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<凌太>
「確認したよ。ところで、今日はどうした?松本の家はこの辺りなのか?」
もちろん、家は近くない事を知っているがここにいることの言い訳を聞いてみようと思った。
「違うけどこうやって出会えたのは、きっとどこかで私たちがつながっているのよ。BARで出会えたのも、繋がれたのも」
アプリを入れてストーキングしておいてよく言うなと思うが、まだそれを言うタイミングじゃない。
「俺はきみとの関係を維持したいとは全く思っていない。君は君の人生を大切にしてほしいと思う。ただし、その君の人生に俺は無いんだ。理解をしてほしい。たしかに関係は持ったがそれはその時だけお互いの合意の元のひと時の快楽のための行為だ」
窓の外では木陰のベンチで犬の散歩をしている人が一休みをしている。
その姿を見ながら話をする。彼女の方を見ることはないがガラスに薄くうつる彼女は微笑んでいるように見える。
「彼女が出来たからもう遊びは終わりってこと?学生の時もそうだったよね。甲斐くんって平気でいろんな女性と関係を持つけど彼女が出来たときだけは、他の女と寝ないもんね。わかった」
そう言って彼女はカップを手に持って出て行った。
高校、大学と瞳と付き合う前は荒れていた。そして瞳と別れたあとも荒れていた。
松本ふみ子はそれを知っている。
ふと前を見ると、ベンチに座る人の前で松本ふみ子は振り返ると乾いた微笑みをこちらに向けていた。
心臓がぞわりとした。
部屋に戻りモバイルパソコンを操作する。
三島貴江の給与支払いの履歴、社宅として借り上げていたマンションの支払い明細、所属していたはずの部署での未就労の聞き込みと出向していたわけではないことの記録。
親父は自分の愛人を囲む為に会社の金を使い続けていた。
バカらしいことに愛人の履歴書までちゃんとあったのが笑える。今は、死亡退職していることで処分したのか、親父が処分したのかわからないがすでにコピーは俺が保管してある。
証明用の写真ではその人の魅力を測ることはできないが親父が心惹かれ子供をもうけ何年も愛し続けた人だが俺にはそれほど魅力的な人には見えない。
親父の愛人であいつの母親であるからかもしれないからそう思うのかもしれない。
そして、親父は太陽光エネルギーの甲斐Egを分離しようとしている。子会社にするのか完全に切り離すのか、たぶんそこの社長としてあいつを据えようとしているんだろう。
それならそれでいい。
親父も自分の資産をたっぷり投入すればいい。
気が付くとすっかり日は落ちて部屋は月明りとパソコンから発せられる白い光だけだった。
瞳の声が聞きたくなり[今話せる?]とラインを送るとしばらくして既読が付き呼び出し画面になった。
「瞳」
『どうしたの?』
「ちょっと声が聴きたくなった」
ふふふと小さな笑い声のあと『私も』という言葉に思わず口元がゆるんでしまった。
「じいさんのところに行ってきた。だて巻を気に入ってたよ」
『私も里子の所に行ってきた。小さいかまぼこ、中にチーズが入っていてすごくおいしかった。あっという間に食べちゃった。家に買ったのもおいしかったよ』
「通販でも買えると思うけど、また一緒に買いに行こう」
『箱根に博物館があるみたい』
「かまぼこの?」
『そう、かまぼこの』
「今度、強羅の近くにある温泉旅館にでも行こうか」
『温泉いいね』
いくつもの未来の約束が増えていく。
「じゃあ決まりだ。そろそろ切るな」
『大丈夫?』
その一言につい身構えてしまい「ん?」と気の抜けた返事になってしまった。
『なにかあるなら言ってね』
いつも俺を気遣う言葉をくれる。もう絶対に手ばなさい。
「大丈夫だ。瞳の声を聞いたら元気がでた」
『なにそれ、でも本当に何かできるわけじゃないけど話を聞くくらいはできるから』
「それは瞳もだ。宇座のこととかもそうだし困ったことがあったら相談して」
『うん、わかった。それじゃおやすみ』
「おやすみ」と言って通話を切ったが、何となく最後の言葉が歯切れが悪いようで気になった。
まさか松本ふみ子が何かを言っていたりしてるんだろうか?
先ほどの松本ふみ子の表情を思い出して気持ちがざわついた。