「元貴のこと神様だと思ってるのに、なのに俺、さっき言ったみたいに優しくない元貴を見ると、ちょっと嬉しいって思っちゃう。

みんなが知らない元貴を、俺だけが知ってるんだなって。」



「そういうこと考えるたびに自分が気持ち悪くて、心が綺麗な元貴なんかと一緒にいられないって、だから、せめて嫌われたくないからいい人のふりしてる、だけ」





「いや、めっちゃ俺のこと大好きじゃん」





「…え?」






「俺だって、若井が言うほど御大層な人間じゃない。それに、若井が抱いてる気持ち、知れて嬉しかった。

若井の気持ちは最低なんかじゃないよ、すっごく澄んでて愛おしい」



「え、いやいや、ぇ?」



「照れるんだけど、」




「だから、俺のこと諦めないでほしいなぁ」





「好きなら自信持って良いんだよ。

理解できない、なんて思わないでよ。

拒まれてるみたいで悲しくなるから」



「…へ、」



なんで、俺の考えてることがわかるんだろう?

あまりにも当たりすぎてなんと言い返せばいいかわからない。




「なん、で、」




「あ、図星?」




「え、うん、」



「ははっ、」




「 俺は若井に結構本心とか曝け出してきたつもりなんだけど、伝わってなかったな。

寧ろ若井のほうが何考えてるか分かんないって俺は思うけど」




「でも、さっきからいろいろ言い当ててる」





「なんでだろ、やっぱ俺が”神様”だから?」




「やめてよ、」




占い師のように、的確に心の内を暴く元貴。

彼の鋭い感性あってこそ成せる技だろう。



「…なんかマジで、心読まれてる気分だった…」



「すごいでしょ?これ、俺の特技ね」




ほら、やっぱり彼は神様なんだ。


嘘が一切通用しないところとか、

考えてることがお見通しなところとか。




「難儀だよね、人の心読めちゃうのも」




「まあ便利は便利だけどさ、知りたくないところまで知っちゃうと嫌になる」




「たしかに、?」





「…でも、若井のことちょっとだけ理解できたから本望かな、俺は」




「なにいってんの、」




「あ、あと、二度と俺から離れようとしないでね?」



「約束して」




「こんなんされたら、離れられなくなるに決まってるじゃん、」




耐えられなくなって、元貴の胸元に顔を埋める。

そっと抱きしめ返してくれて、多幸感に支配された。

彼からはもう多分離れられないし、彼には一生敵わないんだろうな。




手を取って、二人きりで見つめ合う。



「ねえ、若井?」



「なに、元貴」





「もっと狂って、俺に依存していいんだよ」



「俺がいつも若井のこと傷付けるみたいに」




「若井の全部、俺のものにしたい」




彼の瞳から光が消えた。




「若井が考えてることも俺で悩んでることも全部見てきたから」



「…………どういうこと、」




「気づいてなかったかな?」




「嫌われたくなくて必死になってたり、俺がちょっと不機嫌になったら焦りだすお馬鹿ちゃんな若井、最高にかわいかったよ」



「こんな簡単に人って振り回せるんだ、チョロって思った」



「あと突き飛ばして髪の毛掴んだ時のあの顔、」



「あのまま犯してやりたいくらいだったなぁ、♡」



「あんなに必死になっちゃってさ、ほんと可愛い」





「え、」





「書きかけの歌詞見られたのはちょっと許せないけどね」



今まで信じてきたものが音を立てて崩れ落ちる。


やめて。



「俺は若井が思うより優しくないけど」





「いっぱい傷つけて、その分甘やかすし」





「はやく俺に堕ちてくれるの、待ってるから」





「冷たくしたり優しくしたりするのって思ったより効果的なんだね」



「若井が俺のせいで壊れてくの見ると、興奮する」




視界が狭窄してくる。


また、恐怖に飲まれる。




「…嫌いになったりしないよね?」






「今のは全部、俺の本心だけど」





「醜い俺も愛してくれるんだもんね!」





「神さまとして一生、そばに居てあげるから」







言葉を失った。



俺が信仰していたのは、



俺が見てきたのは、





きっと、























─────────────────────




END









終わり方決まらなかった、めっちゃ雑でごめんなさい

かわいそかわいい若井さんでしたね。


あと普通に描いててつらすぎて病んだ






















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