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勇者引退

5 - 第5話 アメジストの香り

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2024年02月05日

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「この家の生活にも慣れてきたな…」

とはいえ、毎日暇を持て余す毎日である。どちらかと言うと家から出られないと言うのが適切かもしれない。

(あー暇。もう暇。)

あれ以来魔女らしき者の来訪はない。家にひきこもっている間に春が来ているまである。

(さ、流石に外に出た方がいいよな健康的に。)

死なないとはいえど、メンタルが死にかけている。アレンは久しぶりに外に出る準備をした。

木の扉は、久方ぶりに開いた。

(暖かい。)

「これを機に掃除でもするか。」

窓という窓を開け放ち、アレンは掃除を始めた。布団も干したし、雑草に似た花も新しく変えた。

「雑草伸びたな…」

家の床をモップで拭いた時、丁度昼になった。

庭に出るのはいいが、まだ森へ行く勇気は湧かない。

(魔王城とそれ程近くは無いと思うんだがな…)

「でも暇だな…」

本棚に入っていた本は何故か恋愛ファンタジーが多いし、魔王と皇女の絡みを思い出すので最後まで読むのは気が向かない。一体誰の趣味なのだろうか。

料理をしてみようと思ったが、アレンは料理が壊滅的に苦手だったようで、惨状の片付けが嫌になった。

(どうしよう)

そこで、アレンは家の中の椅子を引っ張り出して庭に置いた。

太陽の光が静かに降り注いで、人間だとは思えない自分を洗い流してくれるような気がした。

(俺は、何になったんだ。)

呪いをかけられて以来、夜中々眠れない。動くべき時間だと言うように、夜の闇を求めている。

昼は真逆でとても眠い。あの日からアレンの昼夜は逆転してしまったようだ。

(厄介だな…できるだけ普通の人間でいたいのだが)

「まるで魔族、か。」

(…なんだろう、この香り)

春のような香りがする。暖かい光の匂い。静かな夢の匂い。

ふと目を開くと、紫色の瞳と目が合った。

「っ…?」

「…」

(誰、だ?)

アレンは思わず椅子から立ち上がった。

綺麗な茶髪を真っ直ぐに伸ばし、彼女は驚く素振りも見せず瞬きをした。

「だ、誰ですか、あなた。」

「貴方は勇者アレンで合ってる?」

「…元、ではありますが。」

(なんでこの人知ってるんだ?)

アレンが勇者だったのは極めて短期間のことである。

冬の中盤魔王城へ向かい、辞めたのが春近くの事。

すなわち、アレンの顔を知っている人間は少数だ。

「どこかで、お会いしましたか。」

(こんな端正な顔の人間、会ってるわけないが…)

「いいえ 」

「では、なぜ私の事を?」

「…」

(怪しい な。)

掃除中の為残念ながらアレンの腰には剣がない。今襲われれば、大人しく降伏しかないだろう。

冷や汗が頬を伝った。

「私、魔法使いなんだけれど。」

「…魔法使い?」

「魔王様の嫁にきた人が、これを渡すようにと。」

(まさか…皇女殿下か?)

手紙を受け取ると、アレンは急いで中身を確認した。

『勇者アレンへ!

お父様に話してくれたのね?

ありがとう、感謝してるわ!

私はいつでも魔王城にいるから、困ったことがあったら訪ねてきてね!

追記

魔王様ったらとっても可愛いのよ! 』

(なんだよ…)

「普通に幸せなだけじゃん…」

心配して損した。アレンは深いため息をついた。

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