元愛犬の僕が、今世ではご主人様をお世話します

　一瞬、全てがスローモーションに見えた。目の前に広がる光景が、とても現実だとは思えなかった。
　走るスフレ、追いかける瑠斗。迫るトラックに周囲の悲鳴──心臓の音。
「スフレ！瑠斗ッ…！」
　思考が追い付かなかったためワンテンポ遅れて駆けだした俺の耳に、クラクションと急ブレーキのけたたましい音が飛び込んできた。
「あ…」
　脚の力が抜け、そのまま地面に膝をついてしまう。
「大丈夫ですか！」
「怪我ありませんか？！」
　周囲の声が、道の端に尻餅をついた瑠斗に向かってかけられる。瑠斗の腕の中には、相変わらず黒々とした丸い目をぱちくりさせているスフレが抱かれていた。
「よ、よかった…！」
　俺は何とか踏ん張って立ち上がり、止まってくれたトラックに駆け寄った。
「すみませんでした、目を離してしまって…！」
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