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特別芸能学園・校長室。
壁いっぱいに飾られた歴代スターの写真の隙間から、柔らかな午後の陽光が差し込む。
静かな空気の中で、相川玲央は背筋を伸ばして立っていた。
「――彼女が、君の担当アイドルになる。
天音詩織。うちの絶対的エースだ」
校長が告げる。
玲央は心の中で小さく息を整えた。
(……ついに。初めての担当アイドル)
昨夜遅くまで目を通していた資料が頭に浮かぶ。
⸻
天音詩織(16)
身長160cm、体重45kg
歌唱10/表現10/アイドル力10――ほぼ満点。
趣味:カフェ巡り、バレエ鑑賞、犬動画、ファンレター
特技:ハイトーン、ターン、早着替え、営業スマイル
⸻
この時点で玲央は、
「完璧な少女だな」
としか思っていなかった。
しかし――
「失礼しまーす」
扉が開いた瞬間、時間が止まった。
白銀の髪は光を吸い込むように滑らかで、瞳は淡い桃色にきらりと揺れる。
控えめな仕草なのに、存在そのものが絵画のようだった。
アイドル科の制服の上品な金糸が、彼女の透明感をさらに際立たせている。
まさに——画面越しよりも美しい。
玲央は思わず息を呑んだ。
(資料で見ていたより……いや、比べ物にならないほど綺麗だ)
少女は柔らかい“アイドルの笑顔”を浮かべて、軽く頭を下げる。
「初めまして。天音詩織です。
相川さん……ですよね? 今日からよろしくお願いします♪」
声は澄んでいて、喉の奥に鈴を仕込んだような響きがあった。
玲央は慌てて礼を返す。
「本日から担当させていただきます、相川玲央です。
優秀なアイドルと組めて光栄です。どうぞよろしくお願いします、詩織さん」
詩織のまつげが、ふるふると揺れた。
(……ん?)
ほんのわずか。彼女は驚いたように目を瞬かせた。
「“詩織さん”って呼んでくれるんだ? 珍しいね。
いつも名字呼びだから、新鮮かも♪」
その笑顔に、校長がうんうんとご満悦で頷く。
「うむ! やはり優等生の2人を組ませて正解だった。
必ず最強のペアになるぞ!」
その言葉を合図に、玲央と詩織は校長室を出る。
廊下に足を踏み出すと――
瞬間、空気が変わった。
「うわっ……!」
「詩織様と玲央様だ……! ビジュアル反則じゃない……?」
「歩いてるだけでオーラ出てるって何……?」
アイドル科の生徒たちがざわつき、道を開ける。
視線が一斉に突き刺さる。
が、当の2人はまったく気にしていない。
詩織は優雅に微笑み続け、玲央は涼しい顔で歩く。
玲央はちらりと詩織に目を向けた。
「毎日こんな感じなんですか?」
「うん。まぁ慣れたけど……相川さんもすごい人気だね?
女子たちの目がキラキラしてるよ?」
「いえ、自分はそんな……」
「ふふっ、謙虚なんだ。いいね、そういうの♪」
その笑顔は、完璧で。プロで。
玲央は“アイドルとしての顔”だと理解していた。
そのはずなのに、思わず見惚れてしまった。
(……綺麗すぎだろ)
それに気づいた瞬間、玲央は視線を前に戻し、内心焦る。
(落ち着け俺。仕事相手だろ)
しかし詩織は――
(……今、見惚れてた?)
ほんの少しだけ、頬が熱くなった。
彼女も気づかれないよう、視線をそっと横に逸らす。
それが、2人の最初の“微妙なズレ”。
気づかぬまま、互いを意識し始める前の静かな一歩だった。
第一話、ありがとうございました。
少しでもいいなと思ってもらえたら嬉しいです。
ではまた。