テラーノベル
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「あの世界で■■■だった者は、この世界では人を呪った罪人でした。」
クトゥルフ神話TRPG
「ハルニレ通りの呪術師へ」
いつも通り目がタヒんでる少女。見た目はハルニレ通りでの姿です。ハーフアップカワイイ
知り合いとかで良いか。今回の場合は「大事なものを奪われ、大切な方が傷つけられた」とかで良いか。
通話でフラグを立てた気がしたのでフラグ回収しない事を願います。
🧸 恋歌
探索者は憎い『あいつ』を呪サツした。
……
気がついたらハルニレ通りにいた。
見覚えのない土地なのに、なぜか昔からここで呪術師をしていた気がする。
ハンドアウト
貴方は憎悪から人を呪いコロした。
対象はあなたを過去に害した加害者かもしれないし、ずっとあなたを虐げてきた親族などかもしれない。
あなたは憎悪に突き動かさるまま、呪いの儀式をを手当たり次第に調べてまとめて実行した。
儀式直後にMP切れで気絶してしまったため対象がどうなったかは不明だが、少なくとも生きてはいないだろう。
・操られている等は無く、自分の意思で誰かを呪いコロした。シナリオ後も無かった事にならない。
・呪いの対象や理由は自由だが、呪う為になんでもする覚悟がある。一方的な逆恨みでも可。
・【オカルト】に50%の補正
・継続探索者も可能、その場合【オカルト】に+50%(上限95%)
・エンドによっては、生還でも元の世界へ戻って来れない場合がある。継続探索者の場合、注意すること。
call of Cthulhu
ハルニレ通りの呪術師へ
床に大きく描かれた赤黒い魔法陣。
知らない動物の古びた頭蓋骨。
見る度不快になる『あいつ』の写真。
わざとグチャグチャに腐らせた卵。
複数の香草を練りこんだ黒い蝋燭。
異国の何らかの神を象った木彫人形。
傍目にも異様さがわかる空間だが、この場所を作り上げたのは他ならぬ自分自身だ。
焼け付く憎悪が思考を焼いて、衝動のままに呪詛を重ねていく。
あれが疎ましい、憎い。
腐敗したドブのような汚れた感情がどこまでも募る。
自分のしている儀式は本物なのか、代償に何を失うのか。
そんな事を冷静に考えられる段階はとうに過ぎていた。
どこでこの儀式について知ったのか?
古い魔導書を偶然手に入れたのか、ネット上で見つけたのか。
呪う為に死に物狂いで探していたんだ、過程なんてどうでもいい。
『あいつ』の髪、『あいつ』の名前、『あいつ』の持ち物。
儀式の為に集めた、呪詛を『あいつ』へと繋げる為のもの。
あなたは呪詛の詠唱を続けていく。
あなたは『あいつ』をひどく憎んでいる
大事なものを奪われ傷つけられたのか、あなたには無いものを『あいつ』が持っていたのか。
『あいつ』は貴方の親族かもしれないし、なにかの事件の犯人かもしれない。
『あいつ』が幸せにしている限り、あなたは不幸の只中にいる。
あなたは『あいつ』を狂おしい程に憎んでいる。
憎悪の炎は燃え上がり、通常の手段では鎮められない。納得できない。
『あいつ 』を不幸にする為なら何を失ってもいい。
もちろん 自分の命でも
馬鹿げた選択であることは自覚していたとしても、後戻りできないほど憎悪に蝕まれてしまった。正論なんて聞きたくなかった。
もう他にどうする事も出来ない……
「『あいつ』が幸せになりませんように」
見様見真似で描いた魔法陣から赤い煙が立ち昇る。
儀式は成功しただろうか。
緊張で止まりかける詠唱を、それでも続け、あなたの眼の前の異変を見つめる。
『あいつ』をただコロすだけでは満足できない。
叶うならコロす前に常軌を逸した苦痛を与えたかった。
屈辱を、後悔を、絶望を与えてやりたい
自分はこんなに苦しんだんだ。あいつが笑って生きるなんて許されるか?
だから、幾重にも幾重にも呪詛を重ねた儀式を準備した。
たった1人の為に、何倍もの致死量を。
自分の安全性などどうでもいい。
悍ましい幻覚を見る、生きたまま焼かれる、 餓えと渇きに苛まれる、干からび皮膚がひび割れて内臓を溢す、自身の手で大事なものを破壊させる、肺の中が水で満たされる、獣へと退化する、手足が腐る、全身が腫れ上がる、死後も魂に苦痛が留まり続ける、熱した鎖で全身を焼かれる、邪神への奉仕を永遠に義務付けられる……他に、何があったか。
忘れてしまった。
思いつく限り、見つけられた限りの呪詛を重ねた。
赤い煙があなたの詠唱を静かに聞いて揺らめいている。
多くの呪詛を重ねた分、詠唱は長時間に及んだ。
偏執的な憎悪に取り憑かれていなければ不可能だっただろう。
全身が汗でベタつき、喉奥に苦みを感じる。
まるで自分が焼かれているかのように胸が苦しく、同時に、達成感と高揚で笑い出しそうになる。
目眩が酷く、目を開いているのか閉じているのかさえ不確かだ。
著しい消耗の中で呪詛の詠唱を続けて、それで……
それで、どうなったのか。
確か自分は気絶したはずだ。
『あいつ』はどうなったのか。
?「呪術師さんのおかげです。これであの人も懲りたと思います」
暗い事務所のソファーに座った大人しそうな女性が、貴方へそう言った。
ここはどこだろう、さっきまで自分は…
貴方が現状を理解しようと思考を巡らせれば、心当たりのない、それでいて否定できない記憶が浮かんでくる。
ここはハルニレ通り。
貴方はここで呪術師として事務所を構えている。
目の前の女性はこの間の依頼人だ。
夫の浮気に呪術で罰してほしいと依頼されたから、痛い目に遭う程度の呪いを掛けてあげたのだ。
今はその後どうなったのかを聞き、残りの依頼料を受け取ったところだ。
……当然のように浮かんできた別世界の記憶に対しSAN値チェック【0/1d3】
🧸「…あぁ、流石にこの世界でも日は見れないか。それよりもなんで急に別世界?に連れられてるんだ…?」
貴方は改めて周囲に目をやるだろう。
🧸「とりあえず、1回自分のこと確認してから周り調べるか…」
【自分】
元の世界の自分の記憶では、不眠不休で呪いをかけた直後だった。身なりなんて当然見れたものではなかった。
だが、今の貴方の身なりはある程度清潔感がある。
あれほど酷かった空腹感や疲労感も今は無い。
ふとポケットの中に数十枚の紙が入っていることに気がつく。御札のようだ。
貴方の手から1枚落ちたその紙は、くるりと回転して小動物へと変化した。式神というやつだろうか。
呪術師である自分は、小動物を通して情報収集が出来るようだ。
※小動物は猫、ネズミ、蛇、イタチ、小鳥など自由。探索者と同じ目の色をしている。
このシナリオ中、以下の設定が探索者に付与される
・【POW+1d3】
・探索者は呪術師であり、戦闘中以外の好きなタイミングで式神を【1d3体】召喚する事が出来る。
MPなどのコストは不要だが、同時に存在させれるのは3体まで。
・式神が1匹でもいる場合、【目星】【聞き耳】を【オカルト】で代わりに振ることが可能。
【POW】13→14
🧸「式神…ですか、故意的に出してみますか。とりあえず…猫で」
🧸「え出た。えぇ……」
ネコ「みゃあ!」
🧸「…可愛いですね、笑」
【窓】
窓の外を見れば、白い街並みの向こうに海が見える。
青緑色の宝石のように明るく輝く澄んだ海。
ここは地中海の都市に似た海辺の街のようだ。
事務所があるのは3階、見下ろした建物入口の前にはハルニレ並木が続く通りが横に伸びている。
見知らぬ風景でありながら、見慣れた風景にも感じる。
🧸「…時間的には昼ですが、思ったより車が少ないですね。」
【机】
引き出しがいくつか付いた事務机だ。
机の上には、過去に自分が受けたのだろう依頼の記録をまとめた資料ファイルが残っている。
先程の浮気に関するものや逃げたペット探し、嫌いな相手への軽度の嫌がらせ呪詛や、 「呪われてるかも」という相談など。
呪術師・・・・・・・とはいえ、依頼内容は何でも屋や私立探偵とあまり変わらないようだ。
この記録が正しければ、少なくとも3年は呪術師として働いていることになる。
🧸「…ん?、年齢的に結構ダメなのでは…?この世界の私は成人してるのか…?いや年齢も同じなはず…え??」
🧸「…気にしたらダメですね」
一番最初のクリアファイルに『4/18/1943』 とだけ書かれた紙が入っていることに気づく。
また、机の一番下の大きな引き出しの中に 15cm³の木箱が入っている。
何故か触れてはいけない気がして、無意識に引き出しを閉じてしまう。
【SAN値チェック0/1】
🧸「呪具系統ならコトリバコ…?、だったら私タヒんでるか。まぁ気にする事でも無いですよね」
【本棚】
木製の本棚には、世界各地の呪術やオカルトに関する本が置かれている。
『金枝篇』や『陰陽道』、『西欧における魔女信仰』……果てには信用に値しないチープなオカルト本まで。
中には探索者が先程の儀式で参考にした本もあるかもしれない。
(お前大切な方の機械修理で100ファンしたの少し根に持ってるからな、クリチケ1枚使って成功にします)
「依代」と背表紙に手書きで書かれたノートを見つける。
中には何枚かのポートレートと共に、呪術に関する文章が書かれているようだった。
依代
ある人物に向けられた呪いを、別の対象へ移す方法には二種類ある。
ひとつは類感(共感)と呼ばれるものであり、 呪いを移したい相手を呪われた相手に似せるものだ。
呪いを移す対象としてヒトガタや人形を用いるのがこれに当たる。
ふたつめは伝染と呼ばれるものであり、持っていた物や身体の一部などを直接触れさせるものだ。呪いを移したい相手の髪や爪、記名した紙を持ち歩くのがこれに当たる。
基本的には類感と伝染の両方を用いる(相手の髪を入れた藁人形など)事が一般的である。
逆に言えば、これらの方法により知らぬ間に自分が誰かの依代として身代わりになる可能性もある。
ノートの筆跡は貴方の筆跡と近いが、異なるものだ。
🧸「呪い返しみたいなものでしょうか…、私はもしかしたら呪い返しされてタヒんでるかも…なんて、一人で何してんだろ」
🧸「今更だけどこの事務所私しか居ないのか…?流石にもう1人ぐらい居そうだけど…」
改めて周囲を見たが、どうして自分が今ここにいるのか不明なままだ。
……儀式の手順をどこか間違えたのか?
感情的に数多の呪詛を重ねすぎて自分でも把握しきれていないが、なにか変なものが混ざっていたのだろうか。
自分を犠牲にする覚悟で儀式をしていた直後にこんな穏やかな環境に置かれて、探索者はなんとなく居心地の悪さを覚えるかもしれない。
気にせずに、爽快感を覚える探索者もいるかもしれないが。
この街のことはよく知らない。
同時に、よく知ってもいる。
貴方が望むのなれば、目当ての場所へと辿り着けるだろう。
🧸「とりあえず、港と病院、聖堂だけ行きますか。ゴミ捨て場は…ゴミ無いしいっか…」
【港】
キラキラと輝くコバルトブルーの海に惹かれたのか、貴方は港へと足を運ぶ。
海鳥の鳴く港では大小様々な船舶が着桟しており、桟橋の上に貨物が積み上げられている。
電車や空港の無いこの街では車や船が外部との連絡手段となっており、小さいながら客船のターミナル施設もある。
貴方はこれらの船に乗った記憶はない。そもそも、この街を出た事がなかった気がする。街の中で十分に生活が完結していて、出る必要もなかったようだ。
……どうやってここへ来たのだろう?
🧸「…産まれからここなのだろうか、考える意味もないか」
【ターミナル施設】
赤茶色のレンガの外象が特徴的なターミナル施設だ。
大きな建物ではないが待合室や売店、イベント会場などもある。
が、今日は催し物は特に無さそうだ。
猫「にゃ……」
🧸「猫さんごめんね…、自分でやる方がわかりますいので…(※オカルト55)」
(クリチケ貰います)
待合室の椅子の上にA4サイズの紙束がぽつんと置かれているのを見つける。
誰かの忘れ物だろうか?
拾い上げて読んでみるのなら、なにかの事件について記載されているようだ。
1943年4月8日
イギリスのバーミンガム近郊の森で、木の中に白骨化した遺体が発見された。
遺体の身元も、事件の真相も未だ解明されていない。
その事件以降『Who put Bella in the Wych Elm?(誰がベラをハルニレの中に入れたのか?)』という落書きがバーミンガム内に連続して出現。
誰が書いたものなのかは不明のまま。
🧸「…ガチのやつですか。世の中は未解決事件が多いですからね…」
【船舶】
漁港としての役割もあるようで、いくつかの漁船の姿もある。
今の時間は大海原へと漁に出ている船も多いだろう。
白や黄色、水色で塗装された鮮やかな漁船もあるが、中には少し頼りない木造の釣り舟もある。
…ここなんかありそうなんだよな、クリチケ使うか(※最後のクリチケ)
潮騒の音に紛れて、ブクブクと断続的に泡が弾けている。
港で聞こえる音として強い違和感がある訳ではないが、妙に耳についた。
まるで水に沈んだ遺体が独り言を呟いているかのように聞こえる。
🧸「…なんの音?、こっちに害があるとめんどうだし…一旦音の方向行くかぁ」
音の聞こえた方へと歩みを進める。
まだ人に危害はないが、釣り舟の1つから小さな悪意を感じ取る。
よく見れば、その船の周りには小さな魚の死体がやけに多く漂っていることも分かるだろう。魚たちは全身に黒い斑点をつけて死んでいる。
もし探索者が望むのなら、判定無しで容易く悪意を祓うことができる。
なにかが起こる前に防ぐのも大事なことだ。
🧸「祓うか…大切な方々と会ってないけど、もし居たら不安だし…」
【病院】
街に対してそれなりに大きな規模の病院だ。 少なくともこの街の住人を診るには十分な設備があるだろう。
【HPが減っていた場合は全快できる】
待合室には雑誌ラックが置かれており、何冊か本や雑誌が入っている。
待合室の隣には患者やお見舞客向けのイベントを開催する時用の小さな舞台がある。 現在も数十名の観客がそちらに集まっており、人だかりの向こうから弦楽器の音色が聞こえる。
【雑誌ラック】
ファッション誌やガーデニング雑誌、釣りに関する雑誌などが置かれている。
子供向けの童話や絵本もあるようだ。
1冊の絵本が、ラックに戻されないまま待合室の椅子の上に置かれている。
赤い靴
貧しい少女が、美しい赤い靴を手に入れた。
少女はどこへ行くときも赤い靴を履いていった。
自分の赤い靴のことで頭が一杯になった。
それに怒った老兵が、赤い靴に踊り続けるよう言うと、少女の意思に反して足は踊り始めた。
周囲に取り押さえられてなんとか脱ぐことができたが、後日少女は舞踏会に行きたくて再び赤い靴を履いてしまう。
少女は自身の高慢さが招いた罰の見せしめとして、死んでも踊り続けることになった。
最終的には首切り役人によって両足を切り落とされたことで踊りからは解放されたが、その後もどこかで踊り続ける赤い靴に脅かされ続けた。
🧸「アンデルセン童話、赤い靴…最終的に少女は9歳で亡くなったのでしたっけ、とある少女がモデルとなった…とか、合っているかはわかりませんが。」
【舞台】
人だかりの先の舞台では、1人のヴァイオリニストがリクエストを受けて曲を演奏しているところだった。
楽器のせいだろうか?
明るく楽しい曲でありながら、哀愁も感じさせる深い音色だ。
【SAN値回復+1d3】
その時、急にヴァイオリンの弦が1本切れて演奏が途絶える。
観客達は少しざわめくが、演奏家は慣れた様子で新たな弦を張り替えてふたたび曲へと戻るだろう。
弦が切れる直前、何者かの怒りを孕んだ呻き声がヴァイオリンの方から聞こえた。
呪われた楽器なのかもしれないが、奏者の方が上手なのか、皮肉なことに演奏により深みを与える結果になっている。
🧸「…呪われた楽器か、はたまた彼が恨まれ、呪われているのか…その場合は逆恨みでしょうね。そろそろ出ましょうか」
【聖堂】
街の中で一際目立つ建物がある。
白いゴシック建築の建物であり、貴方の呪術師としての記憶はこの場所を「聖堂」であると教えてくれる。
威厳ある佇まいだが、扉は開かれており住人たちは自由に出入りできる。
宗教施設というよりは、普段からこの街の人々の公民館のような役割を担っている場所だ。
聖堂前にはちょっとした公園があり、子供たちがバットでボールを打って遊んでいる。
🧸「…どの世界でも、私は崇拝からは逃れられないのか。まぁ、入るか…」
猫「ニャッ」
🧸「あ、御札に戻った…ここはダメなのか式神とかは…」
聖堂内部はそれ1つで大きな部屋となっており、遥か上にあるドーム天井近くの窓から夜空が見える。
等間隔で並んでいる太い柱の先に祭壇があり、住人たちはそこで手を合わせたり、他の住人たちと談笑している。
祭壇には赤い球が安置されていた。
高価な宝石のように輝き、内部が渦巻いているかのように動く赤い球。
その赤は力強いマグマの本流のようにも、鮮やかな夕焼け空の移り変わりのようにも見える。
あれは『マスター』だと呪術師の記憶が言っている。
……なぜか、既視感を覚えるかもしれない。
🧸「どこかで似たような物でも見たのかな…、手を合わせて帰ろ…」
周囲の住人に倣って探索者も手を合わせると、安心感に似たふわふわとした奇妙な感覚があった。
【SAN值回復+1d3】
この街では古くから『マスター』を神として崇めている。
理由は不明だ。
そもそも理由を知ろうとする人がいないくらいに、この街では当たり前の事だ 。
🧸「私の所は…偶像幸福論があるからか、似てる所はあるんだな…帰ろ。」
青空に夕焼けが滲んでくる時刻。
貴方がハルニレ通りを歩いていると、少し気になる13歳ほどの少女を見つけた。
真っ青な顔をして道の端にしゃがみ込んでいる。
それよりも気になるのは、少女に纏わりつくようにしている黒い蛇だ。
(失敗…今日その調子続けるのやめてくれよロスト率中だからさこのシナリオ、ゾンビでSAN値チェックばら撒きたくない)
少女がなんらかの呪詛の標的となっていることは間違いない。
無視して通りすがることができないのは、今の貴方がこの街の呪術師だからか。
探索者がその蛇を祓おうとしても、眠らせるのがせいぜいで完全な解呪は困難だ。
何があったのかを聞いて原因を探るしかなさそうだ。
🧸「…あ、あの…少しよろしいでしょうか?」
少女は少し困惑しつつも、探索者が来たことで少し苦痛が弱まった自覚もあってか口を開く。
少女「あなたは…ハルニレ通りの魔法使いさん…?」
「お、お願いします!助けてください」
「わかんないんです、どうしたらいいか…でもずっと苦しくて…」
🧸「魔法使い…??、えっと…とりあえずいつから…?ずっとだと産まれた時から…?」
少女「いつ……昨日?ううん、おととい…3日くらい前、からです。こんなに苦しく、はなかったけど変だった」
「学校から帰って、友達と別れたあと。寝る前くらいから変な音がして。なんか首が苦しくて…」
少女はまだ跡の残る自身の首元を擦った
🧸「苦しさを感じる心当たりとかはないですか…?」
少女「……この前、テストがあって」
「わ、私はいい成績だったんだけど、友達が悪い成績取っちゃって。その時になんか……悪気はなかったの、なかったんだけど笑っちゃって。怒らせちゃった 」
「謝ったら許してくれたし、その後も一緒に帰ったから…まさか、違うと思うけど。他に思いつかないです」
🧸「…そうですか、あっ名前…私は雨風恋歌と言います。」
探索者が名前を聞けば、彼女は「リナ」と答える。
名前というのは本人と強く結びついたものであり、呪術的には本来あまり他人に教えていいものではない。
知っていることでできることも増えるだろう。
探索者が少女……リナの友達の名前を聞き、彼女が「マリア」だと答えた時に黒い大蛇がズルリと身動きした。
何らかの関係はありそうだが、確信を得るには彼女の通う学校を見に行く必要がある。
🧸「(年齢的に私も通ってそうな気が…そしたら不登校側か、)」
「1回学校を見てもよろしいでしょうか?、もしかしたら何かあるかもですし…」
リナ「えっ…あ、はい。」
リナの通う学校は、聖堂のある場所から先へと進んだ場所にある。
夕暮れ差し込む放課後ということもあり、クラブ活動をしている生徒が校庭にちらほらいるだろう。
少女はともかく、部外者の探索者が中に入るわけにもいかず外周を回っていれば、校庭を囲んでいるフェンス内側の一角に黒い靄が澱んでいるのを見つけた。
どうやら、フェンス沿いの地面の一角に何かが埋められているようだ。
リナに頼んで掘り起こしてもらうと、中から黒いビニール袋に入った何かが出てくる。
1人で封を開けないよう注意を受けて、敷地外で待つ探索者の元まで袋が運ばれた。
ビニール袋を開ければ、食い破らん勢いで黒い物体が吹き出す。
それは悪意に満ちた7つの目でこちらを見下ろす大蛇だ。
袋の中に収まらないその大きな胴体は、木の幹のようにゴツゴツと節立っている。
明確な敵意をこちらに向ける大蛇の姿はリナにも見えたようで、怯えた声を上げて後ずさる。
これ程の大きさとなると穏便に済ませることは難しい。
🧸「…そりゃ怖いですね、こんなの見たら…昔の自分も同じでしたから。」
「殴って祓うか…」
探索者(恋歌) DEX16、HP17
リナ DEX15、投擲25
大蛇 DEX8、HP16、攻撃方法2種
(-24だ間違えた…オーバーキルだしMP5で足りたなこれ。出目高いね君)
思いがけぬ反撃を受けた大蛇は、ズルズルとどこかへ逃げていく。
暗くなりゆく夕方の街、この辺りに出歩く人が少ないのもあってか大蛇が街を這っても騒ぎにはならない。
そもそも、無関係な他の人々には見えていないのかもしれない。
「……こっち、マリアの家がある方だ」
後を追いながらリナが小さく呟いた。
追っていた大蛇の姿が黒い靄になり消える。 その地点にあったのは、家族が夕飯の準備をしているのか、暖色の明かりが灯った一軒家だ。
幼馴染とのことで、リナがチャイムを鳴らせばすぐに玄関へマリアの母親が出てくる。
「あら、リナちゃん! どうしたの?」
「マリア? 学校から帰ってずっと自分のお部屋にいるわね。ちょっと呼んでくるわ」
数度マリアへ呼びかける母親の声がし、再び困ったように戻ってくる。
「うーん、どうしたのかしら。リナちゃん、 何かあったの?」
一緒にいる探索者に対しては少し不思議そうな顔をしたものの、「リナちゃんが連れてきたなら」と中に入れてもらえるだろう。
マリアの部屋は2階にあるようだ。 じとりと肌に張り付くような悪意。 廊下からでも明らかな異常が感じ取れた。
リナは慣れた様子で彼女の部屋まで上がっていき
「マリア、いる?」
と、扉を叩いた。
数秒の間をおいて扉が開く。 それは開けられたというよりも、扉が独りでに開いたように見える。
🧸「えっと、これ私も入って良いんでしょうか…?少し不安ですが…」
リナ「良いと思いますよ。」
シュウシュウとした歯擦音が耳を打つ。 室内には無数の黒い蛇が這い回っていた。 不安定に点滅する照明、窓も家具も覆い尽くす黒い蛇。
部屋の中央、蛇たちに縛られ吊り下げられるように1人の少女がいる。
「……マリア!」
恐怖で麻痺しかけていた喉を振り絞って、リナが彼女に上擦った声を掛ける。
マリアと呼ばれた少女はゆっくりと顔を上げ、リナの姿を認めると苦々しく笑う。
「リナは、ズルい……よね、いつも」
「いい子で、可愛くて頭もよくてさー……」
「なんでリナばっかり。あたしたちずっと一緒の学校で、一緒に勉強してたのにリナばっかり」
「あたしはリナの引き立て役ってこと? これからも?ふざけんなよ」
黒い蛇たちが動きを止め、一斉にリナを見た。
「リナはなんにも悪くないの。だから本当に嫌になるの」
「全部あたしが悪くて、でもこの気持ちが止められないよ」
「なんであたしばっかりこんな思いをしなきゃいけないわけ? どうしてこんなに苦しいの!?」
半ば悲鳴のように吐き出された憎悪の後に、 はっ、と小さな自嘲を浮かべる。
「……あたしと同じ地獄に落ちてよ、リナ。
あたしに会ったのが運の尽きよ」
リナ「待って…マリア…マリア…!!」
悲痛な叫びをあげるリナの腕を引き、襲いかかる黒蛇からの攻撃を庇う。
この状態の相手に言葉は通じない。
……が、それにしても違和感がある。
仮に幼馴染への嫉妬に焼かれたとして、ここまでの悪意を抱けるものだろうか?
もしかしたら別の悪意に取り込まれて、嫉妬心が増幅されてしまったのか。
マリアの室内にある木枠の鏡から強い悪意を感じる。
これにより木枠の鏡に攻撃できるようになる。
探索者(恋歌) DEX16、HP17(装甲4)
蛇の群れ DEX8、HP(該当なし)
リナ DEX15、戦闘不参加(敵からの攻撃は探索者が庇う)
木枠の鏡 DEX(該当なし)、HP3
探索者が木枠の鏡を攻撃すれば、鏡面は枠もろとも砕けて折れた。
すると部屋を埋め尽くしていた黒蛇たちが煙となって消え、括られていたマリアの身体も床へ落ちる。
「マリア!」
すぐにリナが彼女へと駆け寄った。
マリアは酷く疲弊しているようだったが、リナを見上げるその目には先程と違って正気が戻っている。
「……リナ、違うの、違うの……ごめん。あ たし、おかしかったの……」
「いいよ、分かってるよ!」
途切れ途切れにマリアが言う事には、数日前にデザインを気に入って木枠の鏡を買ったのだという。
しかし、それ以降なぜかリナの良いところが疎ましく、憎く感じてしまうようになった。 鏡を見る度に自分の醜さばかりが見えた。
それが真実なのだと、なぜかそう信じてしまっていた。
謝罪を続けるマリアを、リナは抱きしめる。
「助けあげられて良かった。呪ってくれてありがとう」
「……ちょっとリナ、何も良くないでしょ!」
「でもマリアのこと気付けたし、魔法使いさんにも助けてもらえたからさ」
終わり良ければ全てよし、と笑うリナを少し呆れたように見ながらマリアも小さく笑った。
きっとこの2人はもう大丈夫だろう。
念の為に木枠の鏡の残骸は回収し、2人が夕飯に向かうタイミングで探索者も帰路についた。
🧸「…さて、私は帰りますね。さようなら 」
【☆を獲得。記録しておくこと】
今日の1日が終わった。
過去には夜間にパトロールしたこともあったようだが、今日のところその予定がない。
見覚えのない、見慣れた街
見覚えのない、見慣れた事務所
探索者は元の世界に戻りたいと思うのか、それともこちらの世界に馴染んでいくのか。
なにはともあれ、眠りにつくことになるだろう。
探索者は夢を見る。
赤い空の下、探索者は果樹園のような場所にいる。
果樹園のように……等間隔に気が植えられている場所に立ち尽くしている。
鉄錆に似た匂いがする。
ただ、それだけの夢だった。
真夜中に、酷い吐き気を覚えて目を覚ます。
身体の中が気持ち悪い。
まるで内臓を出鱈目に掻き混ぜられ泥を詰め られたかのようだ。
洗面台で吐こうとしても、喉奥に苦い味がす るばかりでなにも吐き出せない。
【SAN値チェック0/1d3】
【DEXを-1d6する】
DEX 16→15
諦めて寝室へ戻る途中、事務所の方に明かり が点いている事に気づいた。
確かに眠る前に消したはずだ。
🧸「…不審者?、…見に行くか…」
探索者が事務所を覗けば、そこには誰もいない。
ただ、机の引き出しにあった木箱が部屋の中央に置かれていた。
……ハルニレの木材で作られた木箱だ。 蓋には探索者の名前が書かれている。 探索者の記憶の中に、この世界の自分の記憶が混ざり込む。
この箱の中には『依代』を入れてある。
呪術師は危険な仕事だ。
だから、受けた呪いを代わりにこの『依代』 に押し付けている。
また、必要な魔力やコストを『依代』から引き出して使っている。
便利な箱だ、しかし絶対に中身を見てはいけない。
中身を見れば効果はなくなり、今まで押し付けた呪いが自分に返ってくるから。
この箱は開けられず、壊せないようになっている……製作者である自分以外は。
🧸「戻すか…、寝る前に間違えて出したのかな…」
貴方は何事もなかったかのように木箱を引き出しへと戻して、寝室へ戻った。
呪いの発動条件として「認識する」のは十分すぎるものだ。迂闊なことはできない。 普段から呪術を扱う以上、たった一度の例外でも破滅に繋がり得るから。
あなたは寝室へ戻ってきた。 まだ腹の奥がグルグルとする。 せめてこの不快感をこれ以上感じないために、再び意識を眠りの中へと押し込む。
翌日、探索者は雨の音で目を覚ました。
寝室を出て窓から外を確認すれば、赤い雨が降り注いで街を濡らしているところだった。 ラジオでは確か『10時から2時間ほど』と言っていたが、予測より早くから降っているらしい。
街全体が、どろどろと赤に塗れていく。 その光景に探索者は思い出しそうになる。 考えてはいけないなにかを。
(勘だけ鋭いバカ(INT18)面白いな)
赤黒い風景だ。
事務所にいたはずの探索者は、気付けば赤い雨の降りしきる夜の荒野に立ち尽くしている。
ここは果樹園だろうか。
等間隔に植えられた木が見える。
やけに温い雨が身体を叩く感覚に、探索者はこれが夢ではないと実感する。
……夢ではない、ならなんなのだろうか。
【SAN値-1d20】
【SIZ+1d2、APP-1d6】
(不定、短期はこの状態だと何も出来ないので除外します)
APP 15→9
SIZ 12→14
歩こうとしたのか、しゃがもうとしたのか。
どちらにせよ探索者はそれができないことを知る。
自分の足元を見下ろす。
自分の足を見る。
そこにあったのは、深く張られた木の根だ。
探索者の腰から下は完全に樹木と化していた。
【SAN値チェック1/1d3】
(さっきのネット回線悪くて一番最初に出た出目が7だった。どうしよう…まぁ15でいくか)
なぜだか、ずっと前から自分はこの事を知っていた気がする。
自分は最初からここにいたような。
顔を上げれば、目の前にある木と『目が合う』。
その木は狂気と無気力でドロリと濁った眼差しをこちらに向けた。
変わり果てているが、その姿には見覚えがある。
あの街で会ったことがある。
ここにいる全ての木……全ての人に。
赤黒い風景の中に、木へと変貌し続ける運命の犠牲者たちが立ち尽くしている。
最初からこの場所が本当のハルニレ通りだった。
探索者にできることはなにもない。
雨が上がり、朝が来て。
そして再び夜になり異国の星空が天を埋めても。
次の朝が来て、夜が来る。
少しずつ探索者の身体は樹木へ変化していく。
助けを求めたとしても、周囲の木は応えない。
樹木になったからか、餓えや渇きにより死ぬ心配は無いだろう。
……死ぬことすら、許されないだろう。
恐怖心、混乱、怒り、悲しみや寂しさ、後悔。
意味など無いと知りつつも喚き散らしたり。
なにをしても無駄だと気付くのに時間はそう掛からない。
目の前の木が目を閉じて、長い時間が経った。
もしもまだ時間感覚が残っていたのなら25年は経っていると分かったかもしれない。
探索者の身体はさらに樹木として育ち、変質している。
まだ上半身は動くものの、口は無くなってしまった。
【SIZ+3d6】
【DEX-1d6、APP-1d6】
SIZ 14→28
DEX 15→12
APP 9→8
🧸「(何年経ったっけ……、もう、帰れないか。…足掻けるだけ耐えるけど…)」
単調に引き伸ばした環境の中、思考は鈍く停滞している。
それは防衛本能なのかもしれなかった。 もっとも、この状態で何を守ろうというのか?
全部無駄なのに。
【INT-1d6】
【POW+1d3】
【SAN値-1d10 (1以下にはならない)】
朝が来て、夜が来る。
時折、赤い雨が体を濡らす。
この場所は忘れ去られたように誰が訪れることもない。
INT 18→14
POW 14→17
さらに星空が回り、星座も見飽きた。
探索者の面影はほとんど残っていない。
身体はさらに醜く大きく育ち、昼間は大地に長い影を落としている。
繰り返し思い出した記憶も擦り切れ、僅かな眠りの夢の中でさえ今の光景が見える 。
周囲の木々……侵蝕が続き、最早ただの木に しか見えない。
しかしあれらの木の中には人間の意識が永遠に囚われ続けているのだ。
今の探索者と同じように。
いつになれば終わるのか、なんて考えさえ朽ち果てた。
簡単な話、永遠に今が続くだけだ。
【SIZ+4d6】
【INT-1d6】
【SAN値-2d10 (1以下にはならない)】
(計算ミスしてるよ自分)
SIZ 28→45
INT 14→9
どれだけの時間が経ったのか。
時間という概念を使うことさえよくわからなくなった。
どうせ人間が勝手に定めたものだ。 この世界には人間の理解を超えるものはいくらでもある。
両目も潰れ、耳も塞がった。
暗闇の中にいるが、どうせ五感はあってもなくても同じだ。
何も変わりはしない。
ここまで手遅れになって、一体何が望めるのか。
【SIZ+5d6】
【POW+1d3】
【SAN値-5d10 (1未満にはならない)】
あなたの魂はこの巨大な樹木の中に縛り付けられている。
人間としてのせいよりも、地獄のようなこの 時間の方が長くなった。
世界からも見棄てられて随分経つようだ。
必要とされることはなく、あなたも必要としない。
そこにいる。
(減少量7でもこれは1になるね。15だろうが7だろうが変わんないや)
SIZ 45→67
POW 17→20
暗闇が続く。
あなたの右腕が斬り落とされた。
『右腕』という認識が未だ残っていたのか。
痛みは無く、希薄化した喪失感と、曖昧な困惑がある。
やがて左腕、首、胴体もバラバラにされた。
散らばる欠片それぞれにあなたの意識がある。
たくさんのあなたはこの呪われた大地から数百年ぶりに解放され、どこかへと運ばれていく。
どこへ行くのだろう。
あなたは本棚へと加工されて町の一室に設置される。
あの荒野よりも賑やかな場所で、あなたの内に本の心地良い重さが差し込まれていく。
日が巡り、季節が巡る。
頑丈なあなたは主人を転々とし、その度に異なった知識をその身に受け入れる。
ある時、本棚であるあなたの前に一冊の小説が落ちる。
開き癖が付いていたのか、あらわになったページの内容を認識することができた。
足の無い男がいた。
その男が語るには、ジャングルやルウェンゾリ山脈を超えた先の未開の地で悍ましい体験をしたのだという。
そこには赤い神が居て、神に奉じる動く屍たちと、生きながら木へと変貌した被害者たちがいた。
動く屍たちは赤き神の秘薬を男にも飲ませ、 男のことも木へと変えようとした。
幸い、男は仲間に助けられ、木の根と化した両足を切り落として連れ出してもらい助かったという。
だが、切れた両足からは未だに触手のような木の根が伸び続け、定期的に切らなければならない。と言って異形の両足をこちらへ晒した。
あなたは食器へと加工され、カフェに並べられる。
熱いものや冷たいものを乗せられ、客へと提供される毎日。
客の持つフォークの先端があなたの表面をな ぞって料理を追いかけた。
楽しげな談笑、穏やかな声。
あなたは彼らを見上げ、テーブルの上に横たわる。
遠くからぼんやりとラジオが聞こえた。
「赤い雨が……」
あなたは少女の自室に置かれた机となる。
小学校の入学と共に購入され、少女が少しずつ成長していくのを眺めることになる。
元々樹木であったあなたにとっては大して長い時間ではなく、少女……女性が家を出ていった後に廃棄される。
どこかであの少女の姿を見たような、と今更思う。
記憶はとうに朽ちて、うまく思い出せない。
ゴミ捨て場前の壁に、赤いペンキの落書きを見つける。
『Who put “you” in the Wych Elm?』
誰が「あなた」をハルニレの中に入れたのか。
あなたはゴミ捨て場に打ち捨てられた紙片だ。
その身には悍ましいほどの呪詛が込められている。
……どうして自分が苦しまなければならないのか。周りも不幸になればいい。
あなた自身の意思と関わらず、紙に記された感情が鮮烈にあなたを穢す。
長期の空白で漂白されていた心が、憎悪を吸い上げて黒く染まっていく。
悍ましい悪意が、じっとゴミ捨て場で待っていた。
誰かがいつか……あなたを拾い上げるだろうか?
あなたは引き出しの中へしまい込まれた木箱だ。
中には壺が入っていて、さらにその中では絶えず穢らわしいものが渦巻いていた。
それが呪術師により一方的に押し付けられて行き場を無くした「憎悪」であり、大量の 「呪詛」であることを知っている。
引き出しが開かれ、明かりが差し込んでくる。
あなたを見つけ覗き込んでいるのは……自分だ。
過去の自分があなたを見つけた。
もしかしたら、目の前の存在に成り代われる かもしれない。
この境遇も呪詛もコイツに押し付けて、ここから逃げ出せるかもしれない。
しかし何かを察知したのか。
過去の自分が箱に触れることはなく、再び引き出しは閉められる。
そうだ、このままここにいては開けてもらえない。
もっと目立つところに行かなければ。
あなたは式神の一匹へと意識を集中させた。
久しぶりに、自分から世界へと働きかけようとした。
(聞き耳のところでクリチケ使ったの後悔してます)
……どんなに呪っても祈っても届かない。
物理法則を捻じ曲げるには、まだ意思の強さが足りない?
虚しさ、無力感はすぐに呪いに飲み込まれる。
憎い、どうして。
なんで『あの自分』は助かったんだ?
狂気があなたを苛立たせ、冷静な判断が燃え尽きる。
【憎悪以外の感情を全て失う】
あなたの意識は呪いを帯びて、再び暗闇の中へと落ちていく。
机上に置かれた鏡の破片がチラリと光る。 聞き覚えのある少女の声があなたを呼ぶ。
「______!」
……なんと言っているのか。
憎悪で塞がれたあなたの心に届かない。
探索者はどこか見覚えのある薄暗い場所にいた。
狭い空間ではないようだが、埋められた棺の中のように空気が腐敗して淀んでいる。
自分の姿を確認するならば、柔らかな皮膚に覆われた人間の形をしていると分かる。
手足が動く。
歩き方は覚えているだろうか。
もし、声を出そうとするなら口から言葉を発
することもできるだろう。
幸か不幸か、壊れた心に少しだけ正気が戻る。
【探索者の能力値をSAN値以外、元の値に戻す】
【SAN値+1d10】
(わーい!!!)
不揃いに灯る蝋燭の火に照らされる室内……大きなホールとでも呼ぶべきか……を確認するなら、この空間が1つの部屋を無限に増殖させて合成させた歪な場所であると分かる。
天井や壁にバラバラに描かれている赤黒い魔法陣。
溶けて混ざりあったような動物の頭蓋骨。 壁にめり込んだ木彫人形。
探索者は元となった部屋を知っている。
自分が儀式を行ったあの小部屋だ。
重力など無いかのように、あの一室が出鱈目に繋ぎ合わされて広がっている。
🧸「(…元の世界に戻ったのか?、というより…あの世界へ来る前の光景、走馬灯?)」
それだけじゃなかった。
探索者の足元で柔らかな何かが踏み潰され、 破れた皮から変色した体液が流れる。
腐った人間の死体だ。
それは探索者の物もあり、憎い『あいつ』の物もある。
ホール中の壁や床にめり込んで、家具と同化して白濁した目を剥いている。
1つの死体から二人の首が生えていたり、恋人のように抱き合って同化していたり。
腐敗して膨張した腹部からガスを漏らし、ボトボトとどちらのものかも分からぬ臓物が落ちてくる。
……探索者の心が壊れていたとしても、多少動揺するかもしれない光景だ。
【SAN値チェック0/1】
🧸「(うわぁ……)」
探索者や『あいつ』の死体は数多あれど、生きて動いている存在は自分しかいないようだ。
この狂った空間の果てはどこにあるのか?
方向感覚も何もあったものじゃない。 ベシャベシャと降ってくる液体は蝋燭か、遺体の汚物か。
どうでもいい。
息苦しさの中、探索者は進んでいく。
ふと、眼の前に光が見えた。
見間違いかとも思う。
出鱈目な空間の中、唯一正しい向きで置かれた机。
その上に鏡が1つ置かれている。
鏡の中には夜の室内と少女が見える。 彼女は嬉しそうに笑って、鏡へと話しかける。
「やっぱり!この部屋に合うと思ったんだ」
「今度リナが遊びに来たら見せてあげようかな」
ハンカチで鏡面を拭き、マリアと呼ばれていた少女が呟く。
「どうか、あたしを幸せにしてね」
(憎悪しか感情ないならマリア呪いそう…今予想だけどロストに片足突っ込んでるんだよな、まぁ…POW×5振るか)
(アッ(察)また長文本文入ります。要約するとまーた木になっていろんな人呪ったよ。自分にも買われた、そうだ自分の意識に取り込もみたいな(!?))
探索者としての自我より先に迸ったのは呪いだった。
あなたは憎悪に操られる人形、自分の感情をせき止めることができない。
今更手を差し伸べられても、掴めるわけがないんだ。
差し伸べられた手ごと憎んで、呪って壊すことしかできない。
……それで止まれるくらいなら、最初から呪いになど縋らなかったさ。
どこか遠くで鏡が割れて、ホール内に完全な暗闇が満ちた。
再びあなたの肉体は人間の形を失い、溶けだすように世界へと連れ戻されていく。
あなたは一挺のヴァイオリンへ加工される。
数多の奏者に奏でられ、その度に憎悪を浴びせて不幸にしてきた。嫌悪と恐怖を込めて 「呪いのヴァイオリン」と呼ばれることもあった。
そして……数十年前に今の奏者の手へと渡る。
彼は慣れた手つきであなたを抱えあげ、今のあなたにとっては耳障りな程に美しい音色を奏でる。
にこやかに聞き惚れている観客たちが憎い。
あなたの意思に反して、楽しげな演奏を続け る奏者が憎い。
愉快な音を立て続ける自分自身が憎い。
弦が一本切れた。
奏者は驚きながらも、弦を張り替えて演奏を続けるだろう。
あなたは鏡の木枠に加工され、店に届けられた。
他の人間達の生き生きとした暮らしに触れるほどに、自分との落差を感じて憎しみが沸い て出る。
いっそ誰も居ない、あの荒野に戻してほしいとさえ思う。
それか、いい加減に殺してすべて終わらせてほしいと思う。
どちらも叶わず、あなたの懇願もすぐに憎悪が塗り潰していく。
ある時、1人の平穏そうな少女があなたを手に取り購入する。
丁度いい、この憎しみを全部コイツに向けてやろう。
あなたは建物の床板として用いられた。
たくさんの足が動けないあなたを踏みつけていく。
そんな当たり前のことですら憎悪に満ちた心を逆撫でする。
意識が沈む。視点が沈む。
床板の下、土の下。
そこにはどこまでも醜く絡まり、無数に広が る歪な木の根が伸びている。
地上の上辺は綺麗な世界も、どこへも行けない樹木人たちの空想に過ぎない。
ばしゃり、とあなたの上にベタベタとしたジ ュースが零された。
驚きの声と、誰かのよくあるミスを笑う声。
床を拭かずに彼らはどこかへ行った。
じわじわと染み込む不快感、虫の羽音がする。
あなたはボールを打つバットになった。
賑やかな子供たちの声がブワブワと身を撫で て気色悪い。
いっそのこと誰か人の頭でも叩き割ってしま えばいい。
或いは、もう折って捨ててくれれば。
呪いだけが芯の中に溜まっていく。
ある時、あなたで打ち出したボールが予期しない方向へと飛んだ。
向かう先は聖堂のステンドガラス。
本来であれば届かないはずの場所へ届いたのは、偶然なのか、それとも。
大人に怒られることを恐れた子供たちの声が、ガラスの割れる音に重なる。
ただガラスが割れただけ。
しかし歪な均衡で存在していた仮初の『ハルニレ通り』はその一点から崩れだす。
聖堂内から蠢く赤い泥が溢れ出し、中にいた住人たちや周囲の子どもたち全て巻き込み、 取り込んでいく。
一本のバットでしかないあなたは、言うまでもない。
聖堂におわす神『マスター』は手ずからハルニレ通りの壊れた全てを修復し、元通りになる。
書き換えられた時間の中で子供は遊び続ける。
この空間に終わりは存在できない。
あなたは波間に揺蕩う木造の小舟だ。
防腐処理が適当だったのか海水が染み込み、 船底がふやけて腐っていくのを感じる。
冷たい水に漬けられてぐらぐらと揺らされる中、ブツブツと呪詛を呟くように泡を吐き出している。
あなたの憎悪は小さな死を撒きながら深く冷たく沈んでいく。
誰にも気づかれない間に、平穏な生活のすぐ隣で。
あなたは異国のなんらかの神を象った木彫り人形だった。
どんな意図で誰によって作成されたのか?
なんにせよ、あなたは「あなた」に購入された。
全ての始まりである儀式の場に並べられることになる。
床に大きく描かれた赤黒い魔法陣。
知らない動物の古びた頭蓋骨。
わざとグチャグチャに腐らせた卵。
複数の香草を練り込んだ黒い蝋燭。
そして、呪詛を唱え続ける「あなた」の姿。
はたから見れば酷い姿だ、到底正気とは思えない。
憎悪に突き動かされるままに儀式を続ける姿は、どこか操られているようにも見える。
これまで以上に状況は整えられている、これを逃せば永遠に人間には戻れないだろう。
今度こそコイツに成り代わらなければ。
(アッ……シナリオ文に失敗(ロスト)と書かれてる)
眼の前で呪詛を唱え続ける「自分」は隙だらけだ。
あなたが成り代わろうとした瞬間、別の何かに邪魔をされる。
それは床で燃えている蝋燭だ。
蝋燭となった別のあなたが同じく憎悪を抱いて「自分」の中へと入り込む。
蝋燭だけではなかった。
あなたを材料に作られた本たちが奪い合うように「自分」の肉体を、脳みそを奪い合う。
あなたを喰らって育ち死んだ動物の骨が、蓄積されていた呪いを「自分」へと向ける。
この部屋には無数のあなたが居た。
そのどれもが想像を絶する憎悪でもって、たった1人の人間の身体を奪い合い、八つ裂きにしようとする。
決して広くない室内に、風の無い嵐のように悪意が吹き荒れる。そのどれもがあなただ。
最低でも何百年かの間、憎悪だけを抱いてきたあなたが大量に、全ての時空から拒絶されてこの狭い部屋に閉じ込められている。
世界はあなたの憎悪から守られている。
呪詛の声が密閉した室内へ反響する。
呪詛の対象は憎い『あいつ』か、それともあなた自身か。
幾重にも掛けられた呪いが返され、さらに上から掛けられる。
あなたがあなたを呪って始まり、そして再びあなたを呪う。
増えることはあれど減ることのない螺旋。
終わることなくどこまでも繰り返されて部屋に憎悪が、あなたが増えていく。
繊維の一本一本、大気の中にまで、それぞれのあなたが混入し全てを呪い続けている。
一欠片でも外の世界に漏れれば、瞬く間に憎悪で世界を飲み込むだろう。
……或いは、あなたは最早邪神とでも呼ぶべき存在かもしれなかった。
室内に居た「最初の自分」は何度も死に、死にながらも並行世界を増やして『存在』を遺し続ける。
その瞬間が取り返しのつかない地獄の原点だ。
ここから先に語ることは無い。
人知れず、果てなき膨張を続ける憎悪があるだけだ。
END:H
探索者ロスト
後遺症:【箱の中の獣】
探索者は存在自体が呪いとなった。
もはや邪神の域であり、封印を解かれれば世界を滅ぼすだろう。
同じ名前のPCは今度作れない(苗字、読みが同じなどは可能)
作者(中の人)の戯言
フラグ回収しました。マジでさぁ…なんであの時クリチケ使ったんだろ…
まぁ私の卓は邪神でも探索者になってる奴が居ますし恋歌が上手く呪いとか力制御出来るようになったら継続探索者になるかもですね。ステータスわからん穴の中の獣ってなんすか( ᐛ )
人を呪わば穴二つ、罰当たりでも食らった並に不遇でしたね。
「あの世界で救済者だった者は、この世界では”呪い自体”でした。」
コメント
16件
中人)……あっ……リアル知識があまりに悪い方向に働いた()すごいなぁ……なんか運命感が……
次回は面白そうな「闇医者マニュアル」か「ある種の解です」をやろうと思ってます( ᐛ )マニュアルの場合新規探索者かなぁ…闇医者うちの子にいない…