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第一章:偽りの王宮
王都イレイスティアの空はいつも青く、雲一つない快晴が続いていた。だが、その澄み切った空とは裏腹に、王宮の中は淀んでいた。
王の寵愛を受け、国民からも「完璧な後継」と称される第一王子、桃は、日に日に「理想的」になっていった。
彼は常に冷静で、規則正しく、感情の波一つなく、王国の栄光を第一に考えた発言ばかりを繰り返した。
だが、それは教育の賜物ではない。
それは洗脳だった。
「王国のために、生まれてきた」
そう何度も自らに言い聞かせる桃の眼差しは、深い霧に包まれているようにぼやけていた。
第二章:軽騎士、現る
「まーたアホみたいな訓練やらされとんのか、王子様」
青は軽く口笛を吹きながら訓練場の影から覗き込んだ。彼は地方の騎士団出身で、最近王都に転任されたばかりの若き騎士だった。
どこか気の抜けたような話し方をするが、その剣技は一級品。だからこそ、特例で王子直属の護衛に抜擢された。
「青、また無断で来たな。訓練時間に他人を入れることは禁じられている」
桃はまっすぐに彼を見つめたが、どこか魂のこもっていない言葉だった。
「そんなガチガチに縛られて、生きてて楽しいんか?」
「楽しさは必要ない。私は王国の未来を導く者だ。私情を挟むべきではない」
青はふぅっと息を吐いた。
「……ほんまに洗われとるんやな、あんた」
第三章:薬と囁き
夜。王宮の医務室では、桃に毎晩「健康維持のため」と称して与えられる薬がある。
それは記憶と感情を抑制する特殊な調合だった。
「王子、今夜の分です」
侍医が丁寧にカップを差し出す。桃は何の疑いもなく、それを受け取る。
が、その夜だけは違った。
「ちょっと待てや」
背後から青の声がした。
「王子様、それ……ほんまに“健康”のためやと思てんの?」
桃は一瞬戸惑った。
「……他に、理由があるとでも?」
「せやなあ。たとえば“あんたを操るため”とか?」
侍医が驚いて振り返るも、青の剣が喉元に冷たく押し当てられた。
「……やめな、騎士青。国家反逆罪になるぞ」
「かまへん。俺は王子のために動いとる」
第四章:真実の記録
青は桃を連れて、宮殿の地下にある古書室へ忍び込んだ。
そこには王家の記録、そして桃の幼少期の記録も残されていた。
「これ、見てみ」
青が差し出したのは一冊の小さな絵日記だった。
『おとうさまとけんかをした。ぼくは、自由になりたい』
桃はその文字を何度も指でなぞった。手が震えていた。
「これは……“俺”の……?」
「せや。けど、今のあんたは“自由”って言葉、使えへんようにされとる。なんでかわかるか?」
桃の目が揺れた。その奥に、微かな光が戻ってきていた。
第五章:記憶のかけら
数日後。桃は薬を拒否し始め、青とともに「本当の自分」を探す日々が始まった。
ある夜、王宮の庭でひっそりと語り合った。
「青、私は……ずっと誰かの言葉をなぞって生きていた気がする」
「せやな。でもな、王子様。言葉は自分で選ばんと意味ないんやで」
「私は……“桃”という名前も、本当に自分のものなのかわからない」
「ほな、自分で名前をつけ直したらええ。“桃”に意味を持たせたらええんや」
「……“桃”は、春に咲く果実。まだ蕾でも、咲く日は来る」
青はにやっと笑った。
「そんなん言えるんやったら、もう洗脳なんて抜けかけとるで」
第六章:決断と宣言
王宮では異変が起き始めていた。桃の変化に気づいた王と側近たちは、再洗脳の準備を始める。
だが、それより先に桃は行動を起こした。
王国の祝賀式。万民の前で彼は演説を始める。
「私は、第一王子・桃。これまで私は、“王の器”として育てられてきた。しかし今、私は宣言する」
静まり返る広場。
「俺は、自分の意志で国を導く。“正しさ”ではなく、“人の心”で」
王の顔が青ざめる。青はその場の影から、剣を手に桃の背を守っていた。
終章:春告げの王子
桃は王から廃嫡された。だが、彼を支持する民と騎士たちが立ち上がった。
やがて、第二王子が正式に即位するも、桃は新たに設立された独立評議会の代表となり、民意を代弁する存在として生き始めた。
「青。青のおかげだよ」
「ちゃうちゃう。王子様が自分で、歩いたんや」
「……ありがとう。でも、ひとつ訂正を」
「ん?」
「もう“王子”じゃない。“桃”って呼んでよ」
青は少し照れくさそうに笑った。
「ほな……桃。次は、あんたが誰かを守る番やで」
コメント
7件
ァァァァァァァ…幸せになってよかったですね” ちょっと涙が…
すこ… 神
うっはあ ⤴️⤴️⤴️ 好きぃ ッッ