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「あはは……。アイナさん、お疲れ様でした……」
夜、ようやく帰ってきたエミリアさんとルークに苦笑されながら、私は|労《ねぎら》われた。
何だかんだで、かなりの時間を『無垢の魔石』の押し付け合いで潰してしまっていたのだ。
「そして結局、条件付きとは言え、受け取ってしまいました……。
うーん、何だか重い……」
もちろん重量的な意味ではなく、意味合い的な重さだ。
獣星が大切にしていた、魔獣の遺体から出てきた魔石――
「『無垢の魔石』、ですか。
確かに売るわけにはいきませんけど、そのうち良いものを作って、自分で使えば良いと思いますよ!」
「そうですね。まずは何を作るのかを決めないといけないので、本当にそのうち……って感じですが」
良いものをもらったのでありがたい部分もあるけど、逆に下手なものを作れない、というプレッシャーもあったりして。
ただ、いずれは凄いものを作る機会があるのかもしれない。
……まぁ、それまでは大切に取っておくことにしよう。
「ところでアイナ様、獣星に出された条件というのは何ですか?」
「出されたというか、私から出したんだけどね。
受け取りはするけど、さすがにもらい過ぎって気がするから、せめて獣星さんの次の魔獣育成を手伝わせて、って」
「おお、お優しい!」
「獣星さん、魔獣をめちゃくちゃ溺愛しているの。
これからも戦力は必要だから順次補充するけど、死んだ魔獣の単純な『替え』だとは思っていないんだよね。
一匹一匹を大切にしている、っていうのかな」
「魔獣を使っていろいろな仕事をしていますが、確かに優しく接していますからね。
他の七星の人とは雰囲気が全然違うんですよ」
……私たちから見れば、呪星も弓星もろくな人間ではなかった。
ただこの二人、兄弟だったんだよね。もしかしたら、七星だからという理由ではなく、この兄弟だけがおかしかったのかもしれない。
「――あ、そうだ。
アイーシャさんから聞いたんですけど、クレントスに魔星クリームヒルトっていう人が向かってきているそうです。
それが最後の戦いになるそうですよ」
「おぉ、最後の……!
それにしても、また七星ですか……」
「遊撃部隊っていうくらいだから、融通が利くんでしょうね。
一斉に5人きたら大変でしたけど、今となってはそれもあり得ませんし」
「5人、ですか? 7人ではなくて?」
「私たちと関係無いところで、2人は死んでいるそうです。
呪星はやっつけて、獣星はこちら側ですから……あとは魔星と弓星と、国外に派遣されているっていう1人ですね」
「王国軍の戦力は七星だけでは無いので、ここで一旦打ち止めというのは正直助かりますね」
私の言葉に、ルークが安心するように言った。
「七星は、組織で強いというか、個人で強いって感じだもんね。
遠方に派遣するには向いているのかな」
「そうかもしれません。それに加えて、クレントスはある程度放置しても大丈夫ですから……。
まずは手軽に動かせる、七星を使ったのでしょう」
「そうだねー……って、そうなの?
クレントスって、放置しちゃっても大丈夫なの?」
「ええ、クレントスは辺境にあります。
東側には海がありますが、船が通ることのできない難所なので、どこにも行けないんですよ」
「……他の国や地域とは隔絶されている、と」
「クレントスが『辺境都市』と呼ばれる由縁です。
もしも船が通れていれば、きっと栄えていたことでしょう。『交易都市クレントス』などと呼ばれていたかもしれません」
「うーん、なるほど。
袋小路に追い詰めていれば問題ない、ってことだよねぇ」
「だからと言って、ずっと放置はされないとは思いますが……」
……つまり、一旦は王国軍を跳ねのけたとしても、いずれはまた派兵されてしまう、ということだ。
しかしアイーシャさんは派兵が止むのを待っていたわけだから、この流れは望む方向ではあるはずだ。
「その辺りはアイーシャさんたちが上手くやってくれると思うし、私たちは見守っていようか。
……見守るも何も、ルークとエミリアさんは前線で戦っているわけだけど」
「あはは♪ でも、わたしたちは夜に帰れるから、そこは楽ですね。
王国軍も夜はあまり動かないとはいえ、全員がぐっすり、ってわけにはいきませんし」
「そうですね。護ってくれている皆さんには感謝、感謝です」
……夜、耳を澄ませているとたまにどこかから戦いの音が聞こえてくるときがある。
あまり多くないとはいえ、護りを破られてしまえば、街の中が途端に危険地帯になってしまうのだ。
ミスが許されない仕事に、長引く戦い。
夜通しで戦いに臨む人たちは、きっと凄く疲れているだろう。
私たちは平和な時間を過ごせるだけ、とても恵まれているということになるのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜も更けて、私は自分の部屋でくつろいていた。
大変な戦いが続く中、くつろげる時間と場所があるのは贅沢なことだ。
この戦いがいつまで続くのか――
そんな疑問はずっと抱いていたものの、ようやく今日、その終わりが見えてきた。
……魔星クリームヒルトを倒せば、終わる。
他の兵士たちもどうにかしなければいけないが、そこはきっと何とかなるだろう。
それよりも恐ろしいのは、強力な個人での一点突破。
例えば獣星なんて、ポチの1体だけで東門側を制圧しているほどだ。
魔獣がフルメンバーだったら、どれくらいの猛威を振るっていただろう。
呪星は私が倒したとはいえ、あの人は油断しまくりだったから――
……実際、どれくらいの実力を持っていたのかは分からない。
ルークに掛けた呪いはとても凄かったけど、あれだけのはずは無いし……。
「……魔星、か」
七星の中で、最強と呼ばれる魔法使い。
仮に今の獣星と当たれば、魔星があっさりと勝ってしまいそうだ。
神器持ちのルークと正面からぶつかれば、きっとルークが勝てるだろう。
しかしそもそも、そんな上手い具合に話が進むはずもない。
例えば遠距離から凄い魔法で攻撃されれば、ルークだって負けてしまう可能性はある。
もし魔星が私の錬金術の射程に入れば、私でも勝てるだろう。
ただ、そんなことはきっとあり得ない。強力な魔法使いだなんて、近付く前にやられる自信が私にはある。
「……うーん。
何かアイテムでも作って、あっさり勝つ方法は無いかなぁ……」
魔法使いが相手なら、例えば魔法封じ。例えば魔力破壊。例えば魔法反射。
ゲーム的な思考で言えば、これくらいは簡単に想像が付く。
ただ、魔法反射は相手の魔法待ちになってしまうし、魔力破壊は変な力が暴走しそうな気がする。
そうとなれば、割とメジャーな感じの魔法封じが良いだろうか。
「――錬金術だけで、どうにかなるかな……?」
私はアイテムボックスから杖を出して、魔石スロットを確認した。
『安寧の魔石』はしっかりと嵌められており、術の反動軽減は100%が達成されている。
それじゃ、久し振りの――
ユニークスキル『英知接続』発動!!
――その瞬間、やはり少しだけ立ちくらみがするのを感じた。
術の反動と立ちくらみは別物なのかな? 『疫病の迷宮』を創ったときもこんな感じだったし……。
そんなことを考えながら、私は求める『何か』を探していった。
大まかに言って、『魔法を封じるもの』。様々な情報が流れる中、私はひとつのアイテムを見つけることができた。
「……よし、ここから『創造才覚<錬金術>』を使って――」
──────────────────
【永続封魔の矢】
魔法封印の効果を永続付与する矢
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【『永続封魔の矢』の作成に必要なアイテム】
・ミスリル×1
・闇の魔導石×1
・竜の血×1
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――ぬあっ!?
以前リーゼさんから受けた矢を参考に、錬金術でも作成できるものを探してみたものの……素材がとんでもなかった。
……とはいえ、『ミスリル』と『竜の血』なら在庫がある。
『闇の魔導石』は持っていない。似たようなところで『闇の封晶石』なら持っているけど、これはまったくの別物だ。
しかし、この矢さえ|掠《かす》れば魔星は戦力を失うから――少しくらいは作ってみようかな。
ただ、この矢を適当に扱うわけにはいかない。
もう少し詳しく調べてみると、この矢は何回も魔法封印の効果が発揮されるようだった。
つまり、敵の手に渡ってしまえばややこしいことになるから、取り扱いにはかなりの注意が必要……というわけだ。
……あ、でももしかしたら、1回だけしか使えないように作れば良いのかな?
強度を落としていけば、上手くいくかもしれない……?
貴重な素材を使い捨てにするのは勿体ないけど、戦闘がただの一撃で終わらせられるなら、それはそれで良さそうだ。
懸念は他にもあるけど、それを含めて、少し研究してみよう。
――ふふふ。発想の勝負みたいで、面白いことになってきたかもしれない。
明日に素材集めをするためにも、今晩のうちに研究を済ませてしまうことにしよう――