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第二十二話「現実」
声にならない涙が、落ち続ける。
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ぽた、ぽた、と。
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夜の地面に、静かに染みていく。
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山本美憂は、その場に崩れたまま動けなかった。
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手紙を握りしめたまま。
佳のそばから、離れられない。
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「……っ……」
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もう声は出ていない。
出せないほど、泣いていた。
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ただ、肩だけが震えている。
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隣で——
小太郎も、限界だった。
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「……っ」
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歯を食いしばっていた。
ずっと、我慢していた。
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でも。
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「……くそ……」
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小さく、漏れる。
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「……なんでだよ……」
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拳で、地面を叩く。
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鈍い音。
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「……なんで一人で……」
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涙が、落ちる。
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もう、止めなかった。
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止められなかった。
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好きとか。
立場とか。
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全部、関係なかった。
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ただ一人の人間として——
どうしようもなく、悔しくて。
どうしようもなく、悲しかった。
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美憂の肩に、手を置く。
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今度は、支えるためじゃない。
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一緒に崩れるために。
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そのまま。
二人で、地面に座り込んだ。
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夜景は、変わらず綺麗で。
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でもその下で。
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二人分の涙が、静かに地面を濡らしていく。
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どれくらい、そうしていただろう。
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時間の感覚は、もうなかった。
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ただ。
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泣いて。
泣いて。
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何も考えられなくなるまで、泣いた。
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そして。
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「……っ……」
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美憂が、ゆっくり顔を上げる。
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視界の端に映る、佳。
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動かない。
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もう、二度と。
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「……呼ばなきゃ」
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かすれた声。
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現実が、戻ってくる。
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「……うん」
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小太郎も、頷く。
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震える手で、スマホを取り出す。
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指が、うまく動かない。
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何度か、押し間違える。
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それでも。
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ようやく、通話が繋がる。
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「……もしもし」
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声が、震える。
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「……人が……倒れてて……」
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一瞬、言葉が詰まる。
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「……息してなくて……」
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涙が、また溢れる。
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それでも、伝える。
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場所。
状況。
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全部。
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次に、小太郎も通報する。
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淡々と。
でも、声は隠せないほど震えていた。
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電話を切る。
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静寂が戻る。
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遠くで、サイレンの音が微かに聞こえ始める。
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その音が。
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現実を、完全に突きつけてくる。
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「……来るね」
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「……うん」
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二人は、佳のそばに戻る。
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もう、何もできない。
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それでも。
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最後まで、一緒にいるように。
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その場から、動かなかった。
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サイレンの音が、少しずつ近づいてくる。
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一つの時間が、完全に終わったことを——
否応なく、知らせながら。
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