大会運営の指示通り壇上に上がり指定の位置まで歩き立つ。新人応援大会なんていう規模の小さな大会だから観客はそんなにいないと思ったが、壇上に上がって気が付く。そこそこ人が集まっておりよく見ると観客の中にスーツを着た大人たちが紛れていたり、有名な戦姫プレイヤーも見に来てたりと、意外と馬鹿にできない大会なんだとここに立って理解した。
スーツを着ている大人たちはここでの実力を見て将来性を踏まえたうえでスカウトをしようと考えてるのだろう。有名戦姫プレイヤーも似たような理由なんだろうな。だから、ほかの選手は変に緊張していたのかと思えば納得できるし、あの白衣の子が冷静なのもこれでうなずける。別に僕はここでアピールする理由はないがあの子に勝たないといけない理由があるので目立ちたくはないがそこそこガチでやらないといけなくなった。
会場を見渡している間にも司会はどんどん話を進めていき、気が付けば対戦カードを決めるコーナーに移っていた。
「…では!皆さんお待ちかねの対戦カードを見ていきましょう!今回はエントリー順に番号が振られており、その番号を使いこちらの方であみだくじを行った結果がそのまま対戦カードになります!では気になる第一試合を見てみましょう!」
その後、後ろのスクリーンにでかでかと対戦カードが映し出される。
「第一試合は、『戦姫大戦は弾幕で解決!?タクヤ&[A]リラ』VS『当たらなければどうということはない!?リナ&カナ』の対戦です!!」
な、なんか知らない間に変な前口上がつけられてる!?
「続く第二試合は、『結局オールラウンダーが最強!?ミクラ&カカルナ』VS『戦場に咲かせ爆破の花!コウタ&ボマー』の対戦です!」
「第三試合は、『マップを味方にする遊撃員!ユキ&アルル』VS『逃がしはしない!狙い撃つ!!ロール&スナイプ』の対戦です!」
「そして最後第四試合は、『人生も戦姫も一発逆転!?カズマ&ギャンブラン』VS『動きを読まれてる!?スズカ&ハナカ』の対戦となります!
すべての対戦カードを紹介し終えたので、さっそく第一試合に移りたいところですが、ここで一度休憩を入れまして再開は十分後とします!」
一通り選手の紹介が終わり壇上に上がった僕らも控室に案内され、戦姫の最終チェックを行うように指示される。が、僕は調整するまでもないのでお手洗いに行ったり飲み物を買いに外に出ることにした。
「……。なんか、変な前口上が付けられたな。」
「あんたが促したんじゃないの?」
「そんなわけないだろ。だとしたら『当たらなければどうということはない』なんて豪語しないわ。」
「確かに、その前口上だと戦う私が明らかな重荷だもんね。」
「だろ?まぁ、大会的に盛り上げが必要で勝手に付け足したんだろうけど……。」
「それよりも気になるのはあの白衣の子だよ?」
「対戦カードは第四試合……。本人の名前はスズカさん、もちろん偽名かもしれないけど。で、戦姫はハナカ。」
「前口上的に先読みを得意としてるみたいだけど、武装の情報は無し。」
「それはお互い様のはずだけど、先にこちらが手の内をさらけ出すことになるから不利ではある。」
「そうね。相手は最後の試合だから策を練る時間は十分すぎる。それに対して私らは時間はない。」
「最悪はアドリブで乗り切るしかない。」
「とりあえずは相手の戦法を確認してからって感じね。」
カナと軽く相談し自販機で買った缶コーヒーを飲み干し、ごみ箱に捨て壇上にと向かう。
「さぁ!お待たせいたしました!それでは早速第一試合を始めましょう!!では、選手入場!」
その言葉の後壇上の脇から両者が現れ対面する。
「ルールの確認から行きましょう!マップは固定の「シティ」で、制限時間は二分のタイムアップか相手のライフを先にゼロにした方の勝利です!外からの指示出しはありとしています!では、両者戦姫をバトルフィールドにセットしてください。」
指示に従いカナをマップに降ろして対戦開始の合図を待つ。
「始める前に意気込みだけ聞いてみましょう!最初はタクヤさんからお願いします!」
「はい!この大会が始めての大会ですが、変わらず普段通りを出せたらと思います!」
「ありがとうございます!実に誠実でいい回答です!!ぜひともそのいつも通りのプレイを見せてくれることに期待しましょう!では、お次はリナさんお願いします!」
こういうの苦手なんだよなぁ……。適当に話すか。
「えー……。僕も初の大会ですが新人戦でこけるのは嫌なのでそれなりにがんばります、というか戦姫に頑張ってもらいます。」
その発言に観客席にいたアキトとミカゲは呆れたり、笑っていたりしていた。
「あのバカ…。変に焚きつけるようなセリフ回しを……。」
「アッハッハッハ!!いいじゃないか?『それなりに』頑張るらしいからね。」
「壇上に上がったなら分かってるだろ……。いろんな企業がいることにさ。」
「だからこそじゃないかな?」
「はぁ?」
「あんな生意気な態度をとればスカウトはされないって踏んだんだろう。」
「だけど、あの発言のせいで多分司会は……。」
「おおぉぉぉおぉ!!これはまた意外な発言です!!先を見据えた発言とまるで初戦は眼中にないかのような強気な発言にも捉えられますね!その発言通りの戦果が上がるのか期待で胸が高鳴ります!
では、お待ちかねの戦姫大戦を始めたいと思います!皆様準備はよろしいでしょうか!!?
戦姫大戦レディー…ファイトォォォォォォォ!!!!」
「……。ほら、火をくべたから司会者が燃料を投下したしその燃料のせいで逆に目立つようになったやん。」
「彼の目的である天使創造計画が遠ざかりそうな気もしなくはないが、これがどんな風に作用するか見物じゃないか!」
「……。やっぱりあんた悪人だわ。敵視して正解、か。」
司会の対戦開始の合図で武装が解除される。マップは情報通りのシティマップで、今回のスポーン地点はビル群が右前にあるタイプで目の前は道路。その開けた先に相手の戦姫が見える。
前口上的に射撃武装がてんこ盛りだとは予想していたが、思いのほかそれなりには積んでいる。背部はミサイルポット付きのバックパックに腕部にガトリング。武器もアサルトライフルで、脚部は三連ミサイルポット付きのもの。確かに私が最初に相手にしたいタイプの戦姫だ。この機動力で弾幕をよけれれば大抵の射撃特化の戦姫は怖くない。いつかのミナとの練習ではビットやらファンネルやらの対策を早いうちに行ったが、あれとミサイル群はわけが違う。と、言うのもビットはビーム兵器で直線状に掃射されるが、ミサイルはその後着弾で煙が舞う上にかすればその時点で起爆する。そこがビットとの違いになるが…。
実はミサイルの方が対処は楽でもある。理由は単純で、こちらに来る段階で起爆させればいい。一つでも爆破させればその爆風でほかのミサイルも誘発されるので、意外と何とかなる。まぁ、脅威はミサイルの直撃ではなくその爆風だろう。視界を奪われては私の場合は攻撃が不可能だ。それに対して相手は、腕部にガトリングをつけている。爆風で見えなくても弾をばらまけば当たるもんだからな。
こちらの勝機は相手に近づくことだ。あの背部のミサイルパックは見た目通り重量がかなりあるため機動力はそんなに高くはないはず。腰部のバーニアがいいものなら話は別だが、そうそう手に入ることはないだろう。現に私もバトルスポットで手に入るカプセルを開けてきたがレアものの装備は出てもいまいちな性能ばかりだった。そのため、相手もEランク帯の装備で固めてるはず。なら、バーニアもろくなものはない。私は軽装にしているから同じバーニアでも性能をしっかりと引き出せている、このスピードとビル群をうまく使い近寄るのが今回の最適解かな。
「あんたのマスター大分豪語してたなぁ?」
「そうねぇ。あいつ馬鹿だから仕方ないかな。」
「それに、かなり信頼されてるみたいだが?」
「信頼というか他責なだけでしょ。」
「フフッ…。なんにせよあそこまで言われたら私も本気出しちゃうしかないじゃない?」
「いいよ?私もそのつもりだから。」
「それじゃ……。こいつは挨拶だぁぁ!!」
背部のミサイルをすべてこちらに向けて飛ばす。数として恐らく16連のミサイルだろう。撃ち落としてもいいが、きになることがあるため右前のビル群に隠れる。
ミサイルはカナを追従しそのままビルに激突し崩壊を始める。
「あぁぁっと!!?先制攻撃はリラ選手!激しいミサイルがカナ選手を襲う!しかし、とっさの判断で手前のビルを盾にして攻撃をかわす!!」
「やっぱりそのビルを使うよねぇ?それを見越してんよこっちは!!」
今度は腕部につけた二門のガトリング砲を構え、倒壊したビルめがけて乱射を始める。
「すかさずリラ選手ガトリング砲でカナ選手の退路をなくす!!やはり、弾幕はすべてを解決するのかぁ!?」
「アッハッハッハ!この物量なら生きてても致命傷だろう!!」
約十数秒の乱射を行い銃身が焼かれクールタイムをはさむ。倒壊したビルはさらに壊れ、瓦礫は小石にと変わるほどの惨状に変わり果て、隠れる場もなくなっているほどだった。
「これはまごうことなく私の勝ちね!」
「倒壊したビルにはカナ選手の姿はありません!まさか本当にやられたのかぁ!?あの弾幕の濃さなら否定は難しいでしょう!!」
「さぁ!私の勝ちを宣言しなさい司会の方!」
瞬間、勝ち誇ったリラのバックパックが何らかのダメージを負い爆発を起こす。
「きゃあ!?」
「あっと!?突然リラ選手のバックパックが爆発したぞ!」
「ダメだよぉ?慢心は、さ?」
耳元でそうつぶやき背面から蹴りを入れ、前に吹き飛ばす。
「ゴホッゴホッ……。な、なんで生きてるのよ、リナぁぁ!!」
「なんでって、あの弾幕を避けたからに決まってるでしょ?」
「ど、どうやって避けて私の背面に!?」
「簡単な話よ?あのビルの倒壊とあんたのミサイルのおかげでフィールド内が煙に包まれた。その煙とほかのビルを利用してあんたの死角を突きながら近づいただけ。」
「馬鹿な……。センサーには何の反応も……。」
「スキルの一つに『センサー遮断』ってあるの知らない?発動条件は武器をしまってバーニアを使わず徒歩による移動なんだけど、お手軽に見えて実はあんまり使えないスキルなんだよね。だって戦姫大戦はスピード感ある勝負が売りなんだからバーニアは多用するし、そもそも使わないで移動する機会なんてありえない。もっと言えば、狭いフィールドで視認できてるからスキルが腐っちゃう事が多いけど、私はこれをあえて採用した。理由は分かるかな?」
「……。マップ固定のシティであること。」
「正解!ほかにも、あんたみたいな砲撃タイプが出るのは予想したからね。だから今回は積んできたの。まさかこんなに『刺さる』なんて思いはしなかったけど」
「くっ……。だが、せっかくのチャンスを逃したのは誤算だったな?背面をとった時点で刺していれば勝てたものを……。」
「いいや?そんなことしなくても真っ向から行っても勝てるし。」
「なっ!!」
「強気な発言がどんどんと出てくるカナ選手!まさか本当に当たらなければ、を実行するのか!!?」
「お得意の弾幕見せてよ?ハンデはそうだな……。ここから動かないであげよう。そのうえであんたを倒す。」
「な、なんととんでもないハンデを与えただけでなく動かずに勝つと豪語したぁぁ!!」
「……。私に一撃入れたくらいで調子に乗るなぁぁ!!」
脚部のミサイルに腕部のガトリング、そして主兵装のアサルトライフル。すべてを開放してカナめがけて一気に掃射する。対するカナは宣言通りその場から動かず背にあてた直剣を構え飛んでくる弾幕を弾き飛ばしその跳弾でミサイルも次々に落としていく。そしてついには、弾いた弾丸をリラに命中させる。
「きゃあぁぁぁ!!?」
「な。なんという神業でしょう!弾丸を弾き飛ばしそのうえで相手に返すこの技はぁぁぁ!!?」
「こ、こんなことが許されてたまるもんかぁぁ!」
「諦めが悪いのは私とそっくりだけど、ごめん。私の勝ちかな?」
「なっ!?」
声を発しようとした瞬間リラの体に斬撃が走り体を引き裂いていく。そのまま徐々に体力を削り、見事完封する。
「き……。決まったぁぁぁぁ!!初戦はリナ&カナ選手の勝利です!!皆様盛大な拍手を!!!」
司会のあおりで会場は一気に盛り上がる。その後、リナたちは控室に戻り次の番まで待機する。
(あのなぁ?)
(ん?)
(やりすぎ。普通に。)
(あれはその……。テンションが上がって、ね?)
(目立たないようにする策はどうなってんだよ!?)
(あんたのコメント的にもう無理だしいいよ。)
(……。はぁ。これ後で目の敵にされるっての。)
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