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そこは海の中だった。
息ができないと思い、私は息を止めた。
すると、
「あはは、大丈夫、大丈夫。俺の手をつかんでれば溺れないし、息もでき
るよ」
何馬鹿なこと言ってるんだろう。
と思ったが、もう溺れる覚悟で息を吸ってみた。
すると、普通に息ができた。
どうゆうこと?
「ねぇ、なんで息できるの?」
「えっんー、秘密!」
海里はニシシッと聞こえるぐらいの笑顔を見せた。
その笑顔が私にはどれだけ綺麗で不思議だっただろう。
海と一緒に映し出される、その何もかも忘れてしまうような笑顔は綺麗だ。
それでも、あなたにはとても、不思議がある。
まだ、知らない海を知ってくように、海里のことも知りたい。
「なんで息できるのかは秘密だけど、海にとっては嬉しいんじゃない?こんなに海に触れ合えてるのは」
でも、今は海里のことを知っても何もならない。
確かに海里の言う通りにこの海を楽しみたい。
「うん!すっごく嬉しい!」
「じゃあ、俺の手を離さないでね!」
そういった海里は、海をものすごい速さで進む。
私は必死に海里の手につかまって、でも、しっかりと海を楽しんで。
海里がすごく速いけどこれぐらいがちょうどいい。
だけど、海里が速いっていうより、海が速い…?
どちらでも、この楽しさは変えられない。
大好きな海は本当に綺麗だ。
荒立つ波の色も、その中に住んでいる魚たちも、全てが愛おしい。
初日の出と一緒に輝く海も、夕方の色んな色がある海も、本当に大好きだ。
あぁ、やっぱ私、海が大好きだな。
「やっぱ海は、海が好き?」
「うん、大好き」
「どんなものや人よりも?」
人…。
今まで好きになった人はいない。
恋愛でも友情でも。
誰もいない。
家族だって、私の家族は人が思う家族じゃないし、学校だって、
ずっといじめられてきた。
それが苦痛でたまらなかったけど、私には頼れる人も悩みを打ち明けれる
人もいない。
だから、人が嫌いだ。人間が嫌いだ。
今気づいた。私がここに来た本当の理由…。
授業をサボったから来たとか、そういう理由ではない。
きっと、私…死にたかったんだ。
そして、大好きな海に殺されたかった。
それでも、あまり勇気が出なくて。
やっと死のうと思ったら、天水 海里…あなたがいて。
死ねなかった。
でもさ、ほんとに笑える。
人間が嫌いで死にたくなったのに、人間と喋ってる、人間と手を繋いでる。
馬鹿みたい。
「うん、どんなものや人よりも大好き」
今は。
そう最後につけれなかった。
「そっか。それほど大事なやつなんだね」
と言いながら、最初の堤防の方へ行った。
「ここはもう浅いから、早く堤防に登ろうよ」
私は海から顔をだし、足がつくところまで海里に手を繋いでもらって、足がつ
いたところからは自分の足で堤防を上って行った。
堤防に座り、彼は言った。
「どう?楽しかった?」
「うん、すっごく!」
「それは良かった」
海里の顔を見て思えた。
彼は笑っているけど、海に入る前の彼の顔とは違う。
何か…無理をしている?
少しだけ、少しだけだけど、悲しそうな顔。
「あっそうだ。海はどこの高校に行ってるの?その制服だったら、海彩高か
な?」
「あっうん」
答えながら、自分の制服を見た。
濡れてない。
今、気づいたのが馬鹿みたいだ。
服に違和感なんてなかったし、海に入ったなら濡れて困るとでも思うのに。
「濡れてないのも、海里のおかげ?」
「あー、別に大した事ないから気にしないで」
「そう、分かった」
「…ははっ!」
「急に何?」
「いやー、海って結構面白いなって!普通、ありがとうとか言えよ!」
ありがとう。
ありがとうと本当の気持ちで言ったのはいつだろう。
きっと、何年も前かも。
もしかしたら、前世かも。
もう、全く言ってない。
言う必要がない。
でも、海里にだけは言えそうだな。
「ありがとう…これでいい?」
別にありがとうと正直に言えないわけじゃない。
ただ、久しぶりに言うから、緊張してるだけだ。
「これでいい?って、言ってる側なんだから、そんなこと言うなよ!」
彼は笑いながら言った。
「ちーがーうー!言わされてんの!」
「まぁそれもそうだな…」
「納得すんの!?」
「おぉナイスツッコミ!」
あーこれが友達ってやつ?
彼がははっと笑っている中で、小声で言った。
「楽しい…」
「ん?なんか言った?」
「何にも、言ってないけど」
「ふーん、そうだ、海、もうすぐ帰る?」
帰る?
帰らない。私は帰れない。帰りたくない。
それでも、
「そうだね、もうすぐ帰るよ」
「おう!じゃあな!」
彼は堤防を降り、そのまま西の方へ進んでいった。
私はその影が見えなくなるまで、ずっと見つめていた…見つめてしまっていた。
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