テラーノベル
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駅から家までの帰り道、誰もいないはずの路地に、見覚えのない自販機があった。
白くて、やけに明るい。
周りには街灯ひとつなくて、そこだけが浮かび上がっているみたいに不自然だった。
「こんなの、昨日あったっけ」
足が止まる。
通り過ぎることもできたのに、なぜか視線が外せなかった。
近づいて、息を呑む。
並んでいるのは、飲み物じゃない。
『安心 100円』
『後悔 50円』
『勇気 300円』
『忘却 500円』
『再会 1000円』
「……なにこれ」
思わず小さく笑う。でも、その笑いはどこか引きつっていた。
——冗談、だよね。
そう思いながらも、胸の奥がざわつく。
特に、一番端の文字。
『再会』
その二文字から、目が離せなかった。
頭に浮かぶのは、一人しかいない。
もう会えないはずの人。
ちゃんと別れたわけでもなくて、ただ時間だけが過ぎて、連絡も途絶えて。
でも、ずっと引っかかっている存在。
「……いや、さすがに」
そんな都合のいい話、あるわけない。
わかってるのに。
ポケットの中の小銭を、指でなぞってしまう。
冷たい硬貨の感触が、やけに現実的だった。
——もし、これが本物だったら。
考えた瞬間、指が止まる。
怖い。
もし会えたとして、何を話すのか。
何も変わってなかったらどうするのか。
それとも、全部変わってしまっていたら?
逃げる理由なんて、いくらでも思いつく。
でも。
視線が、隣に移る。
『勇気 300円』
「……そっちか」
思わず、小さく呟いた。
再会を買うんじゃない。
必要なのは、その前の一歩。
震える手で、小銭を入れる。
カチン、と乾いた音が響いた。
ボタンを押す。
取り出し口に落ちてきたのは、透明なガラス玉だった。
淡く光っていて、触れるとほんのり温かい。
「……ほんとに、これ飲むの?」
誰もいないのに、誰かに聞くみたいに呟く。
答えはない。
でも、不思議と迷いはなかった。
口に入れる。
ガラスのはずなのに、すっと溶けて消えた。
次の瞬間。
胸の奥に、何かが灯る。
怖い、って気持ちが消えたわけじゃない。
でも、それよりも強い感情が押し上げてくる。
——会いたい。
ただ、それだけだった。
気づいたら、足が動いていた。
スマホを取り出す。
何度も打っては消した、あの人の連絡先。
画面を開くだけで、指が止まっていたはずなのに。
今は違う。
迷わず、メッセージを打つ。
『久しぶり。今、話せる?』
送信ボタンを押す。
たったそれだけのことが、ずっとできなかったのに。
送った瞬間、心臓が跳ねる。
怖さが遅れて押し寄せる。
既読がつかない時間が、やけに長く感じる。
やっぱり、やめればよかったかも。
そんな考えが浮かびかけた、そのとき。
——既読。
息が止まる。
数秒後。
返信が来た。
『久しぶり。ちょうど、連絡しようと思ってた』
「……は?」
思わず声が漏れる。
そんな偶然、ある?
画面を見つめる手が震える。
続けて、メッセージが届く。
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