テラーノベル
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研究所――
最深部
白い部屋。
涼架は静かに椅子へ座らされていた。
前回の実験とは違う。
今回は機械が多かった。
頭部を囲むような装置。
無数のモニター。
そして。
壁一面に並ぶ映像。
榊が部屋へ入ってくる。
「調子はどうだい?」
「最悪だねぇ」
涼架は即答した。
榊は苦笑する。
「強がりだな」
「そっちこそ」
二人の間に沈黙が落ちる。
榊はしばらく涼架を見ていた。
それから静かに言った。
「なぜそんなに抵抗する?」
「……は?」
「君は理解しているはずだ」
榊の目は本気だった。
狂気ではなく。
本気で信じている目。
だから余計に厄介だった。
「世界は変わる」
「獣人は進化だ」
「人類の次の形だ」
涼架はため息をつく。
「そのために人を傷つけていい理由にはならないよ」
榊は何も答えない。
ただ。
少し悲しそうに笑った。
「だから君が必要なんだ」
その言葉の意味が。
涼架には理解できなかった。
⸻
数時間後。
実験が始まった。
激しい苦痛や流血ではなく。
もっと静かなものだった。
映像。
音声。
催眠。
記憶への干渉。
繰り返し。
繰り返し。
繰り返し。
モニターが点灯する。
『被験体は従う』
『命令は絶対』
『榊を守る』
『敵を排除する』
同じ言葉が流れ続ける。
何時間も。
何十回も。
何百回も。
涼架は目を閉じる。
負けるな。
忘れるな。
頭の中で何度も自分へ言い聞かせる。
忘れたくない。
モトキ。
ヒロト。
レイ。
山奥の家。
焦げた鹿肉。
焚き火。
笑い声。
全部。
全部。
忘れたくない。
その時だった。
機械が反応する。
ピーッ。
ピーッ。
研究員が叫ぶ。
「記憶領域が抵抗しています!」
榊がモニターを見る。
「やはりか」
涼架の脳波が異常な動きを見せていた。
消えない。
記憶が。
まるで何かに守られているみたいに。
榊は静かに呟く。
「絆か」
そして。
少しだけ表情を曇らせた。
⸻
同じ頃。
研究所の地下配管。
モトキ達は侵入していた。
ヒロトが先頭。
猫獣人の身軽さで進む。
レイが後ろを歩く。
モトキは無言だった。
焦っている。
今にも走り出しそうなほど。
「落ち着いて」
ヒロトが言う。
「分かってる」
そう答える声は全然落ち着いていない。
レイが突然立ち止まる。
『あのへん』
モトキが振り返る。
「本当?」
レイは頷く。
『りょうか』
胸を押さえる。
『いる』
モトキの瞳に希望が灯る。
「行こう」
三人は走り出した。
⸻
その頃。
涼架は夢を見ていた。
暖かい夢。
山奥の家。
夕暮れ。
窓の外の風。
モトキが笑っている。
『涼ちゃん見て!』
焦げた肉。
得意げな顔。
ヒロトが呆れている。
レイは首を傾げている。
平和な時間。
帰りたい。
そう思った瞬間。
夢の向こうから声が響いた。
『忘れろ』
景色が揺らぐ。
『忘れろ』
榊の声。
『それは不要な記憶だ』
山小屋が崩れていく。
モトキ達の姿が薄れていく。
涼架は必死に手を伸ばした。
「待って」
消えるな。
忘れたくない。
だが。
世界は白く染まっていく。
その時。
遠くから聞こえた。
狼の遠吠え。
懐かしい声。
『涼ちゃん』
モトキの声だった。
夢の中の涼架が顔を上げる。
白い世界に。
小さな亀裂が入った。
その頃。
研究所では警報が鳴り始めていた。
侵入者発見。
侵入者発見。
赤いランプが点灯する。
榊はゆっくりモニターを見た。
そこには。
施設を進む三人の姿。
モトキ。
ヒロト。
レイ。
榊は静かに笑った。
「来たか」
そして。
実験室の奥へ視線を向ける。
眠るように座る涼架。
その耳元で機械が動き続けている。
榊は小さく呟いた。
「間に合うかな」
その言葉の意味を知る者は。
まだ誰もいなかった。
コメント
1件
うわあ、このエピソード……めちゃくちゃ熱かったです。涼架が必死に「忘れたくない」って自分に言い聞かせるシーン、涙出そうになりました。モトキたちの名前や山小屋の思い出を守ろうとする姿に、グッときましたね。それと、脳波が抵抗するところで「絆か」って榊が呟く場面、世界観の設計がしっかり感じられて好きです。伏線の張り方が綺麗だなあ。ラストで警報が鳴って「来たか」の流れも、次の展開が気になりすぎます!
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unknown
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# omr _ .
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