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ちょうどあっちに用事があるって、なんの用事があることにしようかな、と思いながら、脇田は傘を広げていた。


だが、蓮は、特にそういった追求はせずに、群青色の傘を見上げ、

「大きいですね、脇田さんの傘。

脇田さんが大きいから?」

と言ってくる。


「いや、身長大きいのと、傘大きいの、関係ないよね……」


横に広いわけじゃないんで、と言うと、あっ、そうですよねー、と蓮が苦笑いする。


なんだろうな。

高校のとき、女の子と初めて一緒に傘に入って帰った。


あのときより、ドキドキするな、と思っていた。


渚はあの外見に反して、あんまり女の子に縁がなかったようだが。


自分はそうでもなかったのに、蓮を前にすると、ちょっと緊張する。

まあ、渚の場合、近寄りがたいところがあるからな、と思っていた。


渚に声がかけられないから、二番手のこっちに来る子が多かったというのが本当のところだろうと思っている。


蓮に言うと、

『そんなことないですよー』

と笑うのだろうが。


秋津さん、絶対、人のこと、悪く言わないからな。


だから、彼女は、婚約者のこともそんなに悪くは言わないけど、実は相当困った男なのかもしれない、と思ったとき、それは雨の中現れた。


どうしよう。

絵に描いたような、ボンクラそうなイケメンが目の前に居るんだが……。


案の定、彼は蓮を見ていて、蓮も足を止めている。


「このボン……


失礼。

この人、もしかして」

と小声で蓮に訊く。

蓮は彼を見たまま頷いた。


育ちがいいせいか、意外にセンス良く質のいい服を着こなしているのだが。


なんだろう。

顔がいけ好かない、と言うか。


何処か気障きざったらしい。

同じようにお金持ちのお坊ちゃんでも、やりたい放題でも、何処か生き方にストイックさを感じる渚とは正反対な感じだ。


「やあ、蓮」


雨の中、男は蓮に笑いかけてくる。


「最近、新しい男が出来たって聞いたけど。

こいつがそう?」

とこちらを見て、訊いてくる。


そんな莫迦な、と思ったが、秘書の習性か、勝手に口を挟むのもはばかられる感じがして、黙っていた。


いや、ちょっと、今のセリフが気になって、黙ったのもあるが。

新しい男ってことは、やっぱり、前が居たってことか? と思ったのだ。


「こいつは、あの課長代理より、諦め悪いかな?」

と和博は言ってきた。


「あの人は関係ない。

それから、和博さん、もう私と結婚する話は諦めて。


貴方が好きとか嫌いとか考えたこともない。

従兄弟だし。


一緒に育ったし。

貴方もそうなんじゃないの?


なのに、貴方が私と結婚したいと思うのは、単に、お爺様の後を継ぎたいからでしょう?」


「相変わらず、おめでたいな、蓮」

和博は蓮の髪をつかみ、自分の方を向かせる。


「金も女もいるに決まってるじゃないか」


……ス、ストレート過ぎる。


或る意味、渚より怖い、と思っていた。


だが、或る程度、トラブルにならないよう心得ていて、脇田が止めるより早く手を離す。


「また僕以外の男を作ってるって聞いて、嘘かと思ってたんだけど」


「いや、また、もおかしいし、僕以外もおかしいんだけど、和博さん」

と言う蓮の言葉を和博は訊いていない。


こちらを見て、

「どうせ、そんな馬の骨、お前と結婚できるような男じゃないだろ。

徹底的にアラを探してお爺様に見せつけてやるからな」


覚えてろよ、と言って和博は去っていく。


「……最後はお爺様頼みなのね」

と蓮は呆れたように言ったが、さすがに一緒に育ったというだけのことはあり、完全に見放した風でもなかった。


「ごめんなさい。

昔からあんな人なんです」

とまったくフォローにならないことを言い、こちらに向かい、謝ってくる。


「お爺様にって、秋津会長はあの男の言うことを聞くの?」


「わからないです。

そんなこともないと思うけど。


孫としては可愛がってらして。

ほら、莫迦な子ほど可愛いって言うから」


誰より蓮が彼を突き放している気がする……。

それに気づいていないらしいあの男はある意味、幸せなのかもしれないが。


「和博さんに経営を任せるとかはないと思うけど。

私との結婚にも、特に反対はされなくて。


この話をどうするかは私に任せるとおっしゃったの。

それでおじ様たち、調子に乗っちゃって」


「金も女もいる、か。

いっそ、言ってみたいな」

と変に感心して和博の去った雨の街を眺めていると、


「脇田さんでも、そんなこと思うんですか?」

と蓮がこちらを見上げて笑う。


「いや、金はいいけど……」

そこで思わず、蓮を見てしまった。


「いや、別にそういうのはないよ。

僕もさ。


ほら、秋津さんが渚に言ったっていうみたいな、平凡な暮らしがしたいなって思ってるから」


狭いアパートの一室で、夫婦二人で穏やかに。

と思ったが、すぐに特に狭くもない蓮のマンションが思い浮かんだ。


やっぱり、この人にはそういう暮らしは合わないか、と自らの妄想に苦笑する。


「ところで、課長代理って誰?」


蓮が笑った顔のまま、フリーズしていた。





派遣社員の秘め事  ~秘めるつもりはないんですが~

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