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うめぼっち

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臣桜
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鷹槻れん/鷹槻うなの

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#恋愛
水無月 京
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「ありがとね、でもね」
優しい言葉に期待した私が間違っていた。続く言葉を息を潜めて待つ。
「タバコはさ、政治道具でもあるわけで」
「…まだそういうこと言うんですか」
「悲しいかな、パートナーはジジイばっかだからね」
ウチだけじゃなくて、クライアントだってそうよ。のんびりと話す豆さんは、本当に仕事のことしか考えていないらしい。
「だから、タバコ一緒に吸うだけで話がちょっとうまくいくとかね、そういうのあるの」
「…ズルいですね、それ」
「そう、ズルいよ」
タバコ吸ってるだけでそんな話がうまく行くなんて、不条理極まりない。例えば、私だったら一生そんなチャンスにはお目にかかれないわけで。
「でも、吸うだけでそんなことができるならいくらでも俺は吸うかな」
この人、狂ってるんだろうか。
もしかして、酒もタバコも仕事のためだけに嗜んでいるのだとしたら、シンプルに化学物質に魅せられた中毒者よりも悪質かもしれない。
「豆さんの主張もまあ理解はしました。共感はできませんけど」
「あ、それはしてくれないんだ」
「しませんよ。何度も言いますけど、私は豆さんが心配なんです」
「それはさ、秘書として?それともひとりの人間として?」
私の言葉で何かを変えてもらおうと思うほど烏滸がましくはないけれど、諦めきれなくて下を向いて文句を垂れていれば、少しだけ室内の空気が変わる。
ピリリと肌を突き刺すような感覚があり、思わず顔を上げれば、そこには妖しげな光を目の中に湛えた豆さんがいる。
「はい?」
「だから、その心配はどの立場からのものなの?」
美しい顔に美しい笑みを乗せて、ゆったりと問うてくるその姿に、なぜか追い詰められるような感覚を覚える。
「そ、それは」
「それは?」
「もちろん、秘書としてですっ」
間違いのない、完璧な答えを提示した。
「ふうん」
…はずだったのに。
「だとしたら、それはロジカルじゃないね」
何を言われているのか分からなくて戸惑う。
そんな私の表情で察したのだろう。豆さんはニコリと笑うと言葉を続けた。
「タバコは俺の仕事道具だって言ったじゃん」
「…そうですね」
「秘書としてはさ、俺の仕事の成否を気にすべきじゃない?」
「…」
「だから、それだけを考えるならむしろ喫煙を奨励すべきだ。違う?」
違う。違くない。
相反する回答が心の中でぐるぐると渦巻く。私は今、何の罠に掛けられているのだろう。
「そ、それは…」
「だから、弓家さんの発言の意図が気になっちゃうな、おじさんは」
余裕溢れる笑みが憎いと思ったのは初めてかもしれない。
手玉に取るくらいならいっそ止めを刺してほしい。
そう思う反面、まだ逃げ道は残されているのではないかと脳をフル回転させる。
「や、やっぱり秘書としてです」
出たとこ勝負だ、とヤケクソで言葉を紡ぐ。彼は楽しそうに小首を傾げて私の言葉の続きを待っている。
「タバコ休憩を1回5分として、1時間に1回行ってもオフィスだけで1日のタバコ休憩で50分以上費やしていることになります」
「…そうだね」
「1週間だと実に約6時間です。どの程度の頻度でタバコ商談ができているのか、そしてその成約金額の平均がいくらなのか。この辺りを深掘りしないと投資対効果は測定できませんが、シンプルにタバコで豆さんの稼働時間が圧迫されています」
「……言う言葉が見つからないな」
「この分を他の案件の打ち合わせ、速やかな事務処理に費やすことで、生まれる機会もあったかもしれません」
早口で思ったことを片っ端からしゃべっていく。論理構成も何もあったものじゃないけど、ここで個人として邪な下心から豆さんを心配してるとバレるのだけはどうしても避けたかった。
「…弓家さん。やっぱコンサル戻ってきたら?」
「なんでそうなるんですか!」
どんなお叱りが飛んでくるかと思えば、また突拍子も無いことを。
「はは、こっちの話。ごめんね、打ち合わせの時間あんまり残ってないね」
スマホを見て、もうこんな時間かよ、と眉を顰める豆さん。
「大丈夫です。秒速で終わらせます」
「頼もしい」
じゃあ行こうか、という呼びかけに応じて私たちはようやく薄暗くて煙たい喫煙室を後にして、明るいフロアに戻って行く。
「しかし残念だな」
「はい?」
「…いや、何でも無い」
彼の中には、まだ何か懸案があるのだろうか。
聞いても有耶無耶な答えしか返ってこなくて、そのままその話題は流れていった。
「なんだ、秘書としてか」
彼が口の中でその言葉を飲み込んだとは、まるで知る由もなく。
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