全員が良い感じに酔ってきている。 ペースを守り続けていた自分もほろ酔いといった所だ。
しかしテーブルを挟んで前に座っている田中先生は全くのシラフに見える。酔いすぎた演技を披露している女性の先生の相手をクールにこなして、また1人と堕としていく。
無自覚なのがまた罪を増している。
飲みに来る度に見せられてきたこの光景には慣れているはずなのに今日は心がモヤモヤとしてその気持ちが晴れる予感が全くしない。飲みすぎて感情の制御が効かなくなっているのだろうか。
「祥平先生も酔ってきました?」またもや唐突に田中先生に問いかけられる。急すぎるので少し予兆を出して欲しい。
「ちょっと…笑」嫉妬した気持ちを全く悟らせないよう、にこやかに答える。
「田中せんせ〜い!私飲みすぎちゃいましたぁ〜」女性の先生が田中先生の肩にもたれかかる。よくある色仕掛けだ。
「家までお送りしましょうか?」田中先生特有のたらし込むような優しさを1人の女性に思い切り出している。この先生はそんな優しさを受け取って本気になる他無い。
胸が痛い。ズキッと痛むような感覚に少し戸惑いを覚える。だがその原因が田中先生である事には理解が追いついた。触れているのはあの先生なのに憎らしく思うのは田中先生。どうにも気分を害する感情が次から次へと湧き出てくる。
折角の飲み会がこれでは台無しになってきてしまう。グラスに残った酒を一気に飲み、これ以上黒い気持ちが心を満たさないように財布を取り出し帰る用意をした。
「祥平先生?帰るんですか?」その素直に疑問を抱いているような顔をする田中先生はきっと俺の心の内を全く理解していないのだろう。
「はい。少し片付けたい仕事があるので」自分に嘘をつく才能があるのではと少し思ってしまう。その瞬間、目の前がグラグラと揺れだした。
(やばい…でもなんで?さっきの酒……)さっき飲みきったグラスは他の先生の飲んでいるものだった事に気付いた。
(アルコール度数、そんな高いのかよ……)頭が痛み、視界はぐにゃりと曲がって見える。
「祥平先生?大丈夫ですか?」
瞼が徐々に重くなり、逆らおうとしたがそこで視界は閉ざされた。
ゆっくりと目を開けると白い天井が真っ先に目に飛び込んできた。
(ここは…昨日は……俺…っ!)居酒屋で眠る前に見ていた光景が鮮明に頭に浮かび上がった。
「起きましたか?水飲みます?」横には田中先生がこちらを向いて座っていた。
「ありがとう、ございます…」
状況を理解できないまま体を起こし、水を受け取った。
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