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kn視点
きりやんは 優しい人だと思う。周りを良く見れて、いつも自分より他人を優先する、輪の中にいるだけで雰囲気を柔らかくしてくれるような、そんな人。
そんなきりやんが俺のことを好きだと言ってくれた時は驚いた。驚いたけど嬉しかった。きりやんに好きと言われるたびに心がふわふわして、幸せな気持ちになった。
そんな甘酸っぱい告白から付き合い始めて早1年。手も繋いで、キスもして、…体も重ねて。幸せな日々を過ごしていても、人間だから悩みはできるもので。俺はある1つのことに悩まされていた。
その悩みというのは…
「きりやんが全く嫉妬してくれない。」
ということだ。別に「嫉妬してくれなくて悲しい」、とか「俺のことだけを考えてほしい」、とかそういう女々しい気持ちはない。きりやんはちゃんと俺のことを愛してくれている。そこはちゃんと自信を持って言える。
きりやんはとても優しい。いつでも人のことを気遣ってくれる。だが、優しすぎてたまに自分の思いを封じ込めてしまうことがあるのだ。他人を優先しすぎて自分の思いを疎かにしてしまう。そんな優しすぎるこの男の限界を、俺は見てみたかった。
少なからず、あの男の中にも嫉妬心はあるはずだ。でもきりやんはその思いを、俺の迷惑にならないように封じ込めている。「きりやんが抑え込める嫉妬の限界を見てみたい」。俺をその気にさせたのは、そんな一種の好奇心だった。
作戦1:他のメンバーにベタベタする。
そうと決まったらこの男、きりやんを徹底的に嫉妬させてやろう。そう思って俺は複数の作戦を立てた。これだけ作戦を立てれば、きりやんは絶対に嫉妬してくれるだろう。
まず作戦1だ。メンバーにベタベタ作戦。王道でベタだが(ベタベタだけに)攻撃力は安定して高い。まず第1作戦としてこれを決行してみよう。作戦決行日は次のワイテハウスでの撮影のときに決めた。
「きんさ〜ん、僕の隣座る〜?」
「うん。」
今回の協力者はぶるーく。作戦のことを伝えたら「面白そう」、とすぐに了承してくれた。他のメンバーにも余計な心配はかけたくなかったので、きりやん以外のメンバーにはこの作戦の内容について伝えて、把握してもらった。
「あ、きんさんまつ毛にゴミついてるよ。とってあげよっか?」
「マジ?あんがと。」
そう言って俺が目を瞑って、ぶるーくがまつ毛についたゴミを取るフリをする。作戦通りの行動だ。どうだ、きりやん!恋人が他の男とこんなに距離が近いんだぞ。少しは嫉妬の気持ちが…!
そう思いながら片目だけ開けてきりやんの方を見ると、きりやんは普段と変わらずスマイルと今度の動画の企画について話していた。こっちのことなど全く見ていない。そんな嫉妬心のカケラもないきりやんの様子に悔しくなって、ぶるーくの肩の上に手を置く。それでぶるーくは察したのか、次のフォーメーションに移った。
「きんさん、マジで腰細いね〜!くびれも綺麗だし!」
そう言ってぶるーくが俺の腰を掴む。
「そう?」
恋人が他の男にベタベタとボディタッチされちゃうというシュチュエーション。普通の人なら、多少なりとも嫉妬心やモヤモヤを抱くものだ。
だが、きりやんはチラッと一瞬こちらを見ただけで、すぐに視線をスマイルに戻した。
……どうやら作戦1は失敗したみたいだ。
作戦2:第三者に指摘してもらう。
嫉妬心というものは自覚するのが中々に難しい。ならば第三者に指摘してもらおうではないか。もしきりやんが、「本当は心の内にモヤモヤを持ってても、人には相談できない…」というシャイボーイなのであれば、第三者がそんなシャイボーイのお悩みの相談に乗ってあげればいいのだ。相談することによって、きりやんが、自分の心の内にある嫉妬心に気がつくことができるかもしれない。まぁ文章だけだと伝わりづらいので実際に見てもらおう。
とういうことで今回は協力者BであるNakamuに第三者の役をやってもらうことにした。
俺とぶるーくが引き続きベタベタを行い、Nakamuがきりやんに近づく。
「ねぇ、きりやんさ。きんときとぶるーくがベタベタしてるの、気にならないの?」
「え?」
相変わらずNakamuは演技が上手だ。ごく自然にきりやんに質問を投げかける。きりやんはNakamuの質問に首を傾げた。
「恋人が他の男とベタベタしてるってなんかモヤモヤしない?」
「んー、別にしないかな。」
きりやんの返答に、耳がピクリと反応する。
「きんときが誰と話そうが、誰と接しようが、それはきんときの自由だし、俺がそれを止める権利はないよ。」
「で、でも!きりやんはモヤモヤしないの、?」
「きんときが楽しそうに過ごしてくれるのが、俺の幸せだからモヤモヤはしないなぁ。」
「そ、そっか…」
…きりやんの発言に顔が赤くなっていくのを感じる。目の前のぶるーくも俺の方をニヤニヤしながら見てきた。
………どうやら、作戦2も失敗したみたいだ。
「ねぇねぇ、『例の件』なんだけど。」
後日のワイテハウスにて。
Nakamuの発言で、きりやんを除いたメンバー5人での話し合いが始まった。
「う〜ん、あの感じだと、きりやんに嫉妬なんて感情はないんじゃないかな。」
冷静にきりやんの様子を分析するNakamu。
「俺もきりやんに嫉妬させるのは無理だと思う。」
Nakamuの発言に頷くシャークん。
「きりやんはきんさんの事を大切に思ってるっぽいからそれでいいんじゃない〜?」
ニヤニヤと冷やかすようにこちらを見るぶるーく。
「……何の話だ?」
察しが悪すぎてなんの話か全く分かっていないスマイル。
「はぁ〜〜」
大きなため息をついて、机に突っ伏す。みんなの言う通り、きりやんに嫉妬なんて感情ないのかもしれない。しかも、先日のきりやんのナチュラルイケメン発言に不覚にもときめいてしまい、嫉妬させようなんて気持ちは薄くなってしまった。
「きんときはなんできりやんを嫉妬させたいの?」
シャークんに問われ、少し考える。
「…好奇心っていうのかな。きりやんがどのくらいまで我慢できるのか気になった。」
正直にそう言うと、スマイルを除いた3人が「あ〜」と同じ反応をした。
「確かに、きりやんあんま人に本気で怒ったりとかしないもんね。」
「気になる気持ちも分からんでもない。」
「ん〜でも、きりやん相手には無理じゃない?あの人、持久力えげつないもん。張りあってる内にすれ違って、喧嘩になっちゃうかもよ?」
ぶるーくに正論をかまされる。
「…うん。もうやめるよ。」
きりやんを嫉妬させようとするのは、俺にはまだ早かったようだ。俺は頭の中で立てていた残りの作戦にバツ印をつけた。
ガチャ
ワイテハウスから帰宅し、自分の家に戻る。
「あ、おかえり。」
「えッ、きりやん?」
靴を脱ごうとすると、きりやんが玄関に顔を出した。合鍵を渡していたからいつでも家に入れるとは言え、何の連絡もせずきりやんがやって来ることなんて今までなかったから、少し驚く。
「急にどうしt「どこ行ってたの?」
質問に被せるように、きりやんが俺に問う。俺に問いただすきりやんの顔にいつものような優しい笑顔はなかった。
「え…えっと……」
ワイテハウスで作戦会議してたなんてことは言えず、きりやんから目を逸らす。
「なんもないよ、ちょっと買い物してただけ…」
そう嘘をついて靴を脱ぐ。
「ちょっと?俺がここ来たの3時間前くらいだったけど。」
「え、、?」
そんな前から俺のこと待ってたの…?
「連絡してくれればよかったのに、」
「そんなことどうでもいいよ。」
きりやんの声は冷静だけど、聞きなれない声のトーンと冷たい言い方に思わず肩がビクッとする。
「ねぇ、ほんとに買い物?」
「ッ…」
初めて聞くきりやんの低い声。ついた嘘があっさり見破られ、声が出ない。
「…他の男のとこ?」
「ッ!ちがうッ!」
「じゃあどこ行ってたの?」
「それは…ッ」
「……言えないんだ。」
俺が押し黙ると、きりやんは俺の手首をグッと掴む。
「いたッ…」
手加減もなしに手首を掴まれ、その痛みに顔を歪める。きりやんの考えていることが分からなくてきりやんを見上げると、今まで見たことがないほど冷たい瞳と目が合った。その瞳を見て俺は悟った。
「…お仕置きだね、きんとき。」
…どうやら、俺はきりやんの限界を超えさせてしまったみたいだ。
あとがき 。
続き出します。