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いつもの商店街で買い物を済ませた帰り道。
会計の時に渡されたのは、一枚の「福引券」だった。
会場まで足を運ぶと、小さなテントが見えてくる。
アニメやドラマでよく見る、あの「ガラガラ」が置いてあった。
「……ここか」
にこやかな笑顔の係員に、券を渡す。
「はい、お預かりします! それでは5回挑戦してくださいね。特等はなんと、旅行券です!」
俺は看板に書かれた旅行先を見もしなかった。
どうせ当たりっこない。 タダでティッシュがもらえるなら、それで十分だ。
無心でガラガラを回す。
白。
ほらね、そうそう上手くいくはずがない。
そう思った次の瞬間――。
銀色が飛び出してきた。
「おめでとうございます! 特等の旅行券です!」
係員がベルを思い切り鳴らす。
信じられない気持ちで、さっき無視した看板を二度見した。
『特等:自由の世界行きの旅行券』
自由の世界? ハワイやグアムじゃないのか?
「はいはい、それではこちらへどうぞ」
係員が持ってきたのは、なぜか無地のカップラーメンのような容器だった。
彼はおもむろに、その中にお湯を注ぐ。
「しばらくすると現れますから、お待ちください!」
言われるがまま、俺はそのカップを見つめた。
……がたがたっ。にゅるん。
中から白い煙のようなものが這い出し、みるみる人の形になっていく。
「ふいーっ。地上に来るのは不便だなぁ。まあ、これが今の『器』だからしょうがないか」
目の前に現れたのは、頭に輪っかをつけた天使だった。
「はじめまして! 私は天使アンリです。気軽にアンリさんと呼んでください」
「あの……これは一体?」
「え? 福引で特等を引いたでしょう? 私は『自由の世界』への案内人です」
次の瞬間、アンリさんは俺の手を掴んで空へと舞い上がった。
「それじゃあ、行きますよ!」
重力が消え、ふわっと体が浮く。
しばらく飛ぶと、名もなき小さな施設が見えてきた。
「さあ、着きましたよ!」
砂浜に降り立つと、アンリさんはコホンと咳払いをして説明を始めた。
「この世界は自由です。あなたが何をしても構いません」
「あなたらしく生きても、生きなくてもいい。誰かに迷惑をかけても、誰かを不幸にしてもいいんです」
「誰もあなたのことを見ていませんし、気に留めていません。何せ、自由ですから」
アンリさんは言葉を続ける。
「責任を持つ必要もありません。あなたの発言、行動、思考を否定する人は誰もいません。すべてがあなたを肯定してくれます」
「リスクはゼロ。あなたにとって都合の良い言葉と、気持ちのいいことしか起きません。……どうです? 気に入りましたか?」
俺は大きく頷き、その世界へと足を踏み入れた。
「あ、戻る時は呼んでくださいね」
そう言って、アンリさんは俺のポケットの中へと消えていった。
そこは、まさに天国だった。
出会う人は皆、いい人ばかり。
学校の愚痴、部活の悩み、家族のこと、彼女のこと。
何を話しても、彼らは満面の笑みで同意してくれる。
「それは辛かったね。わかるよ」
「君は頑張ってるんだから、気づかない周りが悪いんだ」
「家族なんか関係ないよね! 君は君の人生なんだから勝手にさせてって思うよね!」
「彼女も君の気持ちがわかってないんだよ。新しい子をここで見つけたら?」
俺は、今までの苦労が報われた気がした。
ああ、俺は間違っていなかったんだ。
しばらく話し込んでいると、お腹が空いてきた。
周りの人々も同じだったらしく、皆が自分のポケットに話しかけ始めた。
「お腹が空いたから、元の世界に戻るよ」
すると、全員のポケットから天使が飛び出してきた。
「了解しました! お連れしますね!」
俺のポケットからも、アンリさんが顔を出す。
「楽しかったでしょ? それじゃあ戻りましょうか」
また手を引かれ、宙に浮く。
「…………」
気がつくと、俺は家のベッドで横になっていた。
手元のスマホを見ると、アンリさんからメールが届いている。
『自分を引かれた世界は楽しかったですか? また行きたいなら、自分を引いてくださいね!』