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工場はパイナップル、桃の缶詰工場のようだ。
近年では国内の桃缶よりも海外の安価な製品が重宝されているらしい。
この工場も時代の荒波に耐えられず、倒産してしまったのだろう。
缶詰の運搬トロッコやトタン屋根がそのまま放置されている。
「とにかく、工場の侵入口を探さなければ」
工場内は雑草が生い茂っていた。
早く傷を手当したい。
どこなら入れる。
左肩と肘から滴る黒い血を払い、足早に工場の侵入口を探る。
その間にもタールは迫ってくる。
もはや、何かに取り憑かれた鬼の形相だった。
佐川は曲がり角へ入り、周囲を見渡した。
蓋が半分空いたマンホール、草に覆われた側溝が見えた。
これしかないと思った。
ジャージをマンホールの横に投げ捨てた。
「仕方ない」
タールが曲がり角から顔を出すと佐川の姿はなく、マンホールの蓋が空いている。
マンホール横には、黒い血が付いた佐川のジャージが投げ捨ててあった。
「奴はマンホールか、いやあの一瞬でそんなことができるのか」
周囲を見渡すと草に覆われた側溝が見えた。
「そこか、これで終わりだ」
右手で側溝の草を抉った。
しかし、そこには佐川の姿はなく忽然と姿を消していた。