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☆莉犬視点
教室の窓側。
そこに俺は座る。
カーテン越しに差し込む春のひざし。
ひざしの温かさが心地よかった。
教室には、先生の声とペンの走る音が響いている。
その優しい声を聴きながら、
俺はゆっくりと瞬きを繰り返す。
(少しぼーっとするなぁ…)
ヘラヘラとそんなことを考える。
手元にあるプリントは、まるで踊っているようだ。
文字はうにょうにょと動き回り、イラストは霞んでいた。
「莉犬!(1)の問題読んで。」
先生の声が聞こえる。
慌てて立って、プリントへの視線を落とす。
プリントは、白紙だった。
「り、ぬ?ど、し、?や、よな、い。」
頭の中は運動会のようだった。
ぐわん、ぐわんと何かが回っている。
喉は渇いていて、嗚咽がする。
心臓の音が大きくて、周りの音は何も聞こえない。
☆さとみ視点
元々、顔色は悪く火照っていて、少し手が震えていたのも知っていた。
それでも頑張ろうとする彼の努力を、壊しなくなかった。
だから俺は声をかけなかった。
「莉犬!!」
声をかける。
彼はぎゅっと目をつむんでいた。
「保健室行くぞ」
そう、ぶっきらぼうに声をかけて、手を引いた。
先生は突然のことに少し困惑していたけれど、俺の事を信用しているからだろうか。すぐに授業を始めていた。
☆莉犬視点
俺は今手を引かれている。
隣にいるのは、隣の席のあいつ。
「保健室行くぞ」
その言葉は、少しぶっきらぼうだったけれどからの優しさは隠せなかったようだ。
俺はあいつの肩を借りながら、最後の力を使い果たすように保健室へと歩いていった。
☆さとみ視点
ふらふらと歩きながら、歩く莉犬。
その姿はどことなく、ぎこちなくて一瞬でも目を離せば消えてしまいそうだった。
莉犬の足がふわり宙をけった。
☆莉犬視点
歩くほどに、頭の痛さは酷くなり目の前はもうほとんど真っ暗だった。
俺はなにかの切れたかのように、倒れ込んだ。
☆さとみ視点
「莉犬!!!」
「おんぶして走るから少し我慢しろよ!!」
そう声をかけて、莉犬を背負って俺は廊下を走り出した。
「こら!廊下は歩きなさい!」
先生の声を無視して、俺は廊下を走った。
目の前には保健室があって、ベッドに寝かして、体温計を探す。
保健室の先生は、今日は出張で居ないためどうにかして1人で探す必要があった。
「馬鹿なんですかほんとに?」
声が聞こえた。後ろには、るぅとがいた。
「ここですよここ」
指さした方向には確かに体温計があった。
「ありがとよ」
そう言って体温計を取って、莉犬の寝ているベッドへ向かった。
☆莉犬視点
保健室。
目を覚ますと、さとみくんがいた。
「……ずっと、いたの?」
「勝手に置いていけるかよ」
「ありがと、……ちょっと、安心した」
☆るぅと視点
一方、保健室の前ではるっとくんが立ち尽くしていた。
「……さとみくんばっか、ずるいな」
☆莉犬視点
さとみくんの前でだけ、俺は弱音をこぼす。
「……誰かに心配されんの、苦手なんだ。
頼ったら、嫌われんじゃないかって……」
さとみくんは、優しく笑って、言った。
「情けないって思ったこと、一度もねぇよ。
頼ってくれて、嬉しい」
☆るぅと視点
同じ頃。
教室では、ころちゃんがいつもの調子でふざけながら、実は誰よりも心配していた。
「……笑ってごまかすしか、できねーんだよ、オレ」
そう言って照れくさそうに、頬をかいていた。
☆るぅと視点
保健室の前で鉢合わせた、さとみくんと僕。
「……莉犬、どうだった?」
「とりあえず落ち着いてる」
僕は悔しさを滲ませながら言う。
「オレ、笑ってた。気づこうとしなかった」
さとみはまっすぐ言葉を投げる。
「お前がどうしたいか、莉犬にちゃんと向き合えよ」
僕は、ただ俯いた拳を、そっと握りなおした。
☆莉犬視点
保健室。
うっすら目を覚ます。
「……さとちゃん…?」
誰もいない。
少しの寂しさと、少しの不安。
でも、椅子の上には、置かれたメモ。
『ちょっとだけ離れる。またすぐ戻る。寝てろ。さとみ』
「……そっか。
ちゃんと、待ってくれてんだな……」
小さく笑って、涙を浮かべた。
☆莉犬視点
保健室の中。
薄暗い夕方の光に包まれて、俺はぼんやりと天井を見つめていた。
「……あの時、もっと早く言えばよかったかな」
さとちゃんが戻ってくる気配を感じながらも、微妙に不安なまま――
そのとき。
カタ……
保健室のドアが、ゆっくり開いた。
俺はハッとして、そっちを振り向く。
「さとちゃ……?」
だけど、そこに立っていたのはるぅとくんだった。
「……あ、あの。……邪魔でした?」
目を少し見開く。
「るぅちゃん……なんで……」
るぅとくんは、どこか気まずそうに、手にペットボトルを持って立っていた。
「……渡そうと思って。スポドリ」
「……ありがと」
沈黙が落ちる。
俺は、そっと起き上がろうとするが、るぅとくんが慌てて止める。
「ちょ、無理すんなって!!」
「……へへ、なんか、るぅちゃんがそう言うと新鮮」
「なっ……!?」
るぅとくんが顔を赤くしながら言う。
「……僕さ、莉犬のこと、全然見れてなかったんだなって思って。
さとみくんばっか見てて、……自分、最低だなって」
おれはは一瞬きょとんとして、それからふっと笑う。
「バカ。……るぅちゃんがいてくれて、普通に嬉しかったよ。
るぅちゃんが、笑っててくれたら、安心するよ?」
「……そ、それはさ……」
黄の耳まで真っ赤になる。
「莉犬、 ズルい……」
そのとき――
「おーい、戻ったぞ」
バタン。
ドアが開いて、さとみくんが登場。
空気が、ピキンと凍りついた。
☆莉犬視点
保健室。
鉢合わせしたるぅとくんとさとみくん。
ふたりの間に走る空気の緊張感――を、まるっと無視するように、俺はぽつりと呟いた。
「……さとちゃん、……来てくれてありがと」
さとみくんが俺の方を見て近づく。
「ちゃんと寝てたか?」
「んー……ちょっと目覚めちゃって」
さとみくんがそっと額に手を当てる。
「……まだ熱高いな。無理すんなよ」
その指の冷たさに、俺のの頬がふわっと赤くなるように感じた。
「……ねぇ、今だけ、
甘えても、いい……?」
その言葉に、るぅとくんがハッと俺を見た。
☆るぅと視点
莉犬は、弱々しく笑ってる。
強がらない顔。
さとみくんの前だけで見せる、“誰かに頼る”莉犬の姿。
さとみくんは黙って椅子を引き寄せて、莉犬の隣に座る。
「いいに決まってんだろ。……ほら」
ゆっくりと、莉犬の頭をさとみくんの肩に寄せる。
莉犬はそのまま、さとみくんの肩にもたれて小さく息をついた。
「……落ち着く」
その光景を、僕は何も言えず、見ていた。
(……僕、こんな莉犬、知らなかった)
ふだんの莉犬は、強くて、笑ってて、頼れて。
でも今、さとみくんの前では、全然違う。
(僕にも、……見せてほしかったな)
胸が、少しだけ苦しくなる。
でもそのとき、莉犬がぽつりと呟いた。
「るぅとくんも……来てくれて、ありがと」
るぅとくんがびくりと反応する。
「……僕が、もっと早く気づけばよかった。 」
莉犬が、微笑んだ。
「でも、来てくれて嬉しいよ」
☆るぅと視点保健室、静かな空気。莉犬がさとみくんの肩にもたれて、僕が静かにそれを見つめる。
そんな、切なくも優しい空間に、
バァン!!!!!!
勢いよく開いたドアの音がした。
「はいはぁい!!莉犬くん生きてるぅ~~~~!?」
ころん・爆誕。
保健室の3人、全員が固まる。
莉犬「……え」
さとみ「……」
るぅと「……ど、どしたんですか、ころちゃん……?」
ころん「いや~いや~、空気ピリピリしすぎて息できなくなりそうだったからさ、
ぶち壊してやろーと思ってさ!!ナイス僕!!!」
ころちゃんは、ズカズカ入ってくる。
そしておもむろに莉犬の隣にしゃがみこみ、
真顔で一言。
「……で、さとみくんとるぅとくん、どっちが本命なん?」
莉犬「は???」
さとみ「……帰れ」
るぅと「ぶ、ぶぶ、ぶぶ、僕はそんなんじゃないし!?!?」
ころん「うわー出た、否定の速さがフラグ~~~!やばいやばい、ここ保健室じゃなくて修羅場室じゃ~~ん?」
莉犬「……体調悪い人の心臓止める気かお前」
ころん「止めない止めない!むしろキュンで動かすつもりだったんだけどなあ~~?」
さとみ「あとで覚えとけよ」
るぅと「僕はころちゃんのノリに付き合わいませんからね!?!?!?」
ころん「おっけ!じゃあとりあえず、莉犬くんにリンゴジュース持ってきたから飲ませるね?」
莉犬「やだ」
ころん「え~~~!!なんでぇ~~~!!??」
保健室。
ころちゃんのノリで既にキャパオーバー気味の空間に、
バンッ!!
「うおー!!莉犬ーー!!生きとったかー!!」
入ってきたのはジェルくん、その後ろにはなーくんがいた。
ジェル「ころんに聞いて飛んできたったわ!!せやけどお前、顔色めっちゃ悪いやんけ!?死人かと思ったわ!!」
ななもり。「……莉犬くん、大丈夫?無理しなくていいんだよ」
莉犬「……っ、あー……ごめん、ちょっと……」
ころん「ちょ、ちょちょちょ!今ちょうどリンゴジュース飲ませようとしてたのに!?」
さとみ「お前が悪化させてんだよ」
ジェル「まってまって!俺、莉犬のために差し入れもってきたんや!関西名物たこ焼き味ポテチ!!」
るぅと「食べ物のチョイスが渋いです。」
ななもり。「ジェルくん、 今は騒ぎすぎちゃダメだよ」
橙 ジェル「えぇ~~!?お見舞いって静かにすんの逆に失礼やろ!?」
そのやり取りを聞きながら、莉犬は
額に手を当てて、ギュッと目を閉じる。
「……っ、うるさい……」
みんなの声が、頭の中で反響する。
ズキズキ、ガンガン、ぐらぐら――
莉犬「……頭、いて……」
さとみくんが一番に気づいた。
「おい、莉犬。無理すんな。目閉じて、深呼吸しろ」
莉犬「……ん、っ、ごめん、ちょっと、……気持ち悪……」
その瞬間。
なーくんがサッと動いて、窓を開けて空気を入れ替える。
ジェルくんところちゃんが、気まずそうに黙り、僕は慌てて冷たいタオルを探す。
「……ごめんなさい、……」
ころちゃんがぽつりと呟く。
さとみは莉犬の肩をそっと支えながら、静かに言った。
「大丈夫。ここにいるから、ちゃんと守るから。……な?」
保健室は静まり返っていた。
誰もが莉犬の様子に気づいて、動きを止めていた。
莉犬は、肩で小さく息をしながら、眉をひそめる。
「……っ、ごめん……なんか、いろいろ……うるさくて……」
「いや、全然ええって!」
ジェルくんが気まずそうに言いかけるけど莉犬の言葉が、それを止めた。
「違うの。……オレ、……こんなんなるの、ほんと、やなんだよ」
その声は、弱くて、震えていた。
「迷惑かけたくなかったのに……
心配されたくなかったのに……
頑張れるって思ってたのに……っ」
さとみくんが莉犬の背中に手を当てたけど、莉犬は止まらない。
「……いつも通りでいたかったのに、……全部ダメで……情けなくて……恥ずかしくて……っ」
そう言いながら、ぎゅっと目を閉じて、口を震わせる。
「オレ、……頼りたくなかった……誰にも……」
その言葉に、誰もすぐには返せなかった。
でも
「……でもね、莉犬くん」
ころちゃんが、珍しくまっすぐな目をして言う。
「頼ってくれて、めっちゃ嬉しいよ。……だって僕たち、友達でしょ?」
ジェルくんも、照れくさそうにうなずく。
「アホみたいに元気なだけや思われてたら悲しいで?莉犬のためやったら、ちゃんと静かにもなるわ」
なーくんも、優しく言葉を重ねる。
「莉犬くんがどんな時でも、俺たちは変わらないよ。……しんどい時くらい、頼っていいんだよ」
僕は、ギュッと拳を握りしめながら、小さく呟いた。
「……僕、もっと気づいてあげたかった……」
さとみくんだけは何も言わず、莉犬の手を強く握った。
莉犬は、何も言えずただ、ポロポロと涙をこぼした。
誰にも見せたことのない顔。
誰にも言えなかった思い。
それが、ようやく、こぼれ落ちていった。
「……ありがとう」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、俺はそう呟いた。
誰にも見せたくなかった弱さを、
ちゃんと見てくれる仲間がいて。
何も言わず、ただそばにいてくれる人がいて。
誰かに頼っても、
迷惑なんかじゃなくて、
恥ずかしくなんかなくて、
……むしろ、嬉しいって言ってくれる人がいる。
それが、今の俺にとって、
何よりの救いだった。
この涙を、ちゃんと受け止めてくれる。
この場所を、居ていいって思わせてくれる。
そんな仲間が――いる。
俺たちのストーリーはいつまでも続いていくんだ。