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🎧短編「触るなよ」
ライブ後。
打ち上げ。
店の中は、騒がしい。
酒の匂いと、笑い声。
その中で。
少し離れた席に座る。
隣には、琉夏。
向かいには、対バンのメンバー。
「さっきのライブやばかったよ」
そんな話が続く。
適当に相槌を打つ。
そのとき。
「琉夏くんさ」
対バンの女の子が、話しかける。
「ベースめっちゃかっこよかった」
(ああ)
よくあるやつ。
別に、珍しくもない。
琉夏「あー、どうも」
軽く返す。
でも。
会話が、続く。
少し近い。
距離が。
笑ってる。
(……)
視線を落とす。
グラスを持つ。
中身を、少し飲む。
(別に)
気にすることじゃない。
分かってる。
でも。
視界の端に、入る。
距離。
声。
笑い方。
(……近い)
気づいたら、手が動いてる。
テーブルの下。
軽く、触れる。
琉夏の手。
指先が、当たる。
一瞬。
(……なにしてんだ)
自分でも思う。
でも。
離さない。
ほんの少しだけ、触れたまま。
琉夏が、ぴくっと反応する。
一瞬、こっちを見る。
目が合う。
何も言わない。
でも。
分かる。
“気づいてる”
そのまま。
少しだけ、指が絡む。
(……は)
完全に、無意識。
でも。
止めない。
向こうの会話は、まだ続いてる。
でも。
こっちの方が、優先されてる。
指先。
触れてるだけなのに。
さっきまでの違和感が、消える。
(……ああ)
これでいい。
理由は、分からない。
でも。
これで、落ち着く。
しばらくして。
会話が途切れる。
対バンの女の子が、席を立つ。
「また話そ〜」
去っていく。
静かになる。
その瞬間。
琉夏「……なに」
小さく言う。
視線は、こっち。
でも。
手は、離れてない。
冬星「別に」
いつもの返し。
でも。
ほんの少しだけ、力を込める。
握る、まではいかない。
でも。
“離すな”っていう圧。
それだけ、伝わる。
琉夏が、少しだけ黙る。
それから。
琉夏「……そっか」
小さく返す。
それ以上、何も言わない。
でも。
指先は、そのまま。
触れたまま。
少しして。
ふっと、手が離れる。
何もなかったみたいに。
でも。
空気は、変わってる。
さっきより、近い。
見えない距離。
帰り道。
並んで歩く。
いつも通り。
でも。
ほんの少しだけ。
手が、近い。
触れそうで、触れない。
その距離。
琉夏「……さっきの」
ぽつりと呟く。
冬星「なに」
琉夏「あれ」
それだけで、通じる。
少しだけ間。
冬星「……別に」
また、それ。
でも。
そのあと。
冬星「触られたくなかっただけ」
静かに言う。
一瞬。
空気が止まる。
(……は)
意味、分かる。
分かるけど。
言葉にされると、重い。
でも。
嫌じゃない。
むしろ。
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
沈黙。
それから。
琉夏「……なら最初から言えよ」
少しだけ笑う。
冬星「言ってる」
短い返事。
それで終わる。
でも。
ちゃんと、伝わってる。
触れないまま。
でも。
さっきより、ずっと近い。
#監禁