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桜……
本当に終わっちゃったな。
あれから、私の中に少し重苦しい感情が残ってしまった。
せめて、目の前のこの木に、桜の花が綺麗に咲いててくれたら、きっと少しは気持ちも安らいだだろう。
でも……落ち込んでる場合じゃない。
私にはやるべきことがあるんだから。
祐誠さんがくれたパン教室の仕事、今はそれを全うしたい。
だから、しっかりしなきゃ。
あんこさんと慧君がアドバイザーとなって支えてくれてることにも感謝して頑張らないと。
今日は……月曜日。
目玉焼きとハム、ソテーしたオニオン、レタスが挟んであるイングリッシュマフィンのサンドイッチと、あとはあんこさんが大好きなあんパン。
これを届けるために、私は祐誠さんの会社に向かってる。
祐誠さんに会うと思うと、普通じゃいられなくて、心臓がかなりうるさく音を立てている。
本当に……この気持ちは……
あの時、私を抱きしめてくれた祐誠さんのぬくもりと感触。
目を閉じれば、声まで思い出せる。
甘く囁くような声。
それが私の中によみがえってきては私の心を揺さぶる。
あれは……いったい何だったのか。
ダメダメ、私は仕事で来てるんだよ、頼むからしっかりして。
私は自分にそう言い聞かせながら、前に進んだ。
「着いた……」
目の前にそびえる立派なビル、そこに立った瞬間、春風が私を包んで、そして優しく吹き去っていった。
遥か上を見上げ、深く息をする。
「行こう」
私は、エレベーターで社長室まで上がり、廊下を進んで部屋の前に到着した。
「美山様」
「へっ?」
緊張がピークに達したところで呼ばれてしまい、振り返りながら、思わず間抜けな声を出してしまった。
「こんにちは」
秘書の前田さんだ。
私の変な声に、少し笑ってる?
前田さんには、いつも笑われてる気がするな。
本当に恥ずかしい。
「申し訳ないですが、実は社長が急な出張になりまして……つい先程、出られました。大変恐縮ですが、持ってきていただいパンは私が全部食べるようにと社長から言われまして……」
今日は……祐誠さんいないんだ。
何だろう? このホッとしたようで、残念な気持ちは……
「そうなんですね。前田さんに食べてもらえるなら嬉しいです。店長が一生懸命焼いたパンですから、ぜひ召し上がって下さい」
私は笑顔でパンを手渡した。
「ありがとうございます。美山様、少しお時間よろしいでしょうか? ロイヤルミルクティーをいれますので、パン教室について話しませんか? 社長にも詳しくアドバイスしておくようにと言われていますので」
前田さんは、メガネを少し動かした。
「本当ですか? それはすごく助かります。こちらこそぜひよろしくお願いします」
私は頭を下げた。