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僕は昨日までただのひよこだった。
『24世紀末、一つの世界規模の戦争が起き、それにより何億人もの人々の命が奪われた。全世界は統一化され、焼け野原となった世界で見事念願の完全なる平和が訪れた。この戦争のせいで人間たちが絶滅仕掛けているのは周知の事実であったが、それよりも復興が急がれる今、私達にはそんな事を考えている暇はなかった。でも、ここからが問題。一昨年の5月、新世界の長にあたるヤツが「ひよこにも人権を与えて、知能も発達させれば少子高齢化から脱却することができる」という暴論を言い始めたんだ。もちろん始めはは全世界の政治家や評論家が気が狂っただのそんなの人類の文化を傷つける行為だのギャーギャーピーピー騒いでいたが、長はそれらを無視して研究を進め、次第に誰も何も言わなくなった。そして先月、ひよこに人間並の知能を与える薬とひよこの鳴き声を人間の言語に変換する機械が完成した。ある者は絶望し、ある者は歓喜した。勿論私は歓喜した側である。諸君らひよこには人間をー』
ここまで読んで僕はため息をついた。思想が強いやつの話ほどくだらないものはない。時間の無駄だ。だが、今のでおおよその現状はわかった。ひよこ用に作られた極小サイズの本を投げ捨てる。
これはきっと夢だ。そう自分に言い聞かせるようにして鉄で作られた箱から出る。箱の中ではわからなかったが、今は夕方らしい。黄昏れとは真反対のじっとりとした暑苦しさを感じる。建物が焼けたせいで直射日光が当たる。それに、真冬とは思えないくらいに暑い、気候がこんなになってしまっては世界も終わりである。再建も不可能である。
神である人間に全てを捧げろ。ひよこは政府が生み出した兵器である。あちこちに掲げてあるスローガンを見ながら僕はため息をついた。何かマシなものはないのか。人間を崇めよ。ずっと人間に従っているつもりか今こそー
「はぁ、やめだやめだ馬鹿らしい。」そう呟いた。いや、ぼやいた。その時、翼に何かが当たった。謝る前に向こうから話しかけてきた。「わあわあ!ごめんねごめんね!いやあ〜申し訳ない!」同じくらいの年のひよこのようだ。太陽の光が当たり、相手の顔が照らされる。暑苦しい、昔の飼い主を彷彿とさせるその顔を見るだけで虫酸が走る。そしてその口から言語変換装置特有の気持ち悪い音が聞こえる。
まず、同じ言葉を2回繰り返している時点で気が合わない。小さい声で謝ってすぐ行こうとすると羽を捕まれ、「ねえ君、ペットだったでしょ」妙にその言葉に苛立って振り返ってしまった。「わかるんだよね〜態度で。僕もそうなんだけどね。」そこからは一方通行で、自分の生い立ち、自分が所属しているグループのこと、そのグループに入ってほしい事をやたらと感情的に語られた。こういうやつは嫌いだ。一応要約すると、どうやらこのひよこは自分勝手にひよこという自分より下とみなした生物を改造し、好きなように使うのが許せないらしい。だから人間を殺そう。そう言っているのだ。どうせ言うならもっと頭の悪そうなやつに言えばいいのに。心底アホなやつだ。そういうの間に合っているんで、そう適当にあしらって翼を振り払う。もう追いかけてこないだろう。そう安堵した瞬間「君が欲しい」そう聞こえた。「君が良い。君が欲しい。君だけが救いで、君だけが希望だ。君以外は考えられないし君じゃないと嫌だ。」駄々をこねるように言ったのではない。真顔で真剣な目でそう言ったのだ。バカバカしい、バカバカしい、こんなのに付いて行くやつはバカだ。そう、頭の中では思っているのに、思っていたはずなのに「10秒以内に案内しろ」そう口が勝手に言っていた。
これが不幸の、嬉しさの、怒りの、悲しみの、楽しさの、そして幸せの始まりだった。