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『春に咲いた嘘』ーそして、未来へー
響に別れを告げた春から、また一年が経った。
季節は巡り、私は少しずつ、少しずつ歩き出していた。
毎日を忙しく生きるうちに、少しずつ傷も癒えていった。
それでも、桜が咲く季節になると、やっぱり心がきゅっと痛んだ。
そんなある日。
職場の同僚に誘われた食事会で、私は一人の男性と出会った。
どこか飄々(ひょうひょう)としていて、でも時々見せる真剣なまなざしが、どこか響に似ていた。
名前は、浅見悠真(あさみゆうま)。
最初は、なんとなく苦手だった。
心のどこかで、「誰かに近づかれるのが怖い」と思っていた。
だけど、悠真は焦らなかった。
少しずつ、少しずつ距離を縮めてくれた。
何気ない会話。
差し出されたコーヒー。
道端の小さな花に目を留める、優しい仕草。
(あぁ、こういうふうに、誰かを好きになるのかもしれない)
響とは違う。
でも、違っていいんだ。
誰かを失った痛みを知ったからこそ、誰かを大切にしたいと心から思えるようになったのかもしれない。
ある日、悠真が言った。
「桜、好き?」
私は答えた。
「…うん。すごく好き。少し苦手だけど」
彼は笑った。
「じゃあ、いつか“平気になるまで”一緒に見よう
その言葉に、不意に胸が熱くなった。
春を怖がらなくていいんだって、初めて思えた。
私は静かに頷いた。
響。
私はあなたを忘れないよ。
でも、私は生きていくよ。
笑って、泣いて、また誰かを好きになって、それでもあなたを胸に抱きながら。
桜の下、そっと目を閉じる。
新しい風が、頰を撫でた。
未来は、まだ白紙だ。
だけど、その隣に、誰かがいるかもしれない。
そんな、優しい春の予感だった。