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世界は広い。レオナは思う。自分一人では、たとえ一生掛けても、世界中のあらゆる事象を把握することは出来ないだろう。
だからこそ、レオナは望む。
唯一つの頂点を。この世の全てを。
嘗て描いた理想像は今、最早手の届かない所にある。現実に背を向け、自分の運命に抗う。それがどれだけ辛いことか、選ばれたものにはわからないだろう。だからこそ、レオナは呆れている。
隣で無邪気に笑う子供に。
「わぁぁ…っ!!おじたん、おじたぁん!!見て見て、綺麗だよ、お星様っ!!」
獅子の耳をぴょこんと揺らし、空を指差す。小さな手では大空に届きようもない。必死に背伸びする姿は、か弱い草食動物にしか見えそうにない。
「ったく…はしゃいでんじゃねぇ。ちっとは黙れよ」
「だって、だって!!おじたんが一緒にお星様見てくれるって言ったから!!」
「わーってる、だから落ち着け」
最近お星様の勉強をするんだよ、とチェカがレオナに胸を逸らしたのは、何時だったか学園に遊びに来た時だった。おじたんも一緒に見ようと言うのをその場は軽くいなしたものの、電話で口を開けば星だ星だと喚かれては、レオナとて躱しきれない部分もあり。ホリデーで帰った途端飛びつかれては、断りようもなかった。
だからこうして野原にいる訳だが、確かに星は目を見張るほど美しかった。少しはチェカの言い分も信じてみるもんだな、とレオナは感心する。大きな星空は感嘆を漏らすと共に、レオナの心に暗い影を作る。大きな空は何時だって見上げる対象であり、それさえレオナには鬱陶しかったのだ。一方的な嫉妬だと分かっている。ただ、こんな存在になれたら、と渇望せずにはいられない。
「おじたん?どうしたの?」
「ア?何もねェよ。…ハァ、さっさと習ったことだかなんだを喋ったらどうなんだ?」
「あ!そうだった!!」
本気で忘れていたらしい。全くコイツは、と内心呆れるが、たまにはいいか、と息をついた。時間は腐るほどある。家に帰る理由も特にない。レオナは草の上に寝転んだ。
冬の星空は澄んでいて、何処までも続きそうだった。
「それでねっ!あれがオリオン座なんだよ!」
「あァ…そんくらいなら知ってる気がするな」
「それでねそれでねっ!オリオン座のα星のベテルギウスと、おおいぬ座のα星シリウスとっ、こいぬ座のα星プロキオンを結んだらね、冬の大三角なんだ!!」
小さな手が、空で3角を結ぶ。目で追っていたレオナは、チェカにやれと迫られて仕方なく倣った。
「それでね、それでねっ……ふふふ、」
「なんだ、いきなり笑い出しやがって」
「んーん、なんでもなぁいっ!あのね、あのお星様のお名前がね___」
しし座って言うんだぁ。
しし座。それがなんだ。ただの一等星だろう?そう問うと、違うもん!と声が飛んだ。
「しし座のα星レグルスはね、社会に対する向上心……みたいな意味がついてたんだけど、」
要するにそっちはあまり覚えてないらしい。
「しし座についてる、意味がね、素敵なの」
しし座。自分も、それが好きだった気がする。確か意味は____
「「小さな王」」
小さな声が重なり、2人は顔を見合せた。みるみるうちにチェカの表情が明るくなっていく。
「おっ、おじたん知ってたの!?」
「あーあー、るせ。ちょっとだけな」
「おじたんも、しし座好き!?」
星に好き嫌いもないだろ、と言いかけて、留まった。チェカぐらいの歳の時、これを習って同じように思いを馳せたのを覚えていた。そらは懐かしく、ほろ苦い思い出ではあったものの、嫌いではなかった。
妬ましくも、何時だって大きく構えている空というものに、俺だって安心していたのだ。
「あぁ」
別に、好きな星くらいあってもいいだろう。そう思えるようになったのは、いつからだろうか。
「だよね!!僕も大好き!!!」
頬を蒸気させ、必死に叫ぶチェカ。やかましい声が今夜だけは愛しく思える。
「そんなに騒いでっと星も逃げちまうかもな」
「え?星はガスの塊だから逃げたりしないよ?」
おじたん何言ってるの?
マジレスされたレオナが、数日チェカからの電話を無視するのは、また別の話。