テラーノベル
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詩織と玲央は、学園内のレッスン室へ移動していた。
壁一面が鏡張りで、中央には簡単な打ち合わせ用の丸テーブルが置かれている。
初日ということもあって、玲央はまずは状況の確認を丁寧に行う。
「今日は軽く打ち合わせをしたら、今後の撮影スケジュールの調整に入りたいと思います。
詩織さん、今の活動内容は――」
「うん、なんでも聞いて。
相川さん、すっごい真面目なんだね?」
「仕事ですので」
「……そっか。うん、そういうの嫌いじゃないよ♪」
にっこり。
完璧な営業スマイル。
頬の角度、まつげの上げ方、声のトーン、全部が“作り物なのに美しい”。
玲央はパソコンの画面を見ながら、淡々とメモを打つ。
「はい。では次に――」
詩織「……あれ?」
気づいた。
普通なら、初対面の男子は必ず照れる。
目を奪われる。
少し頬を染める。
呼吸が乱れる。
でも。
相川玲央は。
まったく、反応してない。
(……嘘でしょ?)
詩織は思わず、もう一段階ギアを入れる。
「相川さん、ちょっとこっち向いて?」
玲央「はい?」
玲央が顔を向けた瞬間――
“天音詩織・必殺スマイル(ファン即死級)”
目の輝き+唇の柔らかい弧+首の角度+伏し目がち+息を飲む直前の軽い吸気。
「……♪」
天使の一撃。
玲央「なるほど、これが例の“決めスマイル”ですか。
資料には“営業スマイル最強”と書かれてましたね」
詩織「…………は?」
玲央「はい、パーフェクトだと思います。
その、技術的には」
詩織「“技術的”??? 今の見てなんも感じなかったって言うわけ???」
玲央「業務として評価するなら満点ですけど、
僕個人は女性に興味が薄いので……すみません」
詩織「興味が薄い?????」
――バキッ(プライドが物理的に砕けた音)
詩織は、目の前の男をガン見した。
(はぁ!? あたしの笑顔で落ちないとかどういうこと!?
ファンはほぼ全員崩れ落ちんのよ!?
教師だって目を逸らすのに!?)
「ねぇ相川さん。いまの、本気の笑顔だったんだけど?」
「はい。とても良かったです。
では話を戻しますが――」
「戻さないでよ!!」
ついにアイドルの笑顔が吹き飛んだ。
「ちょっと。あんた本当に女子に興味ないわけ?」
「あんた……?」
玲央は少しだけ眉を動かして詩織を見る。
「……さっきと言葉遣いが違いますね。
こちらが本音の詩織さんですか?」
「っ……! いや、これは……その……!」
取り繕おうとするが、心の中は大混乱。
そんな詩織を見て、玲央はほんの少しだけ微笑んだ。
「大丈夫ですよ。
僕は、詩織さんの素の方も……割と好きです」
「——っ!?」
(な、なにその言い方!?
気に入ったってこと!?
なんでこっちのペース奪ってくんのよ……!)
詩織は耳まで真っ赤に染まる。
だが、取り繕うように咳払いして。
「……べ、別に? 素が出たからってどうこうじゃないし。
あんたの反応が薄すぎて、ムカついただけ」
「申し訳ないです。
でも……詩織さんのその“素”は、見れて良かったと思っていますよ」
「~~~~っ!!」
これが、後の**“玲央の煽りスキルによるしおりん激怒事件第1号”**である。
そしてこの瞬間、
詩織の中で何かが音を立てて回り始めていた。
(この男……面白い。
落としてみたい。
絶対に、落としてやる……!!)
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