目を大きく見開き、信じられない、という視線を此方に寄越す。此れを、僕に、?と云うので、おう、と頷いた。
そう。芥川が手に持っているのは真っ黒な外套。俺の外套と型が同じの、サイズが一つ大きいものだ。
「自分が連れてきた新人には、何かを贈るんだとよ。銀にも後日渡す心算だ」
「────有難う、御座います……」
大事そうに胸に抱き込んだ芥川を見て、俺は胸が暖かくなるのを感じた。
あれから3年。もうすっかり外套は芥川に馴染んでいた。
最前線で戦っている芥川を眺める。俺が与えた外套を鋭利な刃に変化させ、戦場を縦横無尽に駆け回っている。ひらりひらりと舞う其の姿はまるで踊っているかの様だ。
俺が教えている体術も確りと活かしている。確実に前よりも体力がつき、動けるようになっている。
けれども、矢張、異能力は────、
「異能力を未だ使いこなせていないね」
「……太宰」
────異能力の訓練は、太宰が適任だ。判っていた。悔しいが、此れが現実であった。
「僕、もうすぐで幹部になるんだってさ。僕が芥川君のことを気に入ってるの、知っているでしょう?」
「…………嗚呼、そうだな」
此の後に続く言葉が何か、判ってしまった。お互いに気にくわない奴だと思っているが、ずっと見てきたから。
「幹部は直属の部下を1人だけ持つ権限を持っているらしくてね。────芥川君を部下にしたいのだよ」
嗚呼、矢張。そう云うと思った。
無邪気な顔で────常日頃から暗い瞳は相変わらず濁っていたが────微笑む此奴が心底腹立たしい。俺の気持ちを知っておきながら、いけしゃあしゃあと云いやがって。
俺は絶対そんなことを快く承諾する訳はないのだが、結局は上手く丸め込まれてしまうのだろう。
太宰は云いたいことだけ云って、自分の持ち場に帰っていった。
「任務を完遂致しました」
返り血を浴びて、全身赤色に染まっている状態で駆け寄ってきた。戦果をあげることに固執していない芥川は、仲間を守る時以外は独断専行もせず、捕虜も生きたまま捕らえている。
拾った頃よりも背が伸びて、俺より少し上にある頭を撫でた。もう童ではありませぬ、と云うが、其れでも大人しく受け入れているあたり、本気で嫌がってはいないだろう。
「……芥川」
返事の代わりにきょとん、とでも効果音が付きそうな顔で此方を伺っている。
……矢張、こんな可愛い龍を彼の青鯖なんかにやりたくねェ!!!!呉れてやるものか!!
「否、やっぱいい……。気にしないで呉れ」
「はぁ……、?」
ここから、俺と太宰の攻防戦が始まったのであった。
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