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大森side
「え」
その瞬間、涼ちゃんにナイフで刺された。
腹に鋭い歯が奥深くへ入っていき、鈍い痛みが体全身に伝わってきてその場で腹を抑えて倒れ込んだ。赤黒い血がだらだらと服に染みていく。涼ちゃんの顔を見上げると目の奥に光は入っていない笑いをしていて怖かった。涼ちゃんがナイフで刺した腹をゆっくりと撫でて、またニッ、と口角を上げた。
「やっとだ」
やっとだ、?
どういうことかよく分からなくもないけど、分かりたくない。涼ちゃんが若井に好意を持っているのは分かっていたけど、俺はそんなに若井にベタベタスキンシップをしていない。なのに、どうして?
「どッ…して…、?」
思ったことと全く同じことを聞くと、涼ちゃんは俺はねえ、と話し始めた。
「若井の事が好きだと思ってたでしょ、元貴。俺ね、元貴が好きなの。なんで殺したのって聞きたいでしょ?、そりゃ、元貴を俺だけのものにしたいから。殺させてもらうね」
いつもフワフワと笑っている涼ちゃんの雰囲気はどこにも感じられず背筋がゾッと凍りそうになる。凍りそうになるのを感じているのもつかの間、大量出血で頭が回らなく視界が薄暗くなってきた。
こんなとこで、死にたくない。しかも信頼していたバンドメンバーに、俺のことが好きだと言った人に。絶望感と恐怖を味わっている間に瞼はどんどん狭まっていき視界と意識が完全に遮断されそうだ。ああ、死にたくない。なんだよこれ、涼ちゃんじゃないよこんなの。涼ちゃんは人殺しをしない__
「ッえ…_?」
目が覚めた。しかも自分の家のベッドで?
さっき、涼ちゃんに殺されたはずなのに、おかしい。そうだ、涼ちゃんに連絡してみようかな。そう思いスマホを手に取りメールを開いてみると、今から元貴の家行くね、という涼ちゃんからのメッセージが来ていた。もしかしてこれって、今から殺されるのか?そんな、ループしてる訳ないよね、夢だったんだよ。アニメじゃあるまいし
ソファでゆったりしていると、家のインターホンがなった。藤澤涼架です、と自慢げに言うこの声は完全に藤澤涼架という涼ちゃんで安心してドアを開けると、腹に鈍い痛みが走った。
….あれ、これって。
グサグサと腹にナイフを刺してくる涼ちゃん。俺は腹を抑えて倒れ込んで、え、と思いながら涼ちゃんの顔を見上げると夢で見た顔とそのまんまそっくりの涼ちゃんの笑っている顔が見えた。すると夢のように涼ちゃんが俺の腹を撫でて、やっとだ、と口にする。
何これ。なんなの?
俺がどうして、と聞く前に涼ちゃんがまた俺はねえ、と話し始めた。耳に入ってきた内容は全て夢で見たのと同じ言葉で背筋が凍る。
あ…これ、死ぬ。冗談抜きでやばい。
夢、夢であってくれ…..。
また自分のベッドの上で目が覚める。
はぁはぁと荒い息遣いで腹を抑えた。腹には刺し跡もなんにもなくて、頭がおかしくなりそうだ。本当にさっきたちのやつは何だったんだ。俺は涼ちゃんに殺されてないの?生きてるの?若井はどこにいるの?
メッセージなんて見るのをやめて急いで玄関に向かい鍵を閉めているかチェックをする。
鍵を閉めていて安心して玄関に倒れ込むと、ドンドン、とドアが叩かれた。
藤澤涼架です、と名乗る涼ちゃんに恐怖を感じて、若井に助けを呼ぼう、とスマホを取りに行こうとして立ち上がった時、玄関のドアが開いた。焦って振り返ると笑顔の涼ちゃんがいて、その片手にはナイフ。もうなんなんだよ、殺すなら殺せよ。もう、こんなの耐えられねえよ。
「ックソ…!なんなんだよ…ッ!!」
これまでの夢全てにイライラが来て、自分を殴りたくなる。もう、これもどうせ夢なんだろ、先に死ねば涼ちゃんに殺されなくて済む。そうだ、このロープで….。
そう思っている時、スマホからピコン、と音が鳴る。もういやだ、と思ってスマホなんて見ないで椅子を使って天井にロープを貼り付ける。輪っかを作って俺の頭が入るサイズに調整して、輪っかに首をかけた。この椅子をどければ、楽になれる__。
「もときッ…..!!!」
「元貴……!!!!」
あれ、2人の声…。おかしいな、死んだはずなのに。フッ、と乾いた笑いが不意に出る。2人とも、耳が聞こえなくなったの?俺後ろからずっと声掛けてんだけど。返事してよ、どうしちゃったの?
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