テラーノベル
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クレントスに着いてから、1週間ほどが経過した。
その間に私はいくつかの工房を訪れて、ノルマの達成と錬金術の指南に明け暮れていた。
――やっぱり、ものを教えるのは楽しい!!
ある種の優越感があるのは確かだけど、すぐに結果に繋がるというのも大きなポイントだった。
錬金術は勉強とは違って、作ったものを鑑定をすればすぐに結果が分かるからね。
ただ、教えながら、私は私で思うところもあった。
――私も、教わりたい。
教えることで得られるものはあるものの、学びとしては得るものが少ない。
まわりの人たちが学んでいく中で、私だけが取り残される。……そんな思いが芽生えてしまったのも確かだった。
……それは今までと違って、多くの錬金術師たちに囲まれているせいだろうか。
旅の中では、私はいろいろと目にして、それなりに経験を重ねてきた。
しかしクレントスを訪れて以来、目先の日々をこなしているだけの感じが強いというか――
「はぁ……」
「あら、アイナさん。何か困り事ですか?」
私が食堂でルークとエミリアさんをぼんやり待っていると、アイーシャさんが声を掛けてきた。
アイーシャさんはとても忙しく、お屋敷の外に出ていることも多い。今回会うのも3日ぶりというところだった。
「お久し振りです。
えっと、困り事というか……少し考え事、ですね」
「相談に乗れることがあれば話してくださいね。
アイナさんは、大切な人なんですから」
「あはは、ありがとうございます。
とりあえず、まずは早く戦いを終わらせる方に尽力しますね。
……ところで、戦いの方はどんな感じですか?」
「えっと、王都から追加の兵団が派遣されました。
ここだけの話ですが、その派遣を以て、追加派遣の予定が無いことまでは確認しています」
アイーシャさんが語ったのは、王国軍側の情報だった。
それを入手できたのは、きっとスパイでも送り込んでいるからだろう。
「そうすると、その人たちを倒せば撤退してくれる……?」
「以前にも言いましたが、王国はクレントスばかりに構っていられない状態なんです。
実は、派遣が止まるまで粘っていたんですよ。こちらの戦力も、ずいぶんと減らされましたから」
「なるほど、そこでようやくひと段落ですか……」
「ただ、その兵団の中に厄介な人物が混ざっているんです。
だから、次の衝突が最後の山場っていう感じですね」
「厄介な人?」
「はい。……魔星クリームヒルト。
現在の七星の中で、最強と呼ばれる魔法使いです」
「……そういえば、七星って7人いるんですよね?
私が知っている七星は、呪星、弓星、獣星の3人……。魔星で4人目になりますが――」
「昔いた剣星と剛星は死んでしまったんです。七星と言っても、今は5人なんですよ。
残りの一人は国外に派遣されているので、この大陸にはいないんです」
「七星と言いつつ、五星だったんですね。
そういえば呪星の人が、ルークをスカウトしようとしていたなぁ……」
「そうなんですか? 今のルークなら七星くらいの実力は十二分にありますからね。
……まったく、あの子もいつの間にか成長しちゃって。これも、アイナさんのおかげですね」
「いえいえ。きっかけはそうかもしれませんけど、ルークはとっても頑張っていたんです。
私もいろいろと見習わないと」
私がそう言うと、アイーシャさんは嬉しそうに微笑んだ。
ルークの子供時代を知っているから、親心のようなものがあるのだろう。
「――まずはこの戦いを終わらせます。
そうしたら、アイナさんの考え事も進むのかしら。
……そうそう。戦いが終わったあとに、私からアイナさんに相談事があるんですよ」
「えぇ……? そんな死亡フラグみたいなことを言わないでくださいよ!?」
「死亡フラグ……? それは何ですか?」
私がつい発した言葉に、アイーシャさんは不思議な顔をしてしまった。
……それもそうか。『フラグ』の語源を辿れば、確かプログラミング用語なんだったっけ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私が死亡フラグの説明をようやく終えたころ、フルヴィオさん――アイーシャさんの仲間がやってきた。
そして、急ぎの話があるということでアイーシャさんを連れていってしまった。
……つまり、私はアイーシャさんが言っていた『相談事』の話は少しも聞くことが出来なかったのだ。
「聞いたところで話してくれなかったとは思うけど、気になる……」
アイーシャさんの頼み。
私への頼みというのなら、基本的には錬金術に関することだろう。
他には――ルークやエミリアさんを引き続き戦力にしたいから、あなたはお払い箱よ……とか?
……いやいや、それはさすがに嫌だし。
それ以外には……うーん、特には思い浮かばないか。
ひとまずは分からないものを考えていてもどうしようもないし、今は忘れておくことにしよう。うん、それが良い。
引き続き食堂でぼんやりと考えていると、不意に扉が開いた。
そしてそこから一人の男が現れる。
「――アイナ殿!」
「あ、獣星さん? こんばんわ」
「こんばんわ、久し振りだな! エミリア殿とルーク殿には毎日のように会っているのだが!」
「話はちょこちょこ聞いていますよ。東門の警備と荷物運びで、多忙にしているって」
「本当はもっと暴れてやりたいところなんだが、俺にはもうポチしかいないからな。
そのポチもアイナ殿に助けてもらったんだ。何と感謝して良いのやら……」
「それ、エミリアさんに毎日言ってますよね?
もう気にしていませんから、お礼は止めてください」
「『雄弁は銀』というだろう?」
「使い方が違うと思いますが、それなら『沈黙は金』とも言いますよ?」
「そ、そうなのか。おかげでひとつ賢くなったぜ!!」
そう言いながら、獣星さんは何かを納得していた。
……良くも悪くも、めちゃくちゃ素直な人だなぁ。
「ところで獣星さんは、ポチのような魔獣は育てている感じなんですか?
召喚では無いんですよね?」
「ああ、全部俺が育てているぞ!
レアスキルで『魔獣育成』というものを持っていてな。俺が育てると魔獣が急成長をしてくれるんだ」
「おお、レアスキルですか!! そう言うスキルもあるんですね」
「アイナ殿も、レアスキルくらい持っているんだろう?
あちこちで話題になっているからな。神器の魔女が、錬金術で色々と作りまくっているって」
「そんな噂が――って、そりゃ立ちますよね。私も全力でやっていますし。
レアスキルは、私は……錬金術関係で1つですね」
それ以外には『不老不死』があるけど、一応これは秘密にしておこう。
ユニークスキルのことも言う必要は無いから、これも秘密で。
「ふふふ、アイナ殿には何か親近感を覚えてしまうな。
……そうだ、俺の宝物をあげよう!!」
「要りません」
「そうだろ、そうだろ? ほら、これが俺の――
……って!? え、要らないの!!?」
「え? 宝物に思ってるものなんて、申し訳なくてもらえませんよ」
「お礼も要らない、宝物も要らない……。そんなの、俺の気持ちが済まないんだけど!!
大切なものではあるけど、使える人が使った方が良いかと思ってな。……知らないヤツに売るのは嫌だし」
「はぁ……。気が済むなら頂きますが……」
「そうこなくちゃ! ほら、これ!」
そう言うと、獣星は1つの魔石を鞄から取り出した。
最近はあまり魔石を意識していなかったけど、魔石は冒険を楽にしたり、便利にしてくれる代物だ。
神剣アゼルラディアには偶然とは言え魔石スロットが5個もあるし、そろそろ何かを検討しても良いかもしれない。
「わぁ、魔石ですか。効果は何ですか?」
「効果は何も無いって言われたな! でも、価値が凄いあるみたいなんだ!
そのときも、是非売ってくれってしつこく言われてな~」
……え? 効果が無いのに、価値がある?
ひとまず、かんてーっ。
──────────────────
【無垢の魔石(中)】
力が何も込められていない魔石
──────────────────
んん? これってどこかで聞いたことがあるような――
……ああ、そうだ。以前、魔石を錬金術で作れないかと調べたときに、素材のひとつとして確認できたものだ。
これを素材にすれば、ヴィオラさんからもらった『封刻の魔石(暴食の炎・発動補助)』みたいな魔石を自由に作れることが出来るのだろう。
どれくらいの価値かは分からないけど、これは私にとって有用なものだ。
「『無垢の魔石(中)』っていう、何かの魔石を作るために必要な魔石ですね。
こんなもの、一体どこで手に入れたんですか?」
「これ? これはミケの死体から出てきたものなんだ」
「……ミケ?」
「ああ、ポチの妹分さ!」
「や、やっぱり受け取れません!!」
「えぇっ!? そ、そう言わずに!!」
「どう考えても獣星さんの大切なものじゃないですか!!
受け取れませんってばーっ!!」
――その後、私たちはルークとエミリアさんが戻ってくるまで、貴重なアイテムの押し付け合いをすることになってしまったのだった……。
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