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「天野ー! アイス食べる?」
文化祭が終わった校庭。
ごみ拾いをしている天野の元へ、実行委員長の田中が声をかけた。
「いらない」
天野はそっけなく言い、またゴミを拾った。
「それならジュースはー?」
今度はジュースを持った松尾が声をかけた。
「んー、……じゃあ……ジュースはもらおうかな」
松尾は天野にジュースを渡した。
松尾は田中と共にその場から離れた。
「ぷぷぷっ」
田中は振り返って天野を見た。
天野は不満そうにオレンジジュースを飲んでいる。
「絶対アイツ、アイスの方が欲しかったでしょ」「なー、ホントあまのじゃくだなー、天野」
松尾も振り返って天野を見て笑った。
松尾と田中の近くにいた女子3人は、笑う松尾と田中の会話を聞いていた。
「ほら、見てる見てる。アイス見てる」
「バニラかなー、バニラが欲しかったんだねー」
3人の女子のうちの1人。美緒は立ち上がって2人を睨んだ。
「バニラ余ってんでしょ?あげてきなよ!」
田中は美緒を睨んで、鼻で笑った。
「絶対また、いらないって言われるよ?」
「あー! 僕いいこと考えたー!」
突然、松尾が大きな声を出し、田中に耳打ちした。
田中はニヤリと笑って手でグッドサインを出し、また天野に近づいた。
「天野ー! 余ったからあげる!」
田中はバニラのアイスを天野に放り投げた。
「いらねぇって言ってんじゃん!」
天野は眉間にシワを寄せ、アイスを田中に戻そうとした。
「あー、それなら僕にちょうだいよ。3本目喰いたーい」
松尾が手を伸ばし、天野からアイスを取ろうとする。
「え! ダメだよ! 3本なんて! やっぱり俺が食うよ!」
松尾からアイスを死守し、天野は封を開け、食べ始めた。
「あー、喰われちった」
松尾はそう言い、田中と肩を組んで、天野から離れた。
「ぷぷぷっ、めっちゃうまそうに喰ってる」
「作戦大成功ー!」
松尾と田中はハイタッチした。
「2人とも優しいねー。本音が言えない奴なんてほっときゃいいのに」
そう言ったのはギャルのレナだ。アイスを早々に食べ終わったレナは、ゴミをポケットに入れた。
「そうかな?天野くんのことバカにしてるみたい。ひどいと思うけど?」
美緒はずっとしかめっ面だ。
「え?天野くん、仕方なく余ったやつを食べてるんじゃないの?」
3人目の女子衣織はキョトンとした顔で言った。美緒・レナ・田中・松尾は言葉に詰まった。
「天野ってー、恋愛でもああなのかなー?」
松尾が沈黙を破った。
「ああって?」
「本当に好きな人からの告白はOKできなくてー、そうでもない人からの告白はOKしちゃう、みたいなー?」
「あ! じゃあ、じゃあ!」
手を上げて立ち上がったのはレナだ。
「告ってこよっか? うちが。OKされたら脈ナシ。フラれたら脈ありってことでしょ?面白そー」
レナが天野へ向かっていく。
田中と松尾は肩を寄せ合い、レナを見守った。
「天野くーん」
食べ終わったアイスの棒を、自分が持っていたゴミ袋へ投げ入れる天野。
「何?」
長いサラサラな茶髪を、派手なネイルの手でかき上げるレナ。
「あのさー、えっとねー」
「なんなの?」
レナを見上げ、眉間にシワを寄せる天野。
「天野くん、いまぁ、彼女いる?……いないならー、私と付き合わない?」
照れくさそうにレナは、身体をくるくると揺らした。
天野は瞬間、動揺したように見えたが、平然とした顔になり、すくっと立ち上がった。
「彼女は今いないよ。付き合う……。まぁ、いいよ……」
「あはっ!」
レナは噴出したように笑った。
「うそうそ冗談。私、年上の彼氏いるし」
ケラケラとレナは笑っている。
「なんだよ。まじで。そういう冗談やめろよ」
天野はホッとしたようなイラっとしたような顔になった。
レナは、「じゃね」と言って手を上げて5人の元へ帰ってきた。
「脈ナシだったわ。ちょっと残念」
田中はレナに拍手を送った。
「レナすげーよ。勇気あるわ」
松尾はしばらく顎に手を当てて考え込んでいたが、「あ」と言い、ピンと人差し指を立てた。
「衣織ちゃんさー、天野に声かけてきてくんない? なんでもいいからさー」
「えっ? 私⁉」
衣織は目を丸くした。
「なんで私?いいけど……」
衣織は不安そうに、キョロキョロ後ろを振り向きながら、天野に近づいて行った。
ゴミ拾いに気を取られている天野は衣織にまったく気づかない。
衣織が、トント……と肩を叩いたかと思ったら、振り向いた天野が飛び跳ねた。
「何俺に近づいてんだよ! あっち行けよ! ブス!」
叫びつつ後ずさりしている天野の顔は真っ赤だ。
「わかりやすっ!」
田中と松尾は笑った。
「あー、でも衣織はピュアだから。言葉そのまんま受け取っちゃいそー」
半泣き状態で衣織は戻ってきた。
「私っ、天野くんにすごく嫌われてるから……ぐすっ」
「いや、いや、いや」
田中と松尾とレナは右手を振った。
「衣織、うちらの話聞いてた?」
「えー? なんて言ってたっけ?」
衣織は潤んだ瞳をぬぐった。
美緒は1人、天野を見つめていた。
やってしまった……、 とでも言いたそうな背中だ。
(私が告ったらOKしてくれるのかな? それはそれで悲しいな……)
美緒は頭を抱える天野を、切なそうに見つめた。