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「(いやー。参ったな、こりゃ)」一対多数は気に掛けることが多く、飛んでくるナイフや蒼炎に気を取られていたら、まんまと敵の個性で捕らわれてそのまま連合のアジトへ連れてこられてしまった。
轟にまともに話もせずに単身で突っ込んでいって捕まってるんだから、やはりオレは酷い大人だと思う。
「(……さて、どうしたものかね)」
チラリと視線だけを動かして周囲を窺う。幸いにも縛り付けられてるとかそういう事は無いので、そのまま立ち上がって逃げる事は可能だ。だがここは敵のアジトであり、連合のメンバーがそこら中にいるから無闇に動けないのも事実である。
「……おい、どこ行くんだよ」
「うぉっと……」
オレが逃げようとしたのを目敏く見つけた荼毘に肩を掴まれる。そのまま引き寄せられると耳元で囁かれた。
「逃げるなよ?」
「いや、ちょっとトイレに行きたくてね」
「……そのまま逃げる気だろ」
「いやいや、本当にトイレなんだってば」
ヘラヘラと笑いながら答えるが荼毘は納得していないらしく、更に強く肩を握られる。それも結構痛いくらいにだ。
「ちょっと……そろそろ離してくれるか?」
「やだ」
即答で断られてしまったので溜息しか出てこない。
どうしたものかと思考を巡らせていると、不意に部屋のドアが開く音がした。
「おい、荼毘。仕事だ」
部屋に入ってきたのは死柄木だった。
「チッ……逃げたらお前の大事なもの、全部燃やすからな」
死柄木は荼毘に声を掛けるとそのまま部屋から出ていく。荼毘もその後を追っていったようで、部屋にはオレ一人が残された。
「……はぁ……やっと解放された」
とりあえず自由になれたのでホッと胸を撫で下ろす。さて、これからどうしようか。
とりあえず外に出るべきだろうか。
「あ、いた」
「……ッ!?」
突然背後から聞こえてきた声に驚いて振り返る。するとそこには見覚えのある顔があった。轟焦凍だ。彼はオレの姿を見るなり駆け寄ってきてギュッと抱き着いてくる。
「狩兎さん……っ!」
「久しぶり、だな」
驚きながらも答えると、そのまま強く抱き締められた。まるで存在を確かめるかのように力を込められるものだから少し苦しいくらいだが、それでも彼の好きなようにさせてやることにする。暫くの間そうしていたが満足したのかゆっくりと身体を離すと、そのままジッと顔を見つめてきた。
「……狩兎さんだ」「あぁ、オレだよ」
そう言って笑って見せると轟は嬉しそうに微笑むものだから思わず見惚れてしまう。しかしすぐに我に返ると慌てて距離を取った。
「すいません……。あ、こんな長々と話ししてる場合じゃねぇ。狩兎さん、今のうちに逃げましょう」
「逃げるって……どこに?」
「……取り敢えず、また雄英に戻ってきてください。他の皆も狩兎さんのこと、待ってるんで」
そう言われて、ハッとした。
もし、オレが雄英に戻って生徒達に危害が及んだら?
教師達が重傷を負ったら?
オレのせいで、周りが傷つくならば戻らないほうがマシだと思った。
「オレは戻らないよ」
「え、なんで……」
「オレがいたらお前らに迷惑がかかるだろ?だから行かない。それに今更戻っても居場所なんてないしな」
そう言って笑うと轟は泣きそうな顔をして俯く。それから暫く黙り込んでいたが、やがて顔を上げて真っ直ぐに見つめてきた。その瞳には強い意志が宿っているように見える。
「……行きますよ。ほら、早く」
有無を言わさぬ口調に思わず気圧されて、言われるがままに歩き始める。すると背後から誰かが抱き着いてきた感触がして振り返ると、そこにはコンプレスの姿があった。
「どこに行く気かな?」
「しまっ……!」
オレは轟を突き飛ばしたと同時に、圧縮玉の中に閉じ込められてしまった。