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「青江さん伏せて!」
その言葉に、寸分の躊躇いもなく伏せられた青江の背から飛び出した乱は、敵方の大太刀の喉元を捉え、真横に薙いだ。
「んふふ、流石だねえ」
「ありがと♡でも、流石に疲れちゃった…」
「僕もそろそろ限界かな……疲労の事だよ?」
「もう!」
本丸襲撃から早数時間、手合わせをしていた青江と乱は、蛆の様に湧いてでる遡行軍をひたすらに切り伏せていた。同じく手合わせをしていた和泉守、堀川に連絡役を託し、先に送り出したところで、さらなる増援に阻まれて道場を脱出できずにいる。
「あーぁ、僕が打刀だったら青江さんを上手にサポート出来たかもしれないの、にっ!」
「充分助けられているよ、僕はスピード面ではまずまずと言ったところだから…ね」
幸い、道場には梁や壁がある。室内戦と言っても申し分ない条件だった。文字通り縦横無尽に走り回り、遡行軍を撹乱する乱と、読めない動きで遡行軍を切り伏せていく青江のスタイルは上手くハマっていた。
「ん、もう!しつこい!」
「敵方も減ってきたようだし……乱くん、ここは息を合わせようか」
「!」
ひらりと舞うように跳ね上がって梁に腕をかけている乱にそう声をかけた青江は、刀の切っ先を道場の出入口に向ける。爛々とした目つきで応を返した乱に、青江は「んふふ」と笑いを零しながら床板を蹴った。
「さあ、笑いなよ にっかりと!」
「あはっ!こんなに近くに来ちゃったよ♡」
出入口に立ちはだかっていた薙刀の攻撃を弾き、柄をいなした青江は、そのまま流れるように出入口を潜る。薙刀は追撃しようと腕を振るうが、上空からの奇襲に反応出来ず、袈裟斬りにされ霧散した。
「二刀開眼、ってね」
「っ青江さん!本丸が──!」
引き攣るような声を上げた乱についで、青江も本丸へと視線を向ける。濃い瘴気に覆われた本丸は、一角が倒壊しており、襖や障子がなぎ倒されていた。所々赤黒いのは、認めたくないが同胞の血痕だろう。
「っ、酷い有様だね…。兎に角、誰かと合流しないと」
「行こう!」
迷いなく砂利を蹴り、本丸へと戻った青江と乱は、縁側を駆け抜け、同胞を探した。
「乱くん、十時の方向で遡行軍と交戦中のようだよ」
「僕先に行くね!」
「僕は他の救援に当たるよ。太刀や大太刀の人達が心配だからね」
「うん!!」
乱は進路を変えてさらに本丸の内部へと、青江はそのまま直進し、本丸の外部の偵察を始めた。
◇◇◇
襖にべったりとついている血痕に、血の気が引くような気持ちがした。中傷以上は確実だろう出血量は、本丸の奥へ進まないように蛇行を繰り返しながら逃げているようにも感じる。
(…足跡的にも、太刀の人たちのはず)
進む先に渦巻く瘴気は、恐らく検非違使のものだろう。道場にも検非違使の斥候だろう苦無がいたし、この本丸の襲撃は時間遡行軍と検非違使が同盟を組んだとみて良さそうかな。
「見つけた」
廊下の先に見えた検非違使の姿に、速度をさらに上げる。近くに髭切さんと膝丸さんの気配がした。
「兄者ァァアアアア!!!」
「っ──!髭切さん!!」
勢いを殺さずに横から首を刺すも、髭切さんの刃が検非違使に届いたのと、検非違使の刃が髭切さんの肩口に届いたのが、殆ど同時で──。
「髭切、さん?」
瞬く間霧散した検非違使が居なくなると、その部屋には、血まみれで倒れている髭切さんと、肩を震わせている膝丸さんと、立ち尽くした僕が残った。
「兄者……なぜ、なぜ…」
「っ膝丸さん!!きゃっ」
血まみれの膝丸さんを兎に角部屋から離さないと、と声をかけるけど兄弟刀を失ったばかりの膝丸さんは聞こえていないみたいで、そちらに気を取られていれば、斥候の苦無がこちらに突進してきた。
「膝丸さんしっかりして!!」
ガギィン!!と苦無と僕がぶつかる音が響く。苦無はそこまで脅威じゃないけれど、仲間を呼ばれでもしたら、いくら僕でも守りきれない。
顎を狙って突いて、振り払う。
「膝丸さん、今手入れ部屋に運ぶから…」
「…無駄だ、主は今政府と連絡をとるために執務室にいる」
「っでも!」
霧散したのを確認してから膝丸さんの肩を担ぐけど、知らされた主の現状を知って歯を食いしばる。
「乱、俺以外にも苦戦している奴らがいる筈。手負いの救助よりも、先に役立つ奴らの支援をするべきではないか」
膝丸さんは苦々しげにそう呟いた。膝丸さんの意見は最もで、本丸の、主の未来を見据えれば、そうすべきなのは分かってる。でも、刀を、仲間を失ったあるじさんが、どんなに後悔して世を嘆くか、僕はもう『知ってる』。
「ッ膝丸さんは源氏の重宝でしょ!そんなに弱気になってどうするの!?」
「乱、」
「僕は膝丸さんも他の人たちも、諦めたくない。あるじさんの大切な刀を、一振たりとも、これ以上諦めたくない!」
周辺にはまだ遡行軍や検非違使の気配がある。しかし、まだいくつもの仲間の気配がある。──兄弟の気配が数振り感じ取れないのは、そういうことなんだろうか。
「っすまん…手数かける」
「任せてよ、僕強いんだから!」
僕はその事実から目を逸らして、遡行軍を避けながらの手入れ部屋への最短ルートを頭の中に描いた。