その日はそのままお母さんお手製の魚料理を堪能して休んだ。お母さんは地球からのお土産に含まれていた調味料の研究を始めてた。今回はソース系が中心だけど、やっぱり日本の味噌や醤油なんかが欲しくなる。いや、ソース味のお魚は斬新だったけどさ。
塩味以外の料理は何気にアードでも初めての試みだったと思うよ。
フェルは余程疲れていたのか、私が部屋に戻ってもぐっすりと眠ったままだった。お母さんの手伝いだから、多分魔法関係だと思う。フェルは魔力が桁違いだし、魔法の適性も高いからね。
アードでは純粋な科学の産物は意外と少ない。大半が魔法の理論を組み合わせているんだ。
こればっかりは地球に技術提供をしても意味がない。マナを扱えないと使用するのが難しい。
トランクとか医療シートみたいな道具は使えるけど、解析は不可能だ。マナを扱えないと意味不明だからねぇ。
「おやすみ、フェル」
私はフェルを起こさないようにそっと隣に潜り込んでそのまま目を閉じた。
翌朝、フェルが静かに目を開いた。
「おはよー、フェル」
「ティナ……?あっ、おはようございます!ごめんなさい!先に寝ちゃって!」
フェルが慌てて身体を起こした。気にしなくて良いのに。
「大丈夫だよ、フェル。お母さんを手伝ってたんだよね?そりゃ疲れるって」
家事全般?当たり前のようにドロイドがやってるよ。たまにお母さんが手料理を作るくらい。
だからアード人の調理スキルは地球人に遠く及ばない。手料理を作るお母さんは珍しいタイプだ。となれば、手伝いは魔法関係になる。
「はい……ティアンナさんのお手伝いが魔法関係だとは思いませんでした。マナが空っぽになっちゃって」
困ったように笑うフェルを見て私は深いため息を吐いた。どれだけ酷使してんのさ、お母さん……。
いやまあ、フェルが頑張りすぎたって言うのは何となく分かるけどね。
「ある程度で止めなきゃ危ないよ?」
体内のマナ……魔力とも言うけど、保有量は個人差が激しい。私は平均を大きく下回る。逆にフェルはとんでもない数値になるらしい。
お母さんが精密検査してくれた数値を見たけど……これチートじゃない?フェルも転生者とか言うオチはないよね?
「気を付けます……ティナ……」
ちょっと俯いたフェルは、そのまま私を優しく抱きしめた。私は平均より小柄で、逆にフェルはリーフ人としては背が高くて発育が良い。
で、ベッド上でお互い座ったまま抱き合えばなにが起きるかと言えば、その豊満な胸に埋もれてしまうんだよねぇ。前世なら大喜びだよ。いや、今でも嬉しいけどさ。
「フェル……?どうかしたの……?」
フェルはなにも言わずに抱きしめる力を強めた。ちょっと苦しいけど……震えてる……?
ザイガス長官に言われたことを気にしてるんだろうなぁ。フェルは優しいから、自分の存在がアード人とリーフ人の友好関係にヒビを入れたんじゃないかってね。
アリアの話だと、思い悩んでいたらしいし……はぁ、傍に居てあげたかった。
「大丈夫だよ、フェル。ずっと一緒だからね」
だから私は、フェルの背中に手を回してフェルを抱きしめた。不安な気持ちを少しでも癒せるように。
『朝からお楽しみでしたね』
「ふぇっ!?」
「それ、意味が違うからね?」
しばらく抱き合って、フェルが落ち着いたのを見計らって私達は身支度を整えた。着替えてる最中にアリアが意味深なことを言ってフェルが慌てて私はジト目をブレスレットへ向けた。
お母さんが用意してくれた朝食を頂いて、そのまま里にある唯一のお店にやってきた。実はばっちゃんが経営してるんだよねぇ。
大木をくり貫いた一般的なアードの住居なんだけど……外見がスゴい。いや引く。
先ず壁にデカデカと描かれたデフォルメされたばっちゃんの絵だよ。しかもウインクしてダブルピースでハートマーク盛りだくさんの奴。
あちこちに翼をイメージした装飾品や『毎日がハッピー☆』『ティリスちゃんスマイルをプレゼント☆』とかの台詞。そしてお店の色合いは何故か虹色で目が痛い。
最後に大きな看板には『鬼カワ☆ティリスちゃんマーケット☆』とか書かれてる。何故か無駄に達筆な虹色で。
それにしても貴重な塗料をこれでもかと使ってる。アードじゃ塗料の値段は地球の十数倍だからねぇ。
「う……わぁ……」
うん、隣で呆然としてるフェルの気持ちはよく分かる。
「凄いよねぇ」
「えっと……個性的ですねっ!」
「無理しなくて良いんだよ、フェル」
フェルはやっぱり優しい。
取り敢えず圧倒されてるフェルを連れて店内へ入ると。
「わぁ!」
別の意味で驚いてくれたみたい。広大な店内には雑貨品から食べ物まで多種多様な品が所狭しと並んでる。明らかに外見よりずっと広いけど、これは拡大魔法の応用で空間を広げているからだよ。アードでは一般的だったりする。
利用できるような土地が少なくて、地球みたいに広い土地を建物に使う余裕が無かったから生まれた文化だよ。苦肉の策とも言うかな。
とは言え、この規模は桁外れの凄さだ。ばっちゃんもふざけてるけどああ見えて千年を生きてる長老だからね。その魔法技術は見るものを圧巻する。これで普段から真面目だったら素直に尊敬できるんだけどなぁ。
「長生きのコツはね、如何に楽しく生きるかだよ☆」
「ひゃあっ!?」
「さらっと人の心を読まないでよ、ばっちゃん。あとフェルがビックリしたじゃんか」
いきなり後ろに現れたばっちゃんである。神出鬼没も大概にしないと妖怪認定されちゃうよ。
「美少女に妖怪とは失礼な☆」
「美少女(長老)なんだよなぁ(笑)」
「笑うな☆」
いつものようにふざけあってると、フェルが固まってた。まあ、普通はビックリするよねぇ。
「フェル、この無駄にクネクネしてるUMAはティリスさん。ここの里長なんだ」
「UMAって?☆」
「ばっちゃんみたいな存在、かな」
「???」
首をかしげてるフェルが可愛い。さて、お買い物を済ませて今日中に宇宙へ出て地球を目指さないと!
……なにを買おうかなぁ。
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