君は、今日も言葉を探すように、口を少し開けては閉じる。
何か言いたいんだろうけど、言葉が形になるまでがゆっくりで、途中で迷子になるみたいだ。
そういうところが、たまらなく愛おしい。
「……な、に……?」
やっと絞り出した声は、か細くて、頼りなくて、俺に縋るみたいに震えていた。
「別に。君がそこにいるって、それだけでいいんだよ」
君は俺よりはるかに大きな世界を持てたかもしれないのに、外に出るのは怖いらしい。
戸締まりの音に安心して、俺の影を探すように部屋を歩く。
外に出れば眩しくて、音が多すぎて、息の仕方さえわからなくなるらしい。
だから俺が、全部管理してやる。
君の生活も、君の予定も、君の時間も。
そのほうが、君も楽だろ?
「……で、も……」
君が不安そうに首をすくめる。
「でもじゃない。俺が決めるって言ったら決めるの。君は俺の言った通りにしてればいいんだよ」
強めに言い切ると、君は少し怯えながらも従う。
その反応が、胸の奥をじわりと満たす。
罪悪感の形をした甘ったるい快感が、喉の奥に貼りついた。
君は俺を必要としてる。
俺も君なしじゃ落ち着かない。
この部屋は狭いけど、君の息遣いが聞こえるなら十分すぎる。
「……すき……」
言葉が崩れたままの小さな声が、俺の胸に落ちてくる。
「知ってるよ。君は俺だけ見てればいいんだ」
君の指が俺の服の端をぎゅっと掴む。
逃げるためじゃない。
縋るために。
この関係はきっと健全じゃない。
でも、手放すなんて無理だ。
俺がいなきゃ君は外の世界で迷う。
君がいなきゃ俺は中身の空っぽな大人に戻る。
依存と支配で出来た関係。
でも、それが“愛”じゃないなんて、誰が言える?
夜が深くなるほど、君の呼吸は俺に溶けていった。
閉じたカーテンの向こうの世界より、
この暗がりの中で君が俺だけを見ている瞬間の方が、ずっと現実味がある。
コメント
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良いですね!