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フィクションです。
第三話
意を決したように若井が口を開く。
「…記事の内容に、身に覚えは…一切ない。」
絶対ありえない、そう信じていたけれど本人からその言葉を聞くことができて心底安心した。
「分かった。」
涼ちゃんが呟く。その顔には安堵の表情が浮かんでいたような気がした。
そしてそのまま僕を見つめる。
何か言いたいことがあるなら今聞いちゃいな、とでも言いたげな視線。そうだよね…伝えたいことは沢山ある。
だけど…
「ミセス10周年で一番大事な時期なのに何やってるの?…発表してないことだってまだまだいっぱいあるのに。どうするつもり? 」
ああ…違う。こんなことが言いたい訳じゃない。なぜか口からは妙にすらすらと攻撃力の高い言葉が溢れてしまう。
違う
違う
違うのに…
伝えたいことはいつも言葉にならない。
「ごめん…元貴。涼ちゃんも。」
若井は頭を下げていた。
「いいから、若井…謝ってほしい訳じゃなくて。えっと…気持ち入れ替えて気にせず頑張ってこうってだけで、」
「え…」
お手本のような鳩が豆鉄砲を食ったような顔。目をまんまるに見開いて固まっている。 こんな状況なのにかわいいな…とか思ってしまった。しょうがないよね?顔がいいんだもん。
「元貴〜説明足りなくない?笑」
空気がふわっと解けた気がした。やはり涼ちゃんの笑顔は僕たちの間に咲く一輪の花だ。
「えっと、うん。…若井、僕怒ってないから…安心して?」
「本当に…?え?」
妙にどこか噛み合わない会話を見かねた涼ちゃんが、やっぱり席外した方がいいね!と僕たちに声をかけて部屋から出て行く。
これでやっと僕はメンバーとして、ではなくて恋人として話をする。…涼ちゃんには感謝してもしきれないな。後でお礼しなきゃ。
「元貴、ごめん」
「置いていかれて悲しかった。」
「…え、そこ?」
「…だって若井僕のこと大好きじゃん。浮気とかするはずないって信じてたから」
半分本当で半分は嘘。熱愛を撮られたことも大分衝撃だったけど、どちらかと言うとそれを知った時一番に僕に話してくれなかったことの方が悲しかった。
でも拭えない少し不安な気持ちは綺麗に内側に隠す。メンバー特に若井の前ではあくまでも自信家で気丈に振る舞う大森元貴でありたいと思ってしまうのは僕のちっぽけなプライドだ。
「ごめん、本当にごめん」
「急に帰ったのも、迷惑かけたのも」
そう言いながらぎゅっと抱き寄せられる。若井の匂いがする。まるではじめて同じようなことをされた時のように心臓が早鐘を打っていた。心が満たされていく。大丈夫…大丈夫。若井はきっと僕のことなんて何でもお見通しなんだ。
「僕が傷つくと思って何も言わずにいなくなったんでしょ」
「…まあ、」
「若井のそんなところが大好きで大嫌い」
回された手にさらに力が込められた。
続きます。