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─顔が熱い。鼓動が速い。頭がまわらない。
これが……
僕は今年から高校生だ。新しい環境で新しい生活への期待に胸を膨らませていた。入学式前日から興奮状態だった僕は案の定…いや案外ぐっすり眠れてしまった。眠れたとはいっても楽しみにしていた僕は勿論早起きをした。張り切って準備を済ませシワひとつない制服に袖を通した。鏡に映る自分の姿に少し頬が緩む。決して自分がかっこよかった訳では無い。僕は誰がどう見ても普通の青年だ。ただ本当に高校生になったのだと実感し、喜びが表情に出たのだ。
自分の頬を叩き、ぱんッと甲高い音を出した僕は、階段を降り1階へと向かう。両親に初の高校の制服姿をお披露目だ。「似合ってるな!さすが俺の子だ。」「あら、どこの好青年かと思ったら、私の愛息子じゃない!!」
「はは、、」そう言われて嬉しい気持ちはありつつも、僕は微笑を浮かべる。
僕の両親はいわゆる親バカだ。僕が初めて自転車に乗れた時も、天才だ。 アスリートになるかもな。なんて言ってはしゃいでいた。
そのまま玄関へ向かうと、
「女の子に不用意に優しくしすぎちゃだめよ?」
「困ってる人がいたら手を貸してやるんだぞ」
「もう、わかってるよ。」
「それじゃあ、いってきまーす。」
『行ってらっしゃい』
──「あの子大丈夫かしら、」
「雪、心配する気持ちもわかるけど俺たちの子だぜ?」
「そうだけど、あの子純粋が故にそういう所あるじゃない?」
「っっ、」父は言葉に詰まった。
そうして2人は心配そうな顔をしていた。
一方そんなことを微塵も知らない彼はおろしたてのスニーカーを履き、胸を張って歩道を歩いていた。まだ硬いシャツの襟が首と擦れて少し痛みがあるがそれも今だけだし、と1人でそんなことを考えていた。
「時間余裕あるし、少し遠回りしてみようかな 」と、練習した道とは別の道を僕は歩き出した。細い路地裏を通りそこを曲がった先は行き止まりだった。だがそこで驚くべきものを見た。そこには、粉雪のような白い肌にキリッとした眉、薄い唇、少しつり気味の綺麗な目をした美少女がいた。ここでもう一つ、その美少女は、足を挫いていたようで道に座り込んでいたのだ。
驚きのあまり思考が停止する。それも束の間
お父さんならどうするだろうと、思考を巡らせる。 「困ってる人がいたら、──」
頭の中で考えながら体は既に動いていた。
「あの、大丈夫ですか?1人で歩けそうですか?」
「大丈夫なので、気にしないでください。」
即答だった。その対応は見た目通りと言うべきか、かなり冷たいものだった。しかし、彼はそんな事で怯むような教育は受けていない。
カバンからなにか取り出そうとする青年を見て、その美少女は少し戸惑った顔をする。
「これ、湿布とサポーター使ってください。」
「???」美少女はきょとんとした。
「どうかしましたか?」青年はきょとんと仕返した。
「いや、なんでこんなもの持ち歩いてるんですか?まるで分かってたみたいじゃないですか。」
「あー、両親が注意深い性格で、」人差し指で眉の横あたりを掻きながら答えた。
「気持ちだけ受け取っておきます。」
美少女はなお凛とした態度で断る。
僕はどうしたものかと思ったが、そこで彼女が自分と同じ学校の制服を着ていることに気づく。決めた。
「じゃあ一緒に学校まで行きましょう。」
「何を言っているんですか。どうしてついさっき会ったばかりの貴方と一緒に登校するんですか?意味がわかりません。」畳み掛けるように言われ流石に少しくらってしまう。
「1人で歩けるんでしょう?見せてください」
「あ、それともさっきのは強がりで本当は痛くて、1人じゃ立ってるのがやっとだったり」
「そこまで言われると無視できませんね。いいですよ、一緒に行きましよう。」案の定彼女はプライドが高く少し挑発しただけで食い気味に乗っかってきた。
10分ほど歩いたあたりで彼女は突然止まった。「用事を思い出したので先に行って下さい。」飄々と言っているように見えるが頬には汗が伝っており、息もかなり上がっていた。やっぱりだ。「嘘ですよね?」
「本当です。 」「足痛いの我慢してるんでしょ。見せてください」まっすぐと彼女の目を見る。彼女は根負けたように
「はぁ、」とため息をつきながら靴を脱いだ。
足首の当たりが少し腫れていた。
「やっぱり痛かったんですね」
「まあ少し、少しだけ」彼女が少し素直に言った。「ちょっと冷たいですよー」ぴたっ
湿布を貼ると彼女は「ひっ」と声を漏らした。
彼女は顔を赤くしながら、黙り込んでいた。
サポーターを、巻いて応急手当は終わりだ。
「まだ痛みはあると思いますけど、歩く分には問題ないと思います。」
「…がと」彼女が小声でなにかボソッと呟いた。「ん?」聞こえなかったのでそう言うと、
彼女は目を逸らしながら恥ずかしそうに
「ありがと…」とお礼を言った。
「どういたしましてっ!」お礼を言われたことも嬉しいが、素直になってくれたのが嬉しくて青年はくしゃっと笑顔を美少女に向けた。
彼女は目を少し見開いて、僕を見てその後すぐに目を逸らした。
僕はどうしたんだろうと思いながらも
「それじゃあ学校行きましょう。歩くの早かったりしたら言ってくださいね!」
コクリと顎を引いて彼女が返事をする。それから学校までのあいだ一言も口を聞いてはくれなかった。
「連絡先教えて。今度お礼する。」
学校が見えてきた所で彼女は足を止めてそう言った。僕はいいですよと断ったのだが、今回ばかりは彼女も食い下がらないので、有難く貰っておこうと連絡先を交換した。
「葉月結羽《はづきゆう》。」
「氷川光太《ひかわこうた》。」
お互いボソッと名前を呼び合い。
彼女は「今日はありがと。」と言いそそくさと去っていった。
────まだ誰も来ていない2年生の教室には「なんなのあいつ、あの笑顔無意識?可愛すぎるんだけど、めっちゃ優しいし、さりげなくずっと車道側歩いてるし、歩くの早かったら言ってとか言うくせに何も言わなくてもずっとあわせてくれてるし、私なんか冷たいし無愛想で絶対嫌だったろうにいいひと過ぎる、
顔熱いし、胸の鼓動も速い、もー頭回んないし、もしかしてこれが、」光太と別れたあと少ししてから、ひとりでぼそほぞと言いながら顔を赤らめ顔を伏せる
美少女──葉月結羽がいた。