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昼休み。
待機室の空気は少し重たかった。
恒は、ギアの袋を抱えたまま、壁にもたれて座っていた。
ひろは、恒の顔をちらりと見た。
いつもより、目の奥がぼんやりしている気がした。
「……眠い?」
恒は、目を閉じたまま答えた。
「ちょっと。昨日あんまり寝てない。」
ひろは、何も言わずに自分のバッグを開けた。
中から、個包装の飴をひとつ取り出して、恒の膝の上に置いた。
恒は、目を開けてそれを見た。
「これ、なんだ?」
「ミント。ちょっとだけ頭すっきりするやつ。」
恒は、しばらく飴を見つめていた。
それから、ふにゃっと笑った。
「ありがと。」
ひろは、何も言わずにうなずいた。
その顔は、いつもより少しだけ真面目だった。
恒が飴を口に入れるのを見て、
ひろはギアの袋を整えながら、静かに思った。
こうが疲れてるときくらい、僕が何かしてもいい。
それくらいは、してもいい。
ミントの飴が口の中で溶けていく。
恒は、その冷たい感覚をぼんやり味わいながら、ひろの方を見た。
ひろは、ギアの袋を整えていた。
何も言わず、いつも通りの手つき。
でも、恒にはわかっていた。
さっきの飴は、ただの気まぐれじゃない。
恒は、少しだけ姿勢を直して、ひろに声をかけた。
「……ひろ。」
ひろは、顔を上げた。
「ん?」
恒は、言葉を選んでいた。
でも、うまくまとまらなかった。
「なんか、今日は……やさしいな。」
ひろは、ふにゃっと笑った。
でも、その笑顔は少しだけ照れていた。
「こうがぼんやりしてるから、ちょっとだけね。」
恒は、笑いながらうなずいた。
その笑顔の奥に、少しだけ戸惑いがあった。
守る側だったはずなのに、
今は、守られているような気がした。
それは、悪くなかった。
でも、慣れていない感覚だった。
ふたりは、また黙って準備を続けた。
でも、空気は少しだけ変わっていた。
恒は、胸の奥で思った。
ひろが強くなっていくのは、
少しさみしいけど、うれしい。