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フィクションです。
第二話
僕たちのスマホが時間差で鳴った。
若井からの連絡かと思って手を伸ばす。涼ちゃんも同じ考えだったらしい。
そんな意に反してメッセージの送り主はマネージャーだった。話したいことがあるから至急来られないか、というものだった。
ちらりと涼ちゃんの方を見る。
「マネージャーから」
同じ内容ってことか…できるだけ早くって…今すぐってこと?そんなに緊急性のあることなのだろうか。
「どうする?」
心理状態を心配してくれているのだろう。涼ちゃんが覗き込むようにして僕に目を合わせて問いかけた。
「多分今行った方がいいよね。急ぎの案件っぽいし 」
「そうだね 」
急いで準備をしてタクシーに乗り込む。
「…」
「だいじょぶ?」
「…わかい、どこだろうな…って」
数時間前に送ったLINEにいまだ既読はついていない。それは涼ちゃんも同じみたいで、難しい顔をしている。
普段マネージャーからの連絡は、3人共通の内容は3人のグループに、別々の内容の時は個チャに来る。僕と涼ちゃんに来ている文面を照らし合わせたら全く一緒の内容だった。
…ということはつまり、これは若井には送られていない。何か嫌な予感がした。
指定の会議室に入ると神妙な面持ちのなじみのスタッフが座っていた。
「えーっと…何かあったんですか?」
涼ちゃんが先陣を切ってくれる。そりゃ何かあるから呼び出したんだろってどこか冷静になってしまっている自分がいる。
「若井に何かあったんだよね?」
変に濁されても時間の無駄なので自分で切り込む。後ろに立つ涼ちゃんがちょ…っと静かに慌てたのが分かった。
「幼なじみにはお見通しって訳か…とりあえず座って」
促され椅子に腰掛ける。
その後スタッフの口から伝えられたことはいかにも信じがたく、指先からだんだんと冷たくなり身体全体の力が抜けていくのが分かる。
明日、若井の熱愛スクープが出るらしい。
すっと涼ちゃんが手を握ってくれる。
温かさと優しさが心に沁みる。
早鐘を打つ心臓とは裏腹にどこか冷静な頭があった。
これは若井と僕個人の問題ではなく、ミセスとしての問題だ。デビュー10周年ということでまだまだ発表されていない情報は山ほどある。こんな大事な時期に波風は立てたくない。
「公式としては触れない方向で」
僕の呟きに涼ちゃんとスタッフは大きく頷いた。
今若井は隣の部屋にいるらしい。3人で話したいことを伝えてそちらに向かう。
ガチャ
恐る恐る扉を開くとそこには若井とマネージャーの姿があった。
マネージャーは僕と若井を交互に見つめた。
「直接話してあげな」
若井に向かって言って部屋を出て行った。マネージャーは僕たちの関係を知る数少ない人だ。本心を話しやすいように退出してくれたのだろう、そんな配慮がとてもありがたい。
「えっと…僕も出て行こうか?」
涼ちゃんが気をつかって小声で尋ねてくれた。だけど、今はとにかく…
「大丈夫。私情とか関係なくミセスとして話すから。」
その後続いた沈黙を破ったのは若井だった。
「…先ずはごめん。こんな大事な時期に」
「本当だよ」
私情は関係ない、そう言ったにもかかわらず早速少しイライラとして冷たくあたってしまった。
「…事実だけはっきりさせて」
涼ちゃんがいつもよりも低く、それでも落ち着いた声で言った。
意を決したように若井が口を開く。
息を吸う音すらも鮮明に聞こえた。
続きます。