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#妄想
memi(めみ)
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ぷりんさんのリクエストで、rtttの『学パロ』を書かせていただきました!
思ったより文字数が行かなかったのでそれぞれ別のお話二本立てにしたのですが、二本目は特に要望と違う感じになってしまっている気がします。
でも楽しかったです! リクエストありがとうございました!
学パロ その①
蝉の声が響く教室で、俺は何度目かのため息を吐く。その拍子にうっかり手元に力が入り、シャーペンの芯が折れてどこかへ飛んでいく。
ただでさえこの茹だるような暑さなのだ。今の俺にはページにびっしり並んだ数字の羅列も、背中を濡らす汗の感触も、後ろから忍び寄ってくるバレバレな足音にさえ、構っている余裕はなかった。
「進捗どうよ、リトくん」
「……全部の数字が憎い」
「おっ、それイッテツくんに言っちゃう?」
テツはケラケラ笑いながら隣の席にどっかり座り、机の上にコンビニの袋を置く。早くも結露の浮かんだそれはおそらく、俺への差し入れのジュースだろう。
「水分は取らないと危ないよ」と言ってスポーツドリンクを差し出され、俺は小さく礼を言ってさっそくひと口飲んだ。爽やかな甘さのそれが喉を潤し、同時にちょうどよく冷やしてくれる。
「詰まってるみたいですなぁ、兄さん」
「詰まってるよ。見ての通り。悪い?」
「いやいや。誰にでも向き不向きはありますからね、そりゃ」
「フォローになってねえよ……」
「……んで、今どんな感じよ?」
項垂れる俺を華麗にスルーしたテツは、消した跡も無いまっさらなページを見て「うわ」と半笑いで呟く。引くなよ、だって最初っから何書いてあんのか分かんねえんだもん。
「これどこまでやんなきゃいけないやつ?」
「とりあえず期末の範囲までだから……これくらい」
「え、半分も進んでねぇじゃん」
「言うなよお」
あまりにもあんまりだったテストの結果の報酬は、先生が呆れ顔で手渡してきたペラペラの問題集だった。「宇佐美にはこれくらいが限度だろうから……」みたいなことを言われた気がするが、教える側がそれ言っちゃ駄目だろ。
テツは自分用に買ってきたであろうカラフルなパッケージのよく分からないジュースを煽り、わざとらしく顎に手を当てて眉根を寄せた。
「んー……でもリトくんって地頭は良い方だと思うんだよなぁ。現に英語の成績はめっちゃ良いし」
「いやそれマナにも言われたけどさ、要は英語ってただの言語じゃん。なんか問題出されて考えて……っていうんじゃなくて、『これ読める?』『今なんて言ったか分かった?』って聞かれてるだけなの。しかも俺は留学までして必死こいて勉強してきたわけだし」
「いやそれね、ほんとすごいと思うよ。きみの行動力。ただの言語だってできない人はできないわけだし、それをできないままにしないで留学までしてんのマジですごいことだからね。なんていうか……きみのそうやって、学ぼうっていう姿勢がかっこいいと思う」
「ん……」
いきなりノータイムで褒めそやされて、居た堪れなくなった俺はそっぽを向く。半分ほど減ったスポーツドリンクを頬に当て、熱くなった肌を冷やした。
……そうして自信をつけてもらったところで、目を落とした先は白紙なわけで。
「……今日ウェンは?」
「あぁ、彼ね、なんか旅行行ってるみたい。どこ行ってんのかまでは知らないけど」
「マナは」
「さぁ……ああでも、この夏は歌に打ち込みたいって言ってたし誰かとカラオケでも行ってるんじゃない?」
カラオケかあ。いいな、俺だってこんな補習さえなければ誰かと、それこそテツとどこかへ遊びに行ったりしたかった。それもこれも己の成績が振るわなかったことを恨むしかないのだが。
「テツは? 今日予定とかねえの」
「や、どうせ家いてもやることゲームかネットサーフィンくらいだし」
「ゲームあんじゃん。こないだアプデ入ったやつ」
「あれは……きみとやんないと面白くないからさ」
──何だよそれ、勘違いしちゃうだろ。俺は問題に悩むふりをして口元を覆い隠す。
いや、事実こんなことで浮かれている暇は無いのだ。そもそも俺がほぼ全教科赤点とかいう『留年』の二文字がチラつく成績を取っていなければ、テツだって今頃涼しい部屋で心おきなくゲームをしていられたんだし。
やっぱり、塾とか行くべきなんだろうか。友達と遊ぶ時間が減るのが嫌で今まで忌避して来ていたのだが、いよいよ潮時かもしれない。
マナは、本当は俺たちと同じ学校へ通っているのが不思議なくらい頭が良い。本人は進学校のライに勉強を教えてもらえるからだと言って言っていたが、もし俺がライに数学を教えてもらったところで脳みそがパンクして終わりだろう。
ウェンだって常に成績は上の上だ。ああ見えて意外と授業はしっかり聞いている方だし、何よりあいつは教えるのが上手い。実際今年の夏はほとんどカゲツの課題を手伝うのに付きっきりなことだろう。
テツも2人と比べれば下の方だけど、それでも俺よりは遥かに点数は高い。一夜漬けにしたって要は短期記憶に優れているということだし、地頭が良いというのはテツみたいな人間にこそ当てはまる言葉なんだろう。
また、重たいため息を吐く。いくら睨んだって勝手にペンが動くことはなく、数字とアルファベットが絡み合った複雑な式が読めるようになるわけでもない。
つまらない。勉強も何もかも。こんなにも眩しい夏を、劣等感が邪魔してくる。
「俺、馬鹿だなぁ……」
苛立ちを誤魔化すため、わざとへらついた声で呟いた。
すると、突然肩を掴まれて振り向かされる。そうして正面を向いた体の先には、当然テツがいるわけで。
「リトくんは馬鹿なんかじゃないよ。……誰かにそう言われた?」
「あ、いや……普通に自虐、っつうか……」
テツが真剣な表情でまっすぐ俺を見つめてくるので、だんだん落ち着かなくなってくる。逸らしたいのに、うねった前髪の隙間、堅物そうな黒縁メガネの奥から覗く紫色から目が離せない。
しばらく俺の目を見据えていたテツはふっと視線を緩め、俺のペンケースから一本のボールペンを抜き取った。コツ、とペン先を置いたのは、ワークの端の一問目。
「……どこまでできるか分かんないけど、俺の教えられる範囲で手伝うから。一緒にやろ、リトくん」
「は……いや良いって。テツだってせっかくの休みなんだから、俺なんかに付き合ってないで──」
「──仲間はずれは嫌でしょ、誰だって」
蝉の声を貫くような凛とした声が鼓膜を揺らす。
はっとして顔を上げる。テツが来る前、教室には当然俺しかいなかった。差し入れを持って冷やかしに来る、というテツからのメッセージを受け取ったあと少しでも進めようとして、それでも一問も解けなくて。そうして教室でただひとり唸る丸まった背中を見て、テツは何を思ったのだろう。
スマホで解説動画を検索しながらあの手この手で俺に教えようとしてくれているその姿が、何より嬉しくて頼もしい。
「えー……っとねぇ。まずどこからだ、代入は分かる?」
「ダイニュウ……?」
「あ、けっこう重症だね。……よし、任せてよ。俺がついてるから! 絶対大丈夫だから!!」
何の根拠があるのかニカっと軽やかに笑うテツに、『好きだなあ』なんてうっかりどうしようもない愛の言葉が出かけるのを、すんでのところで飲み込んだ。来年までにはこの想いも何とかしたいな、とか、そんな煩悩もスポーツドリンクと一緒に飲み干して。
空になったペットボトルを鞄の中に押し込んで、俺はシャーペンを2回ノックした。
学パロ その②
※恋愛要素薄め
「あ、やべ」
大して焦ってもいない声色でそう言いながら、黒髪の男は唇の端から紫煙を漏らす。
「……未成年喫煙」
「……え?」
「お前よく荷物検査引っかからなかったな。てか、学校にそんなもん持ってくんなよ」
ぶどう色の瞳をぱちぱちと弾ませて、男は躊躇いがちに煙草の火を消した。
わざわざ携帯灰皿まで持ち込むなんて、よほど校則破りに慣れた不良なんだろう。俺は一見真面目そうな男に意外なギャップを見出して、何故だか急激に親近感を覚えた。
ここは本来厳重に閉ざされているはずの屋上だ。当然職員室まで行って鍵を貸してもらったわけではなく、非常口階段から続く秘密の経路を伝って力づくでよじ登ってきている。……けれど、こいつはどうなんだろうか。
秋の風が軽やかに吹き抜けて、爽やかだけど少し肌寒い。空は薄くたなびいた雲でまだら模様になっていて、それをしばらく眺めてから男の隣に座り込んだ。
「お前、名前は?」
「あ、えーっと……イッテツです。テツって呼んでいいよ」
「なんで急にあだ名……まあいいや、テツもサボり?」
「まぁ、そんなとこ」
それから俺たちは言うことも無くなって、ただ並んで空を見上げていた。テツの横はまだ少し煙臭くて、このまましれっと教室に戻ったところで、こんな匂いをさせていたら教師に目を付けられるんじゃないかと思う。
あのしつこい指導とやらをどうやってやり過ごしているんだろうか、こいつは。
「……リトくんはさ、なんでサボってるの? 授業」
「あ? ……サボりに理由とかあんの?」
「無い人もいるんだろうね。そう答えてくれても構わないけど」
飄々とした態度と、まるで教科書で扱う小説にでも出てくるような古めかしい言い回し。随分と回りくどい言い方をする奴だ。怪我だらけで屋上によじ登ってきた俺を怪しんでいるなら、素直にそう言えば良いのに。
面倒くさいし、今からでもひと気のない別の場所を探そうかな。──そう考えたところで、果たして俺はいつ名乗ったんだったか、と気付く。
「リトくん?」
「え、ああ……何でもない。授業サボんのに理由なんかねえよ」
「……ふうん」
テツは納得したんだかしていないんだか、横目でこちらを見据えながらポケットをまさぐって煙草の箱を取り出した。
「おい、だから吸うなって」
「何だよ、きみも不良のくせになんで煙草にだけ厳しいんだ」
「それは……」
……そういえば、どうしてだろう。いつもは同年代が煙草を吸っていたところで、止めようとなんて思わないのに。
ふいに一瞬風がやんで、そいつの周りから酸化した鉄のような煙の匂いがする。理由は自分でも分からないが、この匂いはどこか苦手だ。
俺の方を覗き込んだテツは気まずそうな顔をして、再び煙草を胸ポケットにしまい込む。唇をとがらせて「そんな顔されちゃあな」とぼやくテツ。一体俺はどんな顔をしてたんだろうか。
「んじゃ、僕はそろそろ戻りますかね」
「……今から授業戻んのかよ」
「煙草も吸えないんなら、ここに長居する意味も無いしね。……きみも早く戻んなよ」
テツは俺の背中をぽんと叩くと、そのまま当たり前のように俺しか知らないはずの経路を伝って非常口階段の方へと飛び乗って行った。
耳に残るのは、あいつの最後のまるで子供を諭すような優しい声色。妙に大人びた態度といい教師気取りのつもりなんだろうか。──あいつは、俺をどうしたいんだ。
煙臭い残り香が鼻の奥をツンと刺す。拳に負った傷がずきりと痛んで、俺はわざと大きな音を立てて舌打ちをした。
終鈴が鳴るまでは、まだ少し時間がある。
§ § §
結局そいつは次の日も、また次の日も、俺が屋上に行くと必ずそこで煙草を吸っていた。あんな態度を取っておきながら毎日通う俺も俺だが、俺が来ると分かっていて煙草を吸い続けているあいつもあいつだ。
俺とテツは案外話が合うようで、毎日少しずつ会話するにつれて好きなゲームや漫画、ミュージカルや舞台の話なんかもできるようになっていた。同世代とはあまり分かち合うことのない趣味の話が、こんな出会い方をした友人とできる日が来るなんて。
いつしか俺は授業をサボるという名目ではなく、テツに会いに行くために屋上へ登るようになっていた。テツと2人きりで過ごすこの時間だけは、逃げ出したくなるような窮屈な生活を忘れることができる。
──こんな日々がずっと続いたら良いな、なんて、いつしかそんなことすら考えるようになっていた。
そして、今日もまた。
「……何だよ、今日は煙草吸ってねえの?」
「あぁ、うん……ちょっと、友達に怒られちゃって」
そう言ってくたびれたような顔で笑うテツは、初めて会った頃より心なしか隈が濃くなっているような気がした。
……友達。そうか、テツにだって俺以外の友達くらいいるよな、そりゃあ。俺にだっているんだから。
俺が知っているのはこうして屋上で隠れて煙草を吸っているテツの姿だけで、本来のテツは実はものすごく真面目な生徒なのかもしれない。それを知らないままでいるのは、何だかとても惜しいことのような気がした。
俺がいつものように隣に座ると、テツは落ち着かない様子で人差し指の先を弄りながら意を決したように口を開いた。
「……ねぇ、ちょっとだけさ、自語りしていい?」
「何だよ急に……別にいいけど」
「あ、ほんと? じゃあ……今言ったのとは別の、俺の友達の話なんだけどさ」
テツの声はいつになく淡々としていて、どうやらそれは今までのような雑談ではなく込み入った話のようだ。躊躇いがちに前置きをして、テツはぽつりぽつりと語り始める。
「その友達さ、ちょっと前から入院してるんだ。病気じゃなくて、怪我で」
「……うん」
「それが、僕を庇ったせいで負った怪我でさ。……もしかしたら後遺症とか、残るかもしれないって言われてて。日常生活には支障がないらしいけど、もう……元の生活には、戻れないかもしれないって……、」
ぐ、と喉が詰まる音がした。今日に限って風は穏やかで、呟くようなその声の微かな揺らぎさえもはっきりと聞き取れてしまう。
俺はテツの顔を見ることができなかった。もしその瞳に涙が浮かんでいたとして、俺はその拭い方すら知らないから。
──事故か、もしくは喧嘩に巻き込まれた、とか。だとしたらこいつも多少なりとも傷を作っていることだろう。俺は見たこともないテツの『友達』よりも、隣で小さく縮こまっている本人の安否の方が気になってしまった。
「……どうしよう、もし本当にこのままだったら。僕は彼に顔向けできない。彼の日常を奪った分際で、のうのうと友達なんてやってられないよ……」
「……」
テツの声はいよいよくぐもって、視界の端に映る頭は真下を向いて俯いてしまっている。
俺は何かを口にしかけて、やめる。『そんなことない』『気にするな』……なんて、そんなありきたりで無責任なことは言う気になれなかった。
それでも隣から聞こえてくる嗚咽を止めてやりたくて、少し躊躇って、背中をさする。
「っり、とくん──」
「──じゃあ、次は俺の話、聞いてくんね?」
「……?」
突然の話題の方向転換に、テツはしゃっくりも忘れて黙り込む。そこまで真剣に聞かれるのも恥ずかしいんだけどな、なんて心の中で言い訳しながら、俺も同じように語り出す。
「前に授業サボる理由聞かれて、無いって答えたけど……あれ嘘。……俺今、よそで喧嘩ばっかりしててさ。学校来ても面白いことなんもねえし、勉強とかそもそも大っ嫌いだし。だから……みんなと馴染めない自分が嫌で、嫌なことから逃げてばっかの自分も嫌で。それを直視したくなくて、こうやってサボってんだと思う。……多分」
そっと様子を窺ってみれば、テツは目元を真っ赤に染めながらぽかんとした表情でこちらを見上げていた。
それがあんまり間抜けに見えたものだから俺はつい吹き出して、頬まで流れたそれを指先でぐいっと拭ってやる。
「……でもさ、このままでいたくもないんだよ。自分でも変わりたいって思う。俺は誰かを傷つけるんじゃなくて、守れるようになりたい。人と違うことを、誇りに思えるようになりたい」
頭より先に口が動いて、自分はこんなことを考えていたんだと初めて気付く。今まで目を逸らし続けていた本心が、次から次へと鮮やかに昇華されていく。
「話戻すけど──俺はそいつのこと何にも知らねえし、もしテツと同じ立場だったら同じように悩んでたと思う。……でも、俺がもしそいつの立場だとしたらさ、『友達を守れて良かった』って胸張って言えると思うんだよ」
「……っ!」
テツは一瞬目を見開いて、それからまた一粒涙をこぼした。泣いて欲しいわけじゃないんだけどな、とまた笑って──前にも同じようなことがあった気がする、と思った。
「ありがとう、リトくん……僕、僕さぁ──」
「────ぁ、」
その瞬間視界がぐわんと歪んで、突然雷にでも打たれたようにバチバチ弾ける。尋常じゃない頭痛が襲ってきて、まるで脳みそが丸ごと作り替えられていくような感覚。
「リトくん!?」と俺を呼ぶ切迫詰まった声に答えようとした刹那、意識はぷつんとブラックアウトした。
§ § §
ふっと目が覚めて最初に視界に入ったのは、真っ白な天井と、真っ黒の頭。
俺が身じろぎをした微かな振動に反応したテツは、目が合った途端に泣きそうな顔をしてベッドに覆い被さってきた。
「ッリトくん! 大丈夫? 痛いところとか──」
「あー……ごめん、大丈夫。……全部、思い出した」
俺がそう言えばテツは溢れんばかりに目を見開いて、いよいよ大粒の涙を流し出す。
「良かっ、たぁ……っ! ごめん、ごめんね、あのとき僕が、」
「いや、そんなことない。気にすんなって。──お前を守れて良かったって、言っただろ」
「ッ、うん……っ!」
鼻の頭を赤くしてこくこく頷くテツに、こいつってこんな泣き虫だったっけ、と苦笑いする。
俺の覚えている最後の景色も、確か同じように泣きじゃくるテツを宥めていた。そんなときにかける言葉はいつも同じで、結局俺はなりたい自分になれていたんだと、今更気付いた。
テツの話によると、俺は一種の記憶障害を起こしていたらしい。原因は半月ほど前の襲撃事件で、テツに降りかかった攻撃を庇ったことによる頭部への強い打撃。
そのせいで俺は高校生の頃から今までの記憶がごっそり抜け落ちてしまい、更に混乱を起こした脳内では何故か病院が学校へと変換されてしまっていた。病室を抜け出しては屋上へ登って帰ってくる俺にいち早く気付いたテツは、誰にも言わずに話を合わせてくれていたらしい。まだ怪我も治りきっていないのに壁をよじ登っている俺を見て、すわ乱心かと当時はかなり焦ったんだと。
そんなテツの苦心のおかげで俺は無事記憶を取り戻すことができたわけだが──、
「恥っっず……! 俺、めちゃめちゃ思春期全開のクソ生意気なガキだったじゃん……!!」
「い、いや……なんか、新鮮な感じがして楽しかったよ? いつものきみからは想像できないくらい顰めっ面なとことか、あと不機嫌なの隠そうとしないとことか」
「全部最悪じゃねえかよお……」
なんかもう本当に恥ずかしい。ていうか何だよ高校生って。俺もう成人してけっこう経つのに。
この図体でサボりがどうとか教師がどうとか言っていたのがしんどすぎる。お前鏡見てみろよ、生徒どころかほとんど体育教師だよ。
「ていうか、お前も病院で煙草吸うなよ」
「えっ、こっちにも刃向いてくんだ」
テツは一瞬にして被害者のような顔をするが、俺は至極真っ当なことを言っていると思う。
……けれど、あの匂いはおそらく『残機』を生成する専用の煙草だろう。それを毎日のように吸っていたということはそれだけ残機を消費していたということで、東の主戦力である俺がいない今、戦闘は他の誰か──つまりはテツが代わりを担っていたということだ。
あの疲れきった表情を見るに、よほど負い目を感じていたのだろう。きっとマナ辺りが無茶な真似をするなと咎めて、テツは余計に自分の無力を恨んだりして。
毎日慣れない戦闘任務を終えては俺の病室に来て、俺が目を覚ます前に屋上へ行って残機を作って。その苦労と心労は推して知るべしというものだろう。
『彼の日常を奪った分際で、のうのうと友達なんてやってられない』というテツの言葉を思い出す。あのとき俺が言葉選びを間違えていれば、テツは二度と俺の前に現れてくれなかったかもしれない。図らずとも限りなく模範解答を叩き出すことができて本当に良かった。
「……キリンちゃんは? 今どうしてる?」
「ん……ほんとはリトくんの傍に置いてあげたかったんだけど、一応安全面を考慮して……って感じでマナくんに預かってもらってるよ。彼もね、ずっときみに会いたがってた」
「そっかあ、色んな人に迷惑かけちゃったなあ……」
寂しがっているであろうキリンちゃんを想像して思わず呟くと、途端にテツが表情を曇らせたので「お前のせいじゃないよ」と慌てて否定する。想像上の誰かの言葉を代弁することはできないが、これは紛うことなく俺自身の本心だ。
「むしろさ、これで確信が持てたっていうか……自分で納得できるようになった気がする。俺はもうあの頃の俺じゃない。ちゃんと、人を守る側になれたんだって」
「……きみは出会ったときから、僕にとってのヒーローだよ」
「は、ありがとな。……この気持ちを思い出させてくれたお前も、俺にとってはヒーローだよ」
そう言って頭を撫で回してやれば、テツは満更でもなさそうな顔で目を細めた。その無邪気な笑い方を見ていると、やっぱり守ってやりたいなあと思ってしまう。
俺としてはこれで懲りたつもりは無く、これからも少しずつ周りに迷惑をかけながら『ヒーロー』をやっていくしかない。それが俺の見つけた、俺自身の在り方だから。
明日あたりに待っているであろう大量の始末書を思うと、あと少しだけ学生気分でいても良かった気がする──とまでは、さすがに思わないけれど。