テラーノベル
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クレヴェンに来てからやっと心地よく目覚めることができる朝がやってきた。
今日は、セツナがレトを試すようだけど……。
一体、何をするんだろう。
聞いても口を固くして答えてもらえなかったから、予想さえつかなかった。
そして昨晩も狭い小屋で三人で眠った。
異性である二人の王子と同じ屋根の下で一夜を過ごしているけど、何も起きていない。
かっこよくて、優しくて、私を甘やかすふたりの王子。
恋をするとしたら、どっちがいいんだろう。
そもそもレトとセツナは、私のことをどう思っているのかな。
「今日は出掛けるぞ。
遠出するから準備をしっかりしておけよ」
「僕もこの小屋から出て大丈夫?」
「大丈夫だ。レト王子は、オレとライが守る。
何か問題が起きると、計画が台無しになって、国同士の争いになりそうだからな。
かけらも必要な物があるなら持っていけよ」
大切な物といえば、知らない男からもらったダイヤモンド。
あれから作業着のポケットに入れたままだった。
畳んでおいた作業着の厚さが不自然に盛り上がっているというのに、よくバレなかったものだ。
出掛けている間、誰かに奪われるくらいなら、自分で持っていた方が安全かもしれない。
三人が見ていない隙に、近くに用意しておいたリュックの中にダイヤモンドを入れて出発することにした。
それからライさんと合流して、目的の場所へ向かうため四人で歩く。
私は少し後ろを歩いて、ふたりの王子の背中を見ながら恋について考えていた。
出会いもなく、仕事をして家に帰る平凡な毎日を過していた時とは明らかに違う心の揺らぎ。
どうなるか分からない未来に不安になるけど、安心すると幸せな気持ちになる不思議な感覚。
これが恋なんだろうか……。
レトといても、セツナといても、感じたことのない温かさを感じた。
でも好きになれるのは、ひとりだけ……――
「かけらって、二股するタイプなの?」
「きっ……、急にどうしたの? ライさん……」
「さっきからレト王子とセツナを交互に見ているから、そう思っただけ」
「誰とも付き合ってないんだからそれはないよ」
「ふーん。でもいつかは誰かを好きになるんでしょ?
……相手は誰になるんだろうね」
「わっ、分からないよ。
好きになるのって、そう簡単なものじゃないと思うから……」
ライさんに思考を読まれているみたいでびっくりした。
おかげで変な汗をかいた気がする。
前を歩く二人が振り向かなかったから今の話は聞こえてないと思う。
でも自分の恋の話をするのは、とても恥ずかしかった。
太陽が真上に来た頃、沢山の動物が住む森を抜け、大きな湖がある場所に辿り着く。
通ってきた道には、葉っぱが赤く色付いている木がいくつも立っていた。
この世界の季節が秋なのかと思ったけど、他の木の葉は枯れていなくて濃い緑色をしている。
季節感覚がおかしくなる。ここは不思議な場所だ。
「着いたぞ。レト王子を試す場所はここだ」
「泳いで競うとか言わないよね?」
「それで平和になるならするけどな。
……ここは、百年以上前に戦場になった場所だ。
激しい戦いが起こり、多くの人が命を落としたと言われている。
幽霊が出ると噂もあってな。
呪われた地だと人々に恐れられているんだ」
「ゆっ、幽霊……!? 私は苦手かも……」
「一年中、血のような赤色をした葉っぱを付ける木がクレヴェン側だけに生えている……。
だから、オレたちはこの場所を“紅の地”と呼んでいるんだ。
そしてここは、四つの国の境目がある珍しいところなんだぜ」
「民から聞いたけど、真ん中に湖があるせいで境目が曖昧なんだよね?」
「ああ。水を抜かないとはっきりしないな」
「グリーンホライズンでもこの湖は不気味で誰も近寄らない場所といわれているよ。
自国を旅をしていたけど、この場所だけは避けていた」
「つまり、この湖の周りをぐるっと回ったら、四つの国を跨げちゃうってことだよね。
簡単に敵国に入れるって、やばいんじゃないの?」
「そうなるが、見てのとおり。
人がいた跡がないし、どの国も柵や壁さえ作ってない。
つまり、どこの国も捨てた場所なのかもしれねぇな」
遠くから見た時はエメラルドグリーンの美しい湖という印象しかなかったけれど、話を聞いてから悲しい場所に思えてきた。
湖に近づいてみると、底に苔が生えているのが分かるほど水が澄んでいる。
こんなに綺麗な湖を捨てるなんて……。
それほど恐ろしい場所なんだろうか。
「グリーンホライズンは方角的に左側かな。
故郷を見ると懐かしくなる。
……呪われたこの地から無事に帰れるか分からないけど。
あっ……。かけらの後ろに剣を持った兵士の霊がいる」
急に声のトーンを低くしたレトが私の側に来て、ぞわっとするような怖いことを言ってくる。
「きゃーっ! 取り憑かれたくないのに……!
いやーっ……」
「ハハハッ、いるわけないじゃないか。
かけらは怖がりだね。
ん……? 今、冷たい風が吹いた。
まさか、本当にいたりしないよね?」
「ひいっ……! それ以上やめてよ、レト……」
「おいおい、何やってんだ。
まったく、おまえらは……」
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