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扉を開けるとそこは寺の本堂、仏間の作りと良く似ていた。照明も薄暗く、部屋に立ち込めるのは白檀と沈丁の香り。
凛とした空気に自然と気持ちが引き締まる空間。
本来仏像が安置されている|須弥壇《しゅみだん》の場所には厳かな装飾に彩られた御簾が垂れており、その中に羽鳥帝が鎮座している。
その前に白布の几帳で区切られた五つの間があり、
座布団の上に花が置かれていた。
俺がどうやら一番先に入室したらしく、仕切られた間には誰も着席していなかった。
須弥壇の一番前。
座布団の上に置かれた杜若の花を見つけてその前まで行き、お辞儀をしてから花を前に置いて座る。
すると左右に几帳が立てられているので、隣の人物の様子は伺えなくなる。
これは大昔に五家の人間達が、御前会議で言い争いに発展したからだそうな。
そこからは相手の表情や機微がわからぬように、このような形式になったそうだ。
そんなことを考えながら前に置かれた紫の杜若に視線を落としていると、背後の扉から衣擦れの音がした。
横に着席する人の気配。それが四回聞こえたところで前の御簾に人の気配がした。
御簾の向こうに小さな影が見え、そしてこの空間よりも清澄なる声がした。
「では。これより御前会議を始める」
──はい。
五家の声が重なり、会議が始まった。
御簾の中から進行役の声が「では、梅桃家より。報告せよ」と男とも女とも分からない声色を発した。
「はぁい。梅桃|李山《すもも》、発言させていただきますぅ」
子供のような軽い声が広間に響く。
「梅桃家と杜若家は長年にわたって、妖を祓いながらその生態を調べて参りましたぁ。そしてわかったのは十七年前より土属性の妖の活動が著しいこと。帝都内外の出没が多発。これは古の文献とも照らし合わせて大妖、土蜘蛛出現の兆しと良く似ている──ことから判断したのですぅ」
その軽い声に紛れて「ふん。まだ大元は現れてへんけどな」と、梔子家当主。
梔子|真守《さねもり》の失笑の声がしたが、梅桃家は「はわわ。意地悪言わないで下さいぃ」と軽くいなした。
そして梅桃家はコホンと咳払いをして話を続ける。
「残念ながら妖の出現は未来視がない限り、ピタリと当てることなど不可能なのですぅ。ですが、先日土蜘蛛の幼生が出現しました。そのことについて。そして先日、帝都の結界を真守君と一緒に見て分かったことも合わせて、今からお話しますですっ」
明るい声に帝が「頼む」と短く答えた。
そして梅桃はさらさらと伝えた。
今回結界などを調べて分かったのが、結界は帝都の下を包み込むように出来てないこと。
強大な一枚壁のように帝都の周りを包んでいるという。それでも地中の奥深くまでその効果は発揮されてはいる、が。
公会堂に現れた土蜘蛛はその結界の効力が届かない、地表の奥深く、三十から最大六十キロメートル下まで地殻の深くに潜り込み、
地殻の奥底から帝都の下へと進行して、恐らく十七年前より侵入しやすい場所を地中で探っていた。
その結果が、地表の妖共を活発にさせた原因。
そうして、先日幼生を地中奥深くから帝都の中へと放った。それが公会堂での土蜘蛛の出現だろうと梅桃は言った。
通常、地殻付近には龍脈や地脈など膨大な霊脈が走っていて、普通の妖は仮にそこまで到達しても、大地の霊脈の気で消し飛ぶ。
しかし、そこは大妖・土蜘蛛。
土と言う属性もあり大地からの気を取り込んでしまう。そのせいで異常な回復力を備えている。土の中を自由に動ける特性もある。
故に、過去に祓っても月日さえ重ねて、大地があるかぎり──土蜘蛛は復活してしまうのだろうと、梅桃はため息混じりに言った。