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「シンくんってさ、オメガなの?」
特に気遣う相手ではないから単刀直入に聞くと商店内を掃除していたシンくんの手が止まる。
モップを持ったまま振り返って僕を見たツンとした目付きは大して動揺している様子もなくて「そうだけど」とあっさり返事した。
「そういうお前はアルファだろ」
「あ、分かる?」
「何となくそうだろうと思ってた」
世の中には男と女、そしてアルファ、ベータ、オメガの5つの性がある。優秀なアルファは殺し屋にも多く、ORDERのメンバーもアルファが殆どだ。
少し前ならヒートで人を惑わすオメガは差別されていた。しかし現在はアルファの子を産めるだけでなく、抑制剤によりその能力も発揮できて能力的に低いという見方はされなくなってきているからシンくんもオメガだと知られても動揺しないのだろう。
「なんで俺がオメガだと分かったんだよ」
「ん?簡単だよー。三ヶ月前に一週間仕事休んでたでしょ?坂本くんはシンくんが風邪引いたって言ってたけど、家にもいないみたいだしオメガならヒート起こして何処か隔離してたのかなって」
つらつらと予測を言う間、シンくんは訝しげな表情で僕を睨んでいる。なんで俺が三ヶ月前に一週間休んだこと、坂本くんの家に居候しているのにいなかったことを知っているんだと言葉よりも如実に顔に出ていた。
「揶揄うつもりか?」
「まさか〜。たださぁ、今日のシンくんから甘い匂いがしてるんだよね」
以前のヒートから今日がちょうど三ヶ月が経つ。多少ヒートの時期にズレはあるけれど、殆ど大差ないのは調査済みだ。
匂い、と聞いたシンくんは咄嗟に自分の頸を手で隠す。さっきよりも動揺して揺れる瞳を見逃さなかった僕が一歩、シンくんに近づくとビクリとシンくんの肩が震えて一歩下がる。
「オメガの匂いって人によっていろいろらしいけど、僕ってどの匂いも気持ち悪くなって受け付けないんだ。だから最近までオメガが嫌いだったんだ」
「・・・」
また一歩、足を踏み入れるとシンくんも一歩下がるけど壁にぶつかった。流石のシンくんも僕には体格差や力では敵わないと思っているのか、僅かにモップを持つ手が震えている。
「でもシンくんの匂いって凄く美味しそう・・・」
「っ、おい」
「ねぇ、ヒートまだ起きてないんでしょ?ヒート起きたらもっと匂い強くなるんだよね・・・」
店内には僕とシンくんのみ。坂本くんやチャイナ娘は近所の人の頼まれごとを引き受けていないし、客も来ない時間帯だ。
壁に手をついて背中を丸めてシンくんの首筋に顔を埋めるとフワリと香る甘い匂いに口角が上がる。シンくんは僕の胸元を押して離れようとしているけど正直弱すぎる抵抗に感じた。
「僕、シンくんならイケそうかも」
「!・・・ふざけんな。アルファのそういう上から目線なところとお前の性格がマジでムカつく」
手の平で胸元を押していたけど、今度は拳で胸元を殴ってきたから仕方なく離れるとシンくんは舌打ちしながら睨む。
大抵のオメガは僕に抱かれたくて仕方ない筈なのに初めて拒絶されて目を丸くする。
「相手がいるの?」
「は?いねーよ。俺、アルファ嫌いだし」
「じゃあヒート中はどうしてるの?」
「南雲には関係ない」
それ以上は会話をしたくないらしく、僕の脇の下を抜けて早足で離れてしまった。このまま長く居座っても坂本くんたちと鉢合わせたら面倒だと感じた僕はもう一度シンくんに近付く。
「一応僕の連絡先入れておくねー」
「はぁ!?ってオイ!なんで俺のスマホ勝手に操作してんだよ!」
「シンくん隙だらけですぐ奪えたよ」
勝手にシンくんのスマホを拝借して僕の連絡先を入力したあと、シンくんの連絡先も僕のスマホに入力した。
「ヒート中に試しに僕とエッチしない?」
「やだ」
スマホを返すとシンくんはあからさまに嫌そうな顔をするから笑ってしまった。僕はもうシンくんに興味が出ているから「ヒートになったら教えてよ」と言ってから商店を出た。
アルファを毛嫌いしているあたり、過去にもオメガであることを蔑まれた経験があるのかもしれない。
──シンくんの匂いは特別だった。それなら番の契約をしちゃえばシンくんは僕のものになる?それかエッチの時に中出しすれば妊娠確定して番になってくれるかな?──
気付けばシンくんを自分のものにする為か考えていた。僕のことが嫌いでも所詮はオメガ、ヒート中にアルファがいれば抗えない本能が僕を欲しがるだろう。
「さてと・・・シンくんのスマホに位置情報共有アプリも入れたからいつでも会えるね」
胸ポケットからスマホを取り出してアプリを開くとシンくんはちゃんと坂本商店にいるみたいで動作も問題ないことを確認した。
これでヒート中に隔離する場所も特定できるし、ある程度の場所なら簡単に忍び込める。
──今度のヒートで、シンくんを僕のものにする。──
死ぬほど嫌いだった性がこんなにも嬉しく感じたのは生まれて初めてだ。僕はニヤつく口元を手で覆いながら、あのツンとした生意気な瞳が快楽に蕩ける光景を想像しながらシンくんがヒートになるのを待ち侘びた。
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