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6月29日(月) 雨
月曜日の雨は本当に憂鬱そうだけど、俺にとっては最高の観察日和だ。
北斗は雨の日はいつも以上に気配を消そうとする。前髪をいつもより重めに下ろして、教室の隅の席で小さくなっている。
今日、あいつは5限目の現国の時間に、激しい睡魔と戦っていた。
前の席から振り返らなくても、あいつの出す微かな音で全てが分かる。ノートにペン先が当たって「ト、ト、ト……」と不規則に刻まれる音。あいつが眠気に耐えかねて、小さく頭を揺らしたときに制服の襟が擦れる音。
ついに耐えきれなくなったのか、北斗は左手で頬杖をついて完全に寝落ちした。
俺はわざと「あ、消しゴム落としちゃった」と呟きながら、後ろの床に手を伸ばした。床に顔を近づけるフリをして、下からあいつの寝顔をじっくりと見上げる。
少しだけ開いた薄い唇から、かすかに白い息が漏れている。無防備の極み。
起きているときは絶対に触らせてくれないあいつの領域に、俺の視線だけが深く、深く侵入していく。この時間がずっと続けばいいのに。
7月3日(金) 晴れ
今日の収穫:黒いヘアゴム(机のなかに忘れてあったもの)
体育の授業の後、北斗が着替えて去ったあとの机の中に、小さな黒いヘアゴムがポツンと残されていた。あいつが前髪をまとめるときに、たまに手首につけているやつだ。
もちろん、迷わず俺のポケットへ。
これで「北斗専用ボックス」のコレクションがまた一つ増えた。
家に帰って、部屋の明かりを消した暗闇のなかで、そのヘアゴムを自分の手首にはめてみる。少しきつくて、皮膚にゴムの跡が残る。まるで北斗に肌を縛られているような錯覚に陥って、胸の奥がドクドクと震えた。
北斗は今頃、自分の部屋で「あれ、ヘアゴムどこにやったっけ」なんて不思議そうに探しているんだろうか。
何も知らないあいつの日常のパーツが、こうして俺の部屋に少しずつ、確実に集まっていく。監禁なんて乱暴なことをしなくたって、あいつの生活そのものが俺の部屋に引っ越してきているんだ。
7月7日(火) 晴れ(七夕)
短冊に書く願い事。
クラスの連中は「彼女ができますように」とか「部活で勝てますように」とか、くだらないことを書いている。
北斗の短冊を盗み見た。
『平穏に過ごせますように』
文字まで細くて、自信なさげで、愛おしい。
でもね、北斗。君のその願いは一生叶わないよ。
俺の願い事はこれ。
『愛しの人の、最初から最後まで、すべてが俺のものになりますように』
教室の後ろの笹に、北斗の短冊のすぐ隣に、結びつけておいた。
織姫と彦星みたいに、俺たちは一生離れられない運命なんだ。
7月16日(木) 曇り
今日の放課後、北斗は日直の仕事で、一人で教室の黒板を拭いていた。
他の連中は全員帰って、教室には俺と北斗だけ。俺は自分の席に座ったまま、カバンを片付けるフリをして、あいつの背中をじっと見つめていた。
「カサ、カサ……」と黒板消しが動く音だけが響く空間。
北斗が背伸びをして、黒板の上の方を拭こうとしたとき、制服のシャツの裾が少しだけ持ち上がって、白い腰の肌がチラリと見えた。
頭の芯がカッと熱くなる。
「……京本くん、まだ帰らないの?」
不意に、北斗が振り返って俺の名前を呼んだ。声が少し震えている。ここ最近、自分の持ち物がなくなったり、常に誰かの視線を感じたりしているせいで、あいつはかなり神経質になっているみたいだ。
「うん、松村が終わるの待とうと思って」
俺が世界一優しいクラスメイトの笑顔を向けると、北斗は怯えたように目を泳がせて、またすぐに黒板に向き直った。その背中が、明らかに強張っている。
怯えなくていいんだよ、北斗。俺は君の綺麗な日常を壊したりしない。ただ、こうして君のすべてを特等席で記録して、じわじわと俺色に染めていくだけだから。
9月7日(月) 晴れ
長い夏休みが明けて、やっと学校が始まった。30日間もあいつを特等席で見られない日々は、本当に地獄のようだった。
今日、久しぶりに目の前に座った北斗は、少しだけ髪が伸びていた。
相変わらず教室の隅で、誰とも話さずに机の木目を見つめている。
5限目の授業中、北斗が小さくくしゃみをした。その拍子に、あいつのポケットからポケットティッシュが床に落ちた。市販の、なんの変哲もない水色のティッシュ。
北斗が気づいて拾おうとする前に、俺がわざとシャーペンを落として、あいつのティッシュを自分の机の方へ引き寄せた。
「あ、ごめん」と言って自分のシャーペンだけを拾い、ティッシュは俺の足元に隠した。
北斗は「あれ……?」という顔をして足元を探していたけれど、諦めてまた俯いた。
家に帰って、さっそく「北斗専用ボックス」にそのティッシュを仕舞った。ビニールのカサカサいう音さえ、北斗の吐息のようで愛おしい。
コメント
3件
うわ、これ完全にサイコホラーやん……! 一人称の「俺」が冷静で優しい口調なほど、北斗くんへの執着がじわじわ染みてきてめっちゃ怖い。黒いヘアゴムを自分の手首にはめて「北斗に肌を縛られてる」って感覚になるシーン、解像度エグすぎて鳥肌立ったわ。七夕の短冊対比も効いてて、平穏願う北斗の隣に「すべてが俺のものになりますように」って……ああもう、この歪んだ愛の質感、めちゃくちゃ刺さる。続き気になりすぎる🔥
雪村 麻耶 @ ペ ア 画 中
1,594
#年齢操作
めぐ
50
#時代劇
めぐ
34