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公園は広く整えられた芝が広がっている。植栽が美しい清潔感の有る空間だった。
仄かな緑の香りが爽やかだ。
周りを観察しながらゆっくり進んだ先には池があった。水鳥が休憩している姿が可愛らしくて癒される。
近くの空いているベンチをキープして、そこで昼食をとることにした。
おにぎりの包装フィルムを外しながら空を見上げる。
雲の無い真っ青の空。今日はとても天気が良くて、十月も後半だと言うのにポカポカと暖 かい。
ああ……とっても気持ちがいい。
癒しのひとときを満喫していると、あっと言う間に焼肉弁当を食べ終えた大樹が私と同じ様に空を見上げ呟いた。
「気持ちいいな」
「うん、私も思ってた」
「花乃外で食べるの好きだもんね」
「知ってたの?」
またお母さんが何か言ったのかな?
そう思って聞いたけれど大樹は首を振り昔を懐かしむ様に微笑んだ。
「昔から知ってたよ。花乃、運動会の前とか凄いはしゃいでたから。俺がどうしたの?って聞くと運動会の校庭で食べるお弁当が最高なんだって話してたから」
「……そうだっけ?」
私そこまで食い意地はってなかったと思うけど……でも懐かしな。
そう言えば大樹はどうなんだろう。
外で食べるのは好きなのかな?
本当はちゃんとしたレストランで食べたかったんじゃないのかな……そもそも大樹って何が好きなんだろう。
幼馴染の私たちは、子供の頃はよく一緒に過ごしていたけれど、今の私は大樹のことを良く知らない。
それも当然かで、私は避けてばかりで知ろうなんてしなかったんだから。
大樹は中学校を卒業した後は、どんな高校生活を送ってたんだろう。
大学は? 社会人になって直ぐの頃は?
普段はどんな所で何をして遊んでたんだろう。
今日はずっとふらふら目的地なく見て回る私に付き合ってくれたな。
私は楽しかったけど大樹はきっと全然興味の無いお店だったよね。
つまらなかったんじゃないのかな。
穏やかな日差しの中、そんな事を考えていたらつい大樹をじっと見つめてしまっていた様だ。
「花乃、どうした?」
大樹は不思議そうに首をかしげる。
「あの……考えてみたら私が見たいお店ばかり行ってたなって思って。大樹は退屈だったでしょ?」
「全然」
大樹は即答した。
「花乃が楽しそうにしている所を見てるのは退屈しないし」
「そんな気を使わなくていいのに」
「気を使ってるんじゃなくて本当だかr。俺は花乃と一緒にいるのが楽しいから場所なんてどこでもいい」
大樹は何の気負いも無くサラリと言う。
でも私は戸惑ってしまう。
「……何で私といるだけで楽しめるの?」
「花乃が好きだから」
大樹はまたしてもサラッと言う。
「な、何でそんなにあっさりと言えるの?」
好きなんて……私だったら絶対に面と向かって言えない。
「だって言わないと伝わらないじゃん」
「それはそうだけど
でも、普通は恥ずかしいよね?
それに気持ちを隠さないで言うのって勇気が要る。
私なんて、好きな相手には近付くのだって難しいのに。
「花乃」
考え込んでいる私の膝の上に、大樹は小さな袋をそっと置いた。
「どうしたの?」
袋にはショッピングセンターに入っていた店のロゴが印刷されている。
大樹いつの間にか買い物していたのかな?
「誕生日プレゼント」
「……え?」
驚く私に大樹は言う。
「コートは駄目って言われたけど、これならいいかと思って」
「で、でも……」
貰わなかったとは言え大樹はタルトを用意してくれていたのに、新たにプレゼントを貰うなんて厚かましすぎないかな?
「開けてみて」
大樹に促され私は迷いながら袋を慎重に開けた。
中にはと柔らな光沢のゴールドのネックレスが入っていた。
まろやかな色味のゴールドが上品で、デザインは可愛らしい雰囲気で……凄く私好みのものだった。
「……可愛い」
感動して思わず声に出してしまう。
すると大樹は本当に嬉しそうな笑顔になった。
「花乃の好みだとは思ったんだけどやっぱり反応見るまでは心配だったんだ。気に入ってくれたみたいで良かった」
「凄く気に入ったよ、私ゴールドのネックレスずっと欲しくて、今日の服にも合わせたいって思ってたから」
「そうかと思った。花乃時々襟元気にしてたから」
もしかしてそれでこのネックレスをプレゼントに選んでくれたの?
大樹の洞察力の高さに感心する。
私の事、そんなによく見ていてくれてるの?
「……本当に貰っていいの?」
二度目の誕生日プレゼントを貰うなんて、普通だったら変だと思う。
でもこれは受け取るべきだって感じた。
大樹は頷く。
「花乃の為に選んだんだから」
「……ありがとう」
「着けてみる?」
「あ、うん。着けてみたい」
私はそう言いながらネックレスを首元に合わせつけようとする。
でも鏡が無いからなかなか上手くいかないでいると、その様子を見ていた大樹が言った。
「俺がつけるよ」
「え? 大樹が?……じゃあ、お願い」
驚いたけれど頼んでみると大気は私の後ろに回り、私の手からネックレスを引き取った。
「長さこれくらいでいいかな?」
大樹は長さを調整しながら言う。
「う、うん」
私は結構緊張しながら頷く。
大樹相手に緊張するのは変だけれど、ぴったり後ろに立たれ、首元に手を伸ばされてしまっては気せずにはいれらない。
体に力が入る私に向かって大樹が呼びかけて来た。
「花乃」
「何?」
振り向いた私の前で、大樹はネックレスを手にしたまま少し緊張した面持ちで言った。
「花乃は俺の事どう思ってる? まだ嫌いで許せない?」
「えっ? な、何で急に?」
「急じゃない。昨日も聞いただろ?」
そ、そうだけど、今突然そんな話題に移るなんて思わなかった。
……私は大樹の事をどう思ってるんだろう。
ずっと嫌いで避けていて、まだわだかまりが解けたばかりだし……でも、
「嫌いで許せないなんて思ってないよ」
それははっきりとしている。
須藤さんに憧れていた時のようなときめきは無いけど、一緒に居ると結構楽しい。
恋をする様な好きじゃなくても、私は結構大樹が好きなのかもしれない。
「良かった」
大樹は花が咲いた様にぱあっと明るく笑った。
本当に嬉しそうな顔。
「花乃、あっち向いて、ネックレス付けるから」
「あ……うん」
大樹に促され、私はまた大樹と同じ方向へ向く。
大樹は今度はちゃんとネックレスを付けてくれた。
胸元に温かなゴールドの光が揺れる。
それをぼんやりと眺めていると、大樹の声が聞こえて来た。
「焦るのは止めた。こうやって少しずつ花乃と距離が縮んで行くように頑張るよ」
「え?」
振り向くと、大樹はにっこりと笑って言った。
「思った通りよく似合う」
「え?」
「ネックレス」
「あ、ありがとう」
私はお礼を言いながら、すっかり気に入ったネックレスにそっと触れる。
今日は私の人生初デート。
彼氏でも無い、幼馴染の大樹に強引に誘われて来たけど……良かったな。
大樹といると楽しいし、私らしくいられる気がする。
「花乃、そろそろ行こう。映画でも見ようか?」
大樹が手を差し伸べて来る。
その手を取るのに私はもう躊躇いは無い。
この後の楽しい時間を予感しながら、温かい手をそっと掴んだ。