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#アラスター
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これはほんとうに夫なの?
人を人とも思わず、笑いものにして……。
「あのさ、美輪ちゃん」画面を覗いたリリコさんが私に鋭い視線を向けてくる。「こんなやつ、捨てちゃいなよ。美輪ちゃんの人生に要らないでしょ、クズだもん」
リリコさんの言葉にはっとした。
「生活費2万円しかくれないドケチ夫のなにがいいわけ? そりゃ、いろいろいい所もあるから結婚したんだろうけど、そんなヤツだってわかってたら、こっちだって結婚しないよね。完全に詐欺なのはあっちなのに、なんで美輪ちゃんが我慢しなきゃいけないの?」
「そうそう~。ポイしちゃお☆」
「美輪ちゃんだったら仕事に困らないわ。だから大丈夫。離婚が怖いって、急に一人になることが不安なのよね。私もそうだったけれど、リリコやユカリのおかげで前向きに頑張れたの。今は慰謝料もらってのんびりマカロン通いしているの。4人でおしゃべりをするのが楽しくて」
カスミさんもそうだったんだ……。
「わ、私でもできますか……?」
期待を込めた目で彼女たちに聞いてみた。すると――
「もちろん! できるに決まってるっしょ!」
「私も協力するわ!」
「みんなで旦那クンをやっつけよう~☆」
こんな見ず知らずの私に協力してくれるなんて……。ずっと虐げられていたから、こんな風に認めてもらえると、嬉しくて涙がこぼれた。
「やだ~、ちょっと美輪ちゃん泣かないで!」リリコさんがハンカチを差し出してくれた。
「わかるわ~。私も孤独だったから、幸せアピールしているだけの夫にしか見えないから、誰も私の辛さには共感してもらえなくて。ずっと苦しかったの」
カスミさんもそうだったんだ。だったら私も頑張って離婚できたら、もっと自由になれるのかな。
今、はっきり、心から思えた。
慎一と別れたい、と。
「私、別れたいです!!」
3人の実際に離婚をして、投げかけてくれる言葉やアドバイスが、まさに自分たちの辿ってきた、辛く苦しい道の先にある未来を予見させてくれる。辛いのは私だけじゃない、と。
「夫と離婚します。どうしたらいいですか」
ぐい、と涙を拭った。もう迷わない!
「とりあえず旦那クンの裏垢チェックだね~。転送するよ。アカウント作って仲良くなるのもアリだよ~」
なるほど。自分の嫁に裏アカをフォローされるって、ホラーだね。
真相を知った時の、慎一の顔が見てみたいと思った。
「旦那クン、同類系のフォロワーが多いなぁ。シタ妻、シタ夫、同じネタでサレ妻たちをバカにする共有アカを好んでフォローしてる」
ユカリさんが早速フォロワーの分析をしてくれた。ぱくり、とマカロンを頬張ることも忘れない。
「じゃあ、これをレシピに加えましょうか」オーナーが言った。「美輪さんは、横山慎一に近づくアカウントを研究して作ること。自ら証拠を作りましょう」
……え?
「あ、アカウントを作るってことですか?」
「はい。おっしゃる通りです。あ、紅茶のおかわりをどうぞ。特製のマカロンと一緒に」
オーナーは慣れた手つきで絶品のミルクティーを淹れてくれた。渡してくれた手製のマカロンをひとつもらい、口に入れてみた。
――サクッ。
極薄の繊細な生地が、前歯に触れた瞬間に儚く崩れる。 中から溢れ出したのは、驚くほど濃厚で滑らかなピスタチオのクリーム。 舌の上で体温に溶け、気高く、芳醇な香りが一気に広がっていく。
(……おいしい)
甘い。けれど、後味にはほんのりと、宝石のように鋭い塩気が効いている。だからオーナーは『宝石ジェンヌ』と呼ばれているのかも。
(ああ、そっか……)
この甘さは『救い』だ。 辛い闘いを癒してくれる、極上の癒し。みんな、誰かしら、この世で生きていく上で『なにか』と闘っている。それには休息も必要だ。
「とてもおいしいです。久々にこんなにおいしいスイーツを食べました」
この味、この香り、一生忘れない。30歳という節目の誕生日に、ほんとにどん底で、辛くて、苦しくて、夫が浮気していることもわかって……。でも、これから立ち上がるの。負けずに頑張って、勝って、自由を手に入れる!!
「ユカリさん。夫に近づくには、どんなアカウントにすればいいですか?」
もう泣かない。
私は、私のためにこれから頑張るの。
「お。美輪ちゃん、イイ顔になったね♪」
「ほんとほんと」
「闘う女になった!」
3人に口々に褒めてもらった。
彼女たちのおかげで、勇気が持てた。離婚して自由を掴みたいって思えた。
「じゃあ、おいしいマカロンでも食べながら、考えよ♡ オーナー、おススメのマカロン追加して~♡」
空っぽになったお皿を指さし、ユカリさんが笑った。
昼下がり。サレ妻たちが作り上げる制裁レシピが、第一工程の一ページ目を埋めようとしていた。
※
あれから自宅へ戻り、『夫に相手をされない淋しいサレ妻』を想定し、作ったSNS――らぶ美@素敵な男と出会いたい主婦垢 のアカウントを眺める。
”夫に相手をされない淋しいサレ妻” ”もっといい男と出会いたかった” ”家庭に不満がある人仲良くして”
そんな風に書き散らかし、夫をフォローして、彼が私に対する酷いコメントにいいねを送り、さらには賛同するDMまで送った。
彼が食いついてくることを願って、口元から胸元までのセクシーなアイコンを作った。これはもちろん私の写真。サロンで衣装を借りて撮影してもらったものを、自分で口元にほくろの加工をしたものだけど――
ピコン♪
こういうアイコンにして、”らぶ美@素敵な男と出会いたい主婦垢” なんて名前を付けてアカウントを作ったから、無数に男性からのフォロー申請が多く、たくさんの通知が届いていたので、今回もそのうちのひとつだと思っていた。
――イケてる俺最強_いっちゃん@エロ垢 さん にフォローされました
夫だ――!!
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