テラーノベル
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〜第三章〜
翌日、ロビーで人形をメロンに手渡した。
「これ…」
「あー、これだ!見つけてくれて本当にありがとう、ぺろさん。助かったよ」
メロンはそう言って、人形を手に取った。そして、なぜかその場で、まじまじと人形を観察し始めた。
「すごいね、これ。誰が作ったんだろう。ぺろさんにそっくりだ」
メロンが、人形の首筋に、そっと指先で触れた。
その瞬間、
「っ…!」
ちょこぺろの身体に、雷が落ちたような衝撃が走った。
「どうかした?」
「い、いや…なんでも、ないよ…」
メロンは、少し不思議そうな顔をしたが、すぐに人形に視線を戻した。彼の指は、人形の首筋を離れない。撫でるように、優しく、なぞっている。
(ダメ、やめて…!)
ちょこぺろの首筋に、実際には何もないはずなのに、彼の指の感触がリアルに伝わってくる。体が熱くなり、背筋に悪寒が走る。
メロンは、人形の持ち主を探していると言ったはずだ。だが、彼は持ち主を探す素振りを見せず、人形を手のひらに乗せて、静かに見つめている。
「ふーん…」
メロンは、今度は人形の身体を、手のひらで包み込んだ。
そして、人差し指を使い、人形の脇腹の柔らかい部分を、ゆっくりと、優しく、くすぐり始めた。
「…ッ!」
「ひゅッ…!」
ちょこぺろは、呼吸が止まった。実際には触れられていないのに、自身の脇腹が、メロンの指の動きに合わせて、電気が走ったようにゾクゾクと震える。ちょこぺろは、思わず口元を手で覆った。声が漏れるのを、必死に堪えた。
(なんで…なんで、くすぐるの…?)
「ぺろさん、顔が真っ赤だよ?」
メロンは、優しく、心配そうに尋ねた。だが、その瞳の奥には、どこか探るような光が宿っているのを、ちょこぺろは感じ取った。
「だ、大丈夫…ちょっと、暑くて…」
メロンは「そっか」と言うと、人形への行為を止めた。ちょこぺろは、急に解放された身体に、思わず深く息を吐いた。
「ねえ、ぺろさん。この人形、もう少しの間、僕に貸してくれないかな」
「え…?」
「持ち主をしっかり探したいんだけど、僕が今、遠征続きで。ぺろさんから持ち主を探した方が、早く見つかりそうな気もするし。お願いできなませんかね?」
メロンは、あくまで優しい口調だった。断る理由はない。
「…わかっ、た」
〜第四章〜
人形をメロンに貸してからの数日間、ちょこぺろは地獄を味わった。
ガチマッチで集中しようにも、いつ、メロンが人形に触れるかという恐怖で、気が気ではない。
そして、その恐怖は、必ず現実のものとなった。
ある日の真夜中。ちょこぺろはベッドで眠りについていた。突然、自分のお腹のあたりに、じんわりとした熱と、圧迫感を感じて目が覚めた。
(…っ、ん…!)
それは、メロンが人形の腹部を、手のひらでゆっくりと擦っている感覚だった。優しく、しかし確実に、円を描くように撫でられる。
体が弛緩するような、甘い痺れが、身体の内側から込み上げてくる。
「は、ぁ…っ…ふ、ぅ…」
耐えられない。声が漏れる。喘ぎだ。
ちょこぺろは、口を塞いで、必死に声を殺した。
(誰にも…聞かれちゃ、ダメ…!)
次の日の昼休み。ロッカールームで着替えをしている時。
チクッ、と。
今度は、人形の太ももの内側を、爪の先で、優しくなぞるような感覚。皮膚の薄い場所を、メロンの指が滑る。
「…ひ、ゃあッ…!」
背中にゾクッと、鳥肌が立った。全身の血液が、顔に集まるような熱。
ちょこぺろは、震える足で壁に寄りかかった。
「ちょこぺろさん?大丈夫?」
たまたま通りかかった知り合いのイカに声をかけられ、ちょこぺろは悲鳴を上げそうになった。
「だ、大丈夫です…ちょっと、足が痺れて…」
その日の夜、ちょこぺろは限界だった。身体の制御が効かない。自分の意思とは関係なく、身体がメロンの指先に反応してしまう。
彼女は、意を決してメロンにメッセージを送った。
🍫ちょこぺろ:
あの、メロンくん…人形、もう返してもらっていいかな…?
しばらく待つと、すぐに返信が来た。
🍈メロン:
ごめんね、ぺろさん。もう少しだけ貸してもらえると嬉しいな。今、バイトで遠いところにいるから、あと数日だけ。
そして、そのメッセージの直後。
「ん、んっ…ッ!!!」
彼の耳元で、熱い息が聞こえるような、強烈な錯覚。
今度は、人形の唇を、メロンの指が、優しく、何度も、何度も、擦っている。
「ぁあッ…や、め…ふ、う…」
ちょこぺろは、ついに声を出してしまった。喘ぎ声は、部屋の誰もいない空間に響く。声帯が震え、全身が痙攣する。
メロンに、バレている。
確信した。彼は、この人形が自分と繋がっていることに、気づいている。そして、それを知りながら、意図的に触れている。
彼は、誰にも優しく、冷静で、ランキング1位の、完璧なイカだ。
そんな彼が、なぜ、自分のような大人しいイカに、こんな意地悪をするのか。
メッセージの返信。
🍈メロン:
…ぺろさん、どうかした?急に返信が途絶えたから、心配だよ。
まるで、何も知らないかのような、優しいメッセージ。
(メロン、怖い…)
そう思いながら、ちょこぺろは自分の身体が、メロンの指先の動きに合わせて、甘く痺れていることに、抗えなくなっているのを感じていた。
翌日。ちょこぺろは、ランキングボードの前で、52ガロンを肩にかけたメロンを見つけた。
「メロン、くん…」
震える声で呼びかけると、彼は振り向いて、いつもの優しい笑顔を向けた。
「やあ、ぺろさん。待ってたよ」
「あ、あの…人形のこと…」
「ああ、これ?」
彼は、ポケットから人形を取り出す。そして、ちょこぺろの目の前で、人形の頬を、そっと、親指の腹で、優しく撫でた。
「ッッ…ひゅ、う…」
ちょこぺろの全身が、一瞬で熱に包まれた。彼は、目を閉じて、その熱に耐える。
メロンは、優しく囁いた。
「ぺろさん。君のプレイ、全部見てます。あなたのエイムが少し乱れる時、僕はいつも、ここに触れているんです」
彼は、人形の胸元を、ゆっくりと、手のひらで包み込んだ。
「次のバトル。僕の隣で、ぺろさんの本当の音を、聞かせてくれないかな?」
ランキング1位のメロンの、底知れない優しさと、恐ろしい支配欲。
ちょこぺろは、もう、彼の瞳から、逃げられないことを知った。
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