「オレらが日本の闇を牛耳るんだ」
少し遠く、高いところに立っているイザナさんをぼんやりと見つめる。相変わらずの息が凍るような恐ろしい情景に顔を歪めた瞬間、ブォンブォン…というバイクの激しい排気音が夜空に鳴り響いた。
「東卍が来たぞぉっ!」
1つや2つではない、何重にも重なって聞こえてくるバイクの乾いた轟音と周りの人たちの興奮したような叫ぶ声にキーンと軽い耳鳴りがした。
『とーまん?』
口の中でゆっくりとその言葉を繰り返す。あまりしっくりこない響きに首を傾げる。
「東京卍會、略して東卍。東京の渋谷仕切ってる暴走族の名前だよ。」
発音違うぞ、と丁寧にそう教えてくれたのはイザナさんではなく金髪でよく日に焼けた肌の男性だった。金縁眼鏡の奥で覗く濁った色の細い瞳が私を捉える。
『…え、と』
誰だろう、この人。と言葉を詰まらせる。
「稀咲鉄太、イザナの仲間って言えば理解できるか。」
私の思いを読み取ったのか、男性…稀咲さんはそう静かに名前を教えてくれた。
『稀咲…鉄太』
線をなぞるように言われた名前をゆっくりと繰り返す。その瞬間ドクンと心臓が妙に大きく跳ねあがり、異常なほどの速さで脈を刻み始める。全身の血液が沸騰するのを感じ、目を見開く私の脳内で少し前の鶴蝶さんの言葉がやけに鮮明に蘇る。
──「……稀咲鉄太って奴とイザナが妹を殺すって話しているのを偶々聞いた」
稀咲鉄太
そうか、この男が。
「イザナからオマエの話は聞いてる。」
「…アンタのこと“は”殺さねェから安心しろよ。」
呆然とする私に、少しの皮肉を含んだ声色でそう言い笑う彼の黒い笑みにすーっと神経が凝結したような気味悪さを覚える。
『…は』
私はってなに。じゃあもうイザナさんの妹さんは。
「…意味、分かったみたいだな。」
さぁーっと背筋に張りついた冷えがなかなか引かず、凍り付いたように彼から視線を外せない。雷に打たれたような震えが全身に荒い脈拍を伝える。
そんな放心状態に陥る私を放って、稀咲さんはどこかへ行ってしまった。
「行くぞぉぉぉぉ!!」
男の人たちの荒ぶった声にハッと我に返る。既に傷だらけの人たちが追い打ちをかけ合うように殴り合う光景が目に入って来る。
傷つき、傷つけ合う。
それはイザナさんも例外ではなかった。
「うん!」
「勢いは止めた」
くるりと振り返り清らかな笑みを浮かべる彼の足元には頬に衝撃が当たった跡があり、白目を向いて倒れている男性の姿があった。彼だけじゃない、周りにたくさんの男性が死体のように転がっていた。
気が動転して叫び声すら出てこない。恐怖で胸が激しく波立つのを体の内側から感じる。
でもなんか………
「○○」
『わっ!?』
いつの間に居たんだろう。
ギュッといきなり抱き締められたと思ったら、耳のすぐ傍でイザナさんの声が聞こえた。
驚きで高鳴る心臓を押さえ、落ちつこうと試みるが目の前で広がる悲惨さを目に入れると、恐怖と驚きでスゥッと気が遠くなる。
「…怖い?」
私から体を離し、すぐ隣に座るイザナさんの問いかけに静かに頷く。
聞こえてくる音全てが神経に突き刺さってくるような嫌な音で、人を殴る鈍い音や、人の苦しみを表したような呻き声は確かに怖いし少し気持ち悪い。
でも。
『……さっきのイザナさんはかっこよかった、です。』
顔を隠すように俯け、そう絞り出すように呟く。
場近いかもしれないし、こんな事本当は思っちゃダメなのかもしれないけど、あの時のイザナさんの表情には不覚にも胸にキュンとくるものがあった。今でもまだ夢の余韻のようにあの時の感情が体に染み込んでいる。
『…ぁ…ぇっと…』
素直な気持ちを勢いのまま吐いた直後、稲妻のように体全体に羞恥が走る。かぁっと燃えるような恥ずかしさに顔が赤くなるのが分かった
「………はぁぁぁぁぁぁぁぁ好き」
石のように固まって動けなくなる私をイザナさんはいつもの様に抱きしめてくれた。
続きます♡→500
風邪っぴきなので遅れるかもです
コメント
2件
ゆっくり休んでくださいね!!!